オータムリーフの部屋

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個体側の脆弱性

2014-08-26 | 原発
2011年3月の福島第1原発事故に伴う避難生活中に自殺した女性の遺族が東京電力に約9100万円の損害賠償を求めた訴訟で、福島地裁(潮見直之裁判長)は26日、事故と自殺の因果関係を認め、東電に計約4900万円の賠償を命じた。原発事故後の避難住民の自殺を巡り、東電の賠償責任を認めた初の司法判断。
 原告は、渡辺はま子さん(当時58歳)を失った夫の幹夫さん(64)と子供3人。
 訴状などによると、原発事故後の11年4月、自宅があった福島県川俣町山木屋地区が計画的避難区域(当時)に指定され、福島市のアパートでの避難生活を余儀なくされた。同年7月1日朝、はま子さんは一時帰宅した自宅の庭先でガソリンをかぶって火を付け、死亡した。遺族は12年5月、自殺は原発事故が原因として提訴した。
 遺族側は、はま子さんが抑うつや食欲減退などうつ病の兆候を避難後に示すようになったと主張。「原発事故による生活環境の激変で、死を選択せざるを得ない状況に追い込まれた」と訴えた。これに対し東電側は、はま子さんが事故前に精神安定剤を使っていたことなどを指摘し、「因果関係の認定には総合的な判断が必要」と反論していた。
 原発事故後の自殺を巡っては、国による原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続き(原発ADR)で遺族と東電が慰謝料の支払いで和解したケースもある。今回の訴訟で潮見裁判長は双方に和解を勧告したが、遺族側が「判決で東電の責任を明記してほしい」として応じなかった。【喜浦遊】
 
渡辺さんの原発事故後の自殺に東京電力の責任があるかを争う裁判の第3回口頭弁論において、東電は驚くべき論理を展開した。
東電代理人は、 「個体側の脆弱性も影響していると考えられるから、考慮した上で相当因果関係の有無を判断すべき」 と主張したのである。渡辺さんの弱さが自殺の原因だと主張し、その渡辺さんの弱さを、「個体側の脆弱性」 と表現した。被害者を人間としてではなく単なる「個体」としか見ていない言葉だ。
 
「ストレス-脆弱性」理論とはもともと労災認定の判断基準を示す理論だ。この理論は、環境由来のストレス(業務上又は業務外の要因による心理的負荷)と個体の反応性、脆弱性(個体側要因)との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方で、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に個体側の脆弱性が大きければストレスが弱くても破綻が生じるとするものだ。業務起因性を判断するに当たっては、それらどの要因が発病に有力な原因になったかを総合判断する。そのうえで、心理的負荷の強度は「多くの人が一般的にはどう受け止めるか」という客観的な基準によって評価される。
 
 「庭で草花を育て、心優しい妻だった。しかし、家族はバラバラになり、仕事も失い、女房は先行き不安から鬱状態になってしまった。」 福島の地元で育ち、夫婦で近所の養鶏場で働きながら子供を育て上げ、立派な家を建て、家族で仲良く穏やかな老後を過ごそうとおもっていた。しかし自宅は避難区域になり仮設住宅に入り、子供達とも別居し、養鶏場も閉鎖されて職も失ってしまった。いつ元の家に帰れるか分からない仮設での生活や、住宅ローンや職をどうするかで希望を失って、絶望してしまったのだろう。「もう仮設には戻りたくない」と言った翌朝の焼身自殺。60年の人生が無になった絶望感、年齢的に再起できないと考えたであろう無力感、はま子さんの絶望感は計り知れない。
 このように24時間襲ってくる生活にかかるストレス、人生にかかるストレスを一般労働者にかかるストレスと同一視し、個体側の脆弱性云々と言う無神経さに改めて驚く。労働者の場合は職場を辞めればそのストレスからは解放されるが、被災者に元の生活に戻るという選択肢はないのである。
 
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が原因とみられる福島県内での自殺に歯止めがかからず、今年は5月末までに8人が命を絶った。平成23年6月の統計開始からの累計は54人に上る。福島、岩手、宮城の被災3県の震災関連自殺は、今年に入って岩手、宮城両県はそれぞれ1人統計開始からは岩手県24人、宮城県18人となっている。今年に入っての福島県内の自殺者は60代が最も多く4人、次いで50代3人、30代1人となっている。「健康問題」が最多で5人。「家庭問題」と「経済・生活問題」がそれぞれ2人だった。

 県保健福祉部の担当者は「生活再建や帰還時期のめどが立たなければ、(県内の)自殺のリスクは減らない」と指摘する。
 県内では今後、災害公営住宅の整備が進み、避難者が再び各地に分散する。このため、県は市町村や関係団体と引きこもりやアルコール依存などについての避難者の情報を共有し、訪問活動を強化する方針だ。お金で苦しみが少しでも緩和されるなら、50%ルールなどで値切ることなく速やかに対処すべきだろう。
 
 (福島原発事故の賠償問題を担当している「原子力損害賠償紛争解決センター」が、避難中に死亡した人の遺族に支払う慰謝料を不当に減額していた。原発事故が死亡の原因となった度合いをほぼ一律に「50%」と決め、センター側は100%払うべきケースがあった事を認めながら、迅速な対応を優先してそのまま50%の慰謝料を支払っていた。しかも、被災者の方はこのルールを知らないまま妥結・妥協していたと報道されている。)

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