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巨大クジラ、漁業資源の増殖に貢献?

2014-07-18 | 環境
海洋生物学者はこれまで、クジラの存在を軽く見ていたようだ。クジラは、図体は大きいが、海洋生態系の中でほとんど何の役割も果たしていないと考えられてきた。ところが、それが大きな間違いであることが、最近の4カ国合同調査でわかった。米国、カナダ、オーストラリア、ドイツの大学や研究機関に所属する、10名の海洋学者が合同で行なった今回の調査で、クジラが海洋生態系の中で重要な役割を果たしていることがわかった。海洋学者たちは、その役割を「クジラ・ポンプ(whale pump)」と名づけている。

マッコウクジラやヒゲクジラなどの巨大なクジラは、深海に潜って、驚くほど大量のプランクトンやイカ、小魚などを食べる。そして、海表面に浮かび上がって糞をする。その糞は、海表面近くにいるプランクトンの栄養源になり、それで育ったプランクトンは魚のエサになる。こうして見ると、クジラが、深海にある栄養物を海表面に運ぶ役割を果たしていることがわかる。クジラは、ちょうどポンプのように、海洋の栄養物を循環させるのを助けている。これを海洋学者たちは「クジラ・ポンプ」と呼んでいる。
 また、多くの大型クジラは繁殖のために長距離を移動するが、この時さまざまな栄養成分を運んでくる。遠く離れた繁殖海域にもたらす養分は、栄養分に乏しい海域では貴重な資源となる。クジラの胎盤も、他の生物にとっては食料源として活用できるという。こうしたクジラの回遊を、海洋の隅々に栄養成分をもたらす「コンベヤーベルト」に例えている。

 クジラは死後も他の生物の役に立つ。このような巨大な哺乳類が死ぬと、その遺体は海底に沈み、ヌタウナギやカニ類から海生の環形動物まで、独特の生態系を構成するさまざまなスカベンジャー(腐肉食動物)のエサとなる。(人間が)あまりに多くのクジラを捕獲したため、これらの(スカベンジャーと呼ばれる)動物には、存在を確認される前に絶滅してしまった種もいたと推測される。
 クジラの死骸も住み心地が良いらしい。その命を全うして巨大な体を海の底に横たえるとき、深海の生物たちにとって、脂肪や骨など、大量の“ごちそう”が手に入るチャンスとなる。1頭でみんなが数十年は暮らしていけるという。

 マッコウクジラやヒゲクジラの数は、捕鯨によって66%~90%近く減少した。クジラがいなければ「クジラ・ポンプ」や「ベルトコンベア」は働かず、海の生態系は狂ってしまう。
クジラのような大型捕食動物が存在する方が、生態系における魚類の個体数が多くなると指摘する学者もいる。

 タラやマグロといった捕食性の大型魚が過去1世紀で3分の2も減った一方、被食魚であるイワシやカタクチイワシなどの小型魚は2倍以上に増えている。大型魚の乱獲が小型魚の爆発的な増加を招いたのだ。カナダ、バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学で水産学を専門とするビリー・クリスチャンセン氏は、「ネコがいないとネズミがのさばる」と例える。
 小さな魚の急増は漁業にとってプラスに思えるかもしれないが、「人間が利用できるのは一部の種にすぎない」とクリスチャンセン氏は指摘する。「漁師が見向きもしない小さな種が多い。せいぜい養殖魚の飼料か魚油に加工するくらいが関の山だ」。クリスチャンセン氏らは世界中の海洋生態系モデルを200個以上分析し、1880~2007年の魚の数を推定した。すると、捕食魚の減少はその54%が過去40年間に起きていることがわかった。
「北大西洋のタラが典型的な例だ」と同氏は話す。「数百年にわたり、1シーズン20万~30万トンという持続可能な漁が続けられてきたが、持続不可能な70万トンまで一気に増加した。乱獲をやめてから20年になるが、いまだに回復していない」。
小型魚の急増は大型魚の減少で生じた自然の不均衡を増幅させる恐れがある。「捕食魚が大幅に減少した生態系は不安定になる傾向がある」とクリスチャンセン氏は指摘する。「捕食魚なしでは、病気や弱い個体が排除されない。陸地の生態系を見ると、同様の状況では種の激減が多発する」。
 
 クジラは網にかかった魚を食べてしまうとして、漁業従事者からは目の敵にされることが多かった。特に日本政府は「クジラが我が国の漁業の脅威」になっているため捕鯨は必要だとする、極端な主張を展開してきた。国際舞台で捕鯨に関する交渉に携わった人物の1人、小松正之氏は、2001年にオーストラリア放送協会(ABC)のインタビューでミンククジラの個体数は「多すぎる」と指摘し、これを「海のゴキブリ」と呼んだことで物議をかもした。 大型クジラは徐々に復活を遂げている。現在、マッコウクジラの個体数は100万頭、コククジラは数万頭に達している。しかし、地球上で生息が確認されているものとしては史上最大の生物であるシロナガスクジラについては、個体数回復のペースは遅い。実際、現在の個体数は、南半球におけるもともとの生息数の約1%にとどまっている。こうしたシロナガスクジラの不在により生態系が変化し、同じ海域に住む他の生物も生き延びるのが難しくなっていると考えられる。
 
 南極半島の西側とスコシア海に住むペンギンの個体数が、過去30年で最大50%減少していることが、新たな調査で明らかになった。この急減は、ペンギンの主食であるオキアミの不足によるものとみられる。オキアミは同地域での気温の上昇と大食漢のクジラの個体数増加により数が減っている。カリフォルニア州ラホーヤにある米国海洋水産局に所属する漁業生物学者のウェイン・Z・トリベルピース(Wayne Z.Trivelpiece)氏は、1970年代からヒゲペンギンやアデリーペンギンのコロニーを調査している。  トリベルピース氏は個々のペンギンに定期的に識別バンドをつけてその動きを追う研究を通じて、個体数急減の主要因をつきとめた。それによると、エサのオキアミを見つけるのが難しくなっているため、生後1年未満の若いペンギンが最初の冬を自力で越せずに終わるケースが激増しているのだという。
 「1970年代や80年代半ばであれば、幼鳥のうち半分は生き延びることができた。だが今ではその割合は10羽に1羽程度だ」。
 「オキアミそのものの数に関する調査も行われており、わずか20年前と比べても80%減っている。ゆえに、若いペンギンが親離れ直後の数カ月を生き延びるだけのオキアミを見つけられる確率は大幅に下がっている」。 
 オキアミはエビに似た小型の甲殻類で、巨大な群れを作り、南極周辺海域の食物網で大きな役割を担っている。群れで暮らす陸上の草食動物と同様に、オキアミは植物プランクトンと呼ばれる光合成を行う微小生物を食べ、自身はペンギンなど、海に暮らす多くの捕食者のエサとなる。 南極海域のオキアミの激減には複数の要因があるとトリベルピース氏はみている。
 考えられる要因の1つは、周辺地域の気温上昇だ。この地域の気温は1940~50年代と比較して摂氏5~6度高くなっている。海面がどの程度まで結氷するかは外気温に左右される。  
 「海面が凍らないと、こうした海氷で生活するプランクトンが捕まえられず、夏に孵化したオキアミの幼体にとっては冬季のエサがなくなる」とトリベルピース氏は説明する。
 「このエサがなければ、オキアミの幼体は生き残れない」。
 オキアミが減った第2の要因は、クジラの個体数が増加に転じていることだ。 トリベルピース氏によれば、「現在判明している情報によると、オキアミをエサとするクジラがこの海域で復活している模様で、その個体数は増え続けている」という。
 19世紀から20世紀にかけて盛んだった捕鯨により、巨大海生哺乳類であるクジラの個体数は激減したが、ペンギンはこの時期に大きく個体数を伸ばした。 海鳥を専門とする鳥類学者のスティーブ・エムズリー氏も、ペンギンのコロニーを時系列で追った研究の中で、卵の殻など、昔の細胞組織の残る物質の化学組成を分析したところ、クジラが減少する以前、アデリーペンギンは魚類を主食としていたことが判明したという。
 「アデリーペンギンがオキアミを食べるようになったのはここ100年ほどの話だ。生態系からクジラが減少したことで、捕食可能なオキアミが以前より増えたことがきっかけだ」とトリベルピース氏は説明している。 そしてオキアミが激減する今、以前に起きた食行動の変化を踏まえて、ある疑問が浮かんでくる。ペンギンは再び、魚を主食とする生態に戻れるのだろうか?
 「オキアミの量が80%減ったこの30年間の記録を見る限り、(ペンギンの)エサに魚類が増えた形跡はない」とトリベルピース氏は証言する。
 「だが、魚類もロシアのトロール漁船により乱獲されているので、現時点でペンギンが捕食可能な魚類がどの程度あるのかもわからない」。 
 
 複雑に絡み合った食物連鎖の頂点に位置する種は通常数が少なく、生態系の微妙なバランスが保たれていた。しかし、異常にはびこった人類はあらゆる生物の脅威になった。直接捕食するだけでなく、地球温暖化により間接的にも他の生物の絶滅に寄与している。
 しかも食物連鎖とは、構造的に円環をなしているのだが、人類はその円環を破壊した。生物の多様性を保つには人類が生物としての客観的立ち位置を認識し、地球環境の悪化を食い止め、生物の保護に努めるしかないだろう。
 人類の天敵は人類である。人類の闘争本能は地球の多様な生態系を守るために埋め込まれた神の操作なのかもしれない。