今年これまでのJ1で最も印象に残っているシーンといえば、第7節の磐田vs清水の試合終了の瞬間。
清水DF・立田が泣き崩れた姿を挙げますね。
清水の選手構成は非常に生え抜きが多いという印象で、現在18人を数えます(レンタルバックしてきた選手も含む)。
その内訳はユース出身が9人、高校卒4人、大学卒4人。
そして金子が「JFAアカデミー福島」出身という特殊系の経緯。
これに加えて2種登録の選手も大量5人が在籍している、まさに生え抜き王国。
この中からFWの北川航也が日本代表に選ばれるなど名を挙げています(まだ定着には至ってませんが)。
かつては岡崎慎司が6年間在籍していた事でも有名で(清水では42ゴール)、「俺達の町から代表選手を輩出する」夢を追い掛けられるクラブが清水なのでしょう。
さて2017年にユースから昇格して入団した立田ですが、リーグ戦での活躍は翌2018年。
長身故に本職はセンターバックですが、この年就任したヤン・ヨンソン監督の下右サイドバックでの出場を重ねます。
前年は最終節でJ1残留を決めるという体たらくで、オフシーズンには守備を固める方策が目立ちました。
その具体的な案は、前年在籍のフレイレ(現湘南)に加え、かつて広島・鹿島に在籍していたファンソッコを獲得。この2人の助っ人でCBを強固なものにするというものでした。
そしてシステムは4バックから動く事は殆ど無かったため、立田はSBに回されたのでしょう。
それでもこの年、早速2節でプロ初得点を記録するなど存在感を見せます。
クラブと並行してU21の日本代表戦にも出場を重ねますが、この時はCB(ただし3バック)。
なんとも奇妙な両者のズレを経験しつつも、上々のスタートになった事でしょう(清水では25試合出場)。
しかし一転苦難の道になったのが今年。
フレイレが湘南に移籍したため、清水でも本職のCBとして期待を背負う事となった立田。しかも若年ながら副キャプテンにも任ぜられているとの事。
開幕から勝てないチームの責を背負う事となってしまいます。
特に2節のガンバ大阪戦で4失点、3節の札幌戦で5失点という具合に守備が崩壊し、6節まで未勝利(2分4敗)で完全に出遅れた清水。
6節の東京戦は先制したもの後半に2失点で逆転負けと、負のスパイラルに嵌る直前まで来ていたのは傍らから見ていても伺えました。
次も勝てなければ降格一直線になってしまうのでは、という恐怖が。
そうした苦労を経ての7節・静岡ダービーでの初勝利、喜びという感情だけでは言い表せない崇高な涙だったのでしょう。
思わず自分ももらい泣きしてしまいました。
(まあFWの助っ人ドウグラスの離脱も大きな要因なのですが)
生え抜き王国なクラブだからこそ、義理人情の厚さ・浪花節のような話が生きてくる。
8節にも石毛の故障離脱に即して、選手全員が石毛の姿がプリントされたTシャツを着ての入場を敢行。
決勝ゴールを挙げた北川がベンチに走り、掛けられていた石毛のユニフォームを掲げるという感動的な場面を築きました。
そして連勝と上げ潮ムードで迎えたこの一戦。
一方の浦和はというと、かつての絶頂期(2006~2007年辺り)から幾ばくか経ち、成績的には低迷期を経て普通の強豪チームの枠組みに落ち着いてきたという印象。
しかし上記のような浪花節とは正反対の路線を進んでいるのは、やはり絶頂期の名残でしょうか。
常にタイトル獲得を目指し、アジアから世界への挑戦を最終目標とする。
それ故2017年途中まで5年半率いていたミハイロ・ペトロヴィッチ監督(以下ミシャ、現札幌監督)時代の浦和は、成績面では着実に上向きを見せておりながら、内容的にはそんな浦和を覆う気質とはズレが生じていたという思いが拭えません。
2011年には残留争いに巻き込まれていたチームが、再び優勝を狙えるようになったのは紛れもなくミシャ氏の手腕によるものでしょう。
しかし肝心な所で優勝を逃し続けるという印象の悪さも目立っていました。
2014年はラスト3試合で首位の座をひっくり返され、2015年はチャンピオンシップで敗退。
そして2016年はチャンピオンシップで後1試合、負けなければ優勝という所までたどり着きながら後半に逆転を許し鹿島に優勝の座を渡してしまいました。
「攻撃的・ポゼッションサッカー」がミシャ氏の基本的信条ながら、タイトルを目指すためその理想を幾ばくか切り捨て、守備面の強化もある程度進めていた事でしょう。(噂に聞く「セットプレーの練習は殆どしていなかった」というのは非常に不可解ですが)
それ故彼の内面に潜む浪花節が肝心な所で顔を覗かせ、それが結果的に勝負師としての資質を鈍らせていたと推測します。上記のような大事な試合では特に。
ピッチの外では大変な人格者として有名で、放出された選手からも悪口を殆ど聞かないともいわれます。
そんなミシャ氏もチームを去り、紆余曲折を経て昨年途中からオズワルド・オリヴェイラ氏が監督の座に就いている浦和。
ここまで8試合で得点6という攻撃陣の低調ぶりが目立ちながら、4勝2分2敗で6位と上々の成績を残しているのは彼の成せる業なのか。
並行して戦っているACLでは、シュート数0対20というサンドバック状態ながらスコアレスドローで勝ち点1をもぎ取るという試合も披露しています。
「どんなに内容が低調でも勝ち点を奪う、そして最後にタイトルを獲る」という思考が窺える今季の浦和にかつての、いや本来の姿が戻りつつあると感じています。
こうした逆の気質をもったチーム同士の戦い。
前置きが長くなり過ぎたので、ここからは箇条書き。
・守備時は清水は4-4-2、浦和は5-3-2のブロック。
・しかし両者とも最終ラインは高く、守備間のスペースは消えており中々チャンスを作れない。
・スペースが無いから、往々にして最終ラインでパスを回したところをプレスをかけられロングフィードに頼る場面が続出。
・ないしは強引にスルーパスを出してオフサイドを取られるか。
・浦和のビルドアップにプレスをかける清水。
・ウイングバックにボールが渡ると、すかさずサイドハーフの金子・中村が果敢に距離を詰める。
・浦和は左WBの山中を突破口にしたいも、金子がすぐ詰めて来るので中々ボールを前に運べない。
・10分頃から、青木に加えて長澤・エヴェルトンが下りてきてビルドアップを助ける場面が多くなる。
・それに加えて興梠の落としを使うも、中々シュートまで持ち込めない浦和。
・一方清水の攻め。22分金子がバイタルで受け鄭大世にパス、相手のカットに合うも六平が拾ってエリア内に進入、ここで山中に倒されるが審判の笛は無し。
・その後は良い所までいくが、大事な所でパスがずれる。
・35分には山中のバックパスを奪ってのカウンター、金子と北川がパス交換しつつ前進し北川がクロス、鄭大世にはわずかに合わず。
・浦和は山中の浮きっぷりがなんとも。
・それなりにチャンスは作るものの、守備面で穴を作る場面が多々。さらに自身にボールが回って来ないと苛立ちを露にする一面も。前年のマルティノスか?
・前半押し気味だった清水、後半頭もそのままペースを掴む。
・中盤のパス回しで好機を作り、2度ほど北川がチャンスエリアに進入する。
・それでも決定機はロングフィードから。51分立田がエリア内にフィード、これを鄭大世がトラップしてマークを外しシュート。これはGK西川が足でセーブ!
・その一方で清水のプレスは甘くなった印象。
・中盤で浦和がゲームを組み立て始め、エヴェルトンや武藤がミドルシュートを撃てる場面も。
・60分に清水はドウグラスが鄭大世と交代で出場。ドウグラスはまだ本調子には至らず、これがプレスが緩くなったと感じた要因か。
・それでも64分、ゴールキックから松原ヘッド→浦和DFの跳ね返しをドウグラスが拾い北川にパス。北川は金子へのパスを選択するも、合わずにチャンスを逃す。
・前半同様敵陣に進入した後のパスがずれ、チャンスを逃し続ける清水。
・カウンターから左コーナーキックを得た浦和。キッカー山中のクロスは跳ね返されるも、長澤が拾ったのちもう一度山中がクロス。これを興梠がワントラップから難しい体制でボレー!GK六反が何とか弾くも、これをマウリシオが詰めてゴールイン。
・この直前に浦和は武藤→汰木に交代。
・先制され攻勢に出る清水。77分にはドウグラスのシュートを浦和DF槙野がブロック。手に当たったように見えるも反則は無し。
・その後浦和は興梠のポストプレイから青木が右サイドへパス、清水陣内奥深くまでボールを運んだものの汰木は暫くキープしたのちバックパス。無理はしないリアリストぶりを発揮、当然といえば当然だが。
・これを見た清水、ボランチのヘナト・アウグストを前線に上げパワープレイに移行。
・それでもDFのファンソッコ・立田はロングボールを上げるかどうか迷う場面が散見。
・しかしアディショナルタイムに突入、割り切ってロングフィードを上げ続ける。
・そして立田のフィードから、ドウグラスが落としたボールが滝(北川と交代で出場)の足元へ。滝は迷いなくシュートを撃ちGK西川を抜いたもののクロスバー直撃!こぼれ球も同じく途中出場の楠神がシュート体制にいくも撃てず、最大のチャンスを逃した清水。
・かと思いきや、汰木がボールを拾って浦和がカウンター開始。あれよあれよとボールが繋がり、最後はエリア内で汰木→興梠のパス、飛び出したGK六反をあざ笑うかのような興梠の浮かせたシュートで締める。決定的な2点目を挙げ、キックオフ後すぐに試合終了。
こうして0-2で浦和が勝利したこの試合。
リーグ戦では初めて複数点差で勝利した浦和、今までは内容が低調だった(この日もか?)だけに、これに内容が加わってくれば非常に恐ろしい存在になりそうです。