ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

キャサリン・M・ヴァレンテ【孤児の物語 1  夜の庭園にて】と【孤児の物語 2 硬貨と香料の都にて】

2013-09-07 | 東京創元社

全2巻、それぞれが500ページ超、厚さは5cmにもなろうかという作品。
これから訪れる秋の夜長にぴったりの本です。

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 孤児の物語 1 夜の庭園にて
 (海外文学セレクション)


 著者:キャサリン・M・ヴァレンテ
 訳者:井辻朱美
 発行:東京創元社
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緑と水の豊かなスルタンの庭園で、宮殿の灯りから離れてひとり、野生の生き物のように生きる少女。
彼女の両の瞼は、幼い日のある時から黒々と染まり、それゆえに魔物と恐れられ、危害を加えれば呪われると忌み嫌われています。
その彼女のもとを、ある夜、スルタンの皇子のひとりが訪れます。
「お前はほんとうに精霊なのか」
恐れながらも立ち去るようすのない皇子に、少女は自分の秘密をかたりはじめます。
この黒く染まった瞼には多くの物語が記されており、それがすべて語られた時、自分を裁くものがやってくるといわれていると。
皇子は少女のまなざしに惹かれるまま、瞼に記された物語を語ってくれるよう願うのです。
始まるのは、いつの時代ともどこの国とも知れぬ場所の物語。
王に王子に、魔術師、姫や女王、異形の魔物に、精霊たち、果てない草原に深い森、塔の都に、沸騰する海。
これでもかと紡がれる言葉と多様な比喩は、意外な言葉の連なりでもあり、「綺麗は汚い、汚いは綺麗」の世界でもあるよう。
スルタンの庭園の夜の片隅で静かに語られる、異なる神話を起源にもつ物語世界の豊かさに眩暈がするようです。
次々と開く物語の箱。開くにつれ、語り手も変わり、どこが物語の底かと思っていると、別の物語への細い道が見え、惑わされているうちに、いつの間にかもとの庭園。

1冊目の『夜の庭園にて』には、「草原の書」、「海の書」のふたつの物語がありますが、それらは登場人物たちの語る細かい物語からなり、いくつもの夜を過ごすことができそうです。
そして、完結編となる『硬貨と香料の都にて』。
さすがに飽きるかと思ったのですが、それどころではなく、著者のイマジネーションの素は世界各地に広がり(河童登場!)、さらに異国情緒、異世界情緒を増していきます。

【孤児の物語 2 (硬貨と香料の都にて)】clickでAmazonへ。
 孤児の物語 2 硬貨と香料の都にて
 (海外文学セレクション)


 著者:キャサリン・M・ヴァレンテ
 訳者:井辻朱美
 発行:東京創元社
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遠く離れたものと思えていた物語がふいにつながり、また、ひとつの物語の謎が別の物語でほどかれ、と、物語が次々と語られていくうちには、きっと、少女の瞼のすべてが読みとかれてしまうでしょう。
その時、何が起こるのか。
それも気になって、本の結末については異常な知りたがりのワタクシは、どんどん読む速度が増してしまいましたが、できることなら、ゆっくり読みたい作品だと思います。
文字から喚起される印象を、より具体的に想像しようとしたら、そうそう先に進めるものではないかも。
さらにいえば、皇子が夜を待ち遠しく思ったように、読み聞かせて欲しい作品かもしれません。
語り、語られる入れ子状の物語世界の一番外側は、本を持つ手、文字を語る声。
物語を読むという気分を満喫できる作品です。
物語が大好きな子に、特別に装丁したこの本を贈ることができたら、どんなに楽しいだろう。それを宝物にしてくれたら、どんなにか嬉しいだろう。
素材は、色は…と、しばし妄想に浸ってしまいました。

それにしても、東京創元社の海外文学セレクションにはちょくちょく引っかかってしまいます。
形見函と王妃の時計』とか『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』とか。
ツボ?





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2 コメント

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わあ~いいなあ。 (かもめ)
2013-09-07 05:57:56
『硬貨と香料の都にて』も読まれたのですね!
私も『夜の庭園にて』がよかったので、是非読みたいと思っているのですが。

これはじっくり読みたい本だから、冬ごもりの季節になったら、夜な夜なページをめくろうかな~などと思ったり、いやいややっぱりもっと早く読みたいかも~と思ったり。

まあ、読書計画なんて、あってないがごときなので、
考えるだけ無駄なんですけれどね。私の場合。。。。
返信する
はい~。 (きし)
2013-09-08 20:03:16
以前、かもめさんが紹介されてらしたときの記憶がありましたので、「2」のほうを見かけて、即、手にしてしまいました w
がつがつ読んでしまいましたけれど、やはりゆっくり読みたい作品だったかも。

読書計画といえば、私もこれからしばらくはスローペースになると思います。ちょっと生活が変わりまして、慣れるまでちょっと…。
それに冬も来るし!秋なんてすぐに過ぎてしまいますものね。
返信する

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