ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

アレン・カーズワイル 【形見函と王妃の時計】

2007-10-18 | 東京創元社
 
久しぶりにこんなに重い本を読みました。
これは単純の重量の問題。
文庫派の私は、普段はあまり単行本を持たないせいか、22cmの本は重たく感じます。
でも、単行本は装丁が凝っているので、みていて嬉しいですね。
表紙カバーもはずして表紙をみたり、栞の紐の色がいいとか思ってみたりと、読む前から楽しめます。

さて、この作品。
驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』と同じ著者です。
くろちゃんこさんからもコメントをいただいたように、『驚異の発明家の形見函』とこの『形見函と王妃の時計』は対になる作品。
読まねば!というよりは、読みたい!
文庫化はされるだろうけれども…でも…待つのは…ということで、間をおかずに単行本に着手。

形見函と王妃の時計 clickで拡大
 形見函と王妃の時計
 著者:アレン・カーズワイル (Allen Kurzweil)
 訳者:大島 豊
 発行:東京創元社
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ある日、アレクサンダーは彼の職場である図書館で、ひとりの老紳士に「卒爾ながら」と声を掛けられます。
それに続くのはこう。
「少々お時間を拝借させていただきたいが」
この言い回しと、老紳士が伝票に書いた文字の書体の珍しさと魅力に、どうしようもなく惹きつけられてしまったアレクサンダー。
彼はこの正体不明の老紳士ヘンリー・ジェームス・ジェスン三世の申し出を受けてしまいます。
ジェスンが、アレクサンダーを絡めとるようにして頼んだのは、彼の所有する骨董品、10個の仕切りを持つ函の空白を埋めていたものを探し出すこと。
アレクサンダーは、函の持つ抗いがたい魅力と、仕事や妻との板ばさみになりながら、調査を進めていきます。
そして、その結末は…。

この作品、『驚異の発明家の形見函』に劣らず、いろいろなことが書いてあります。
話題にのぼる人やもの、書籍と、きちんとわかろうとおもったらとても大変そう。
わかる人がどれくらいいるのかしらと思うほどですが、そういうことをおいておいても、十二分に楽しめます。

まずは、舞台となるアレクサンダーの図書館そのものが面白い。
「アレクサンダーの図書館」などと書くと、どうしても、大王の図書館みたいに感じてしまいますね。でも平の図書館員、しかも恐ろしいほどのメモ魔・アレクサンダーの勤めている図書館です。
図書館を動かしているシステム、本を分類することの奥深さ。
膨大な文献の中から必要なものを探し出すことの難しさや面白さもあります。

それから、登場する人物たちの魅力。
アレクサンダーの上司や同僚たちの変人ぶりや、超人ぶり。
図書館の影の主、パーさんの味はたまりません。
フランス人で製本作家、アレクサンダーの妻・ニックもすごい。(彼女の作品がみたい!)
そして、変わり者ぶりでいえば、ジェスンもアレクサンダーも引けをとるわけもなく…。
加えて、ジェスンの屋敷はぜひ拝ませていただきたいようなところ。
蒐集したものが並んでいるところだけでも映像で観たい…。映画化されないものでしょうか。
それに、ジェスンの屋敷には執事がいるのです。
黙して語らず、それなのに、無言のうちに主人にプレッシャーをかける執事が。
すばらしい存在感。

もちろん、最大の関心事は形見函の最後の空白についてのこと。
「空白を埋めるもの」のシフト-チェンジがとても鮮やかです。
これについては、もうこれ以上書けることがありません。
書こうものなら読む楽しみが減ってしまいますから。

『驚異の発明家の形見函』と『形見函と王妃の時計』。
単純な続編などではありません。
雰囲気も全く異なるとはいえ、確かに対になる作品です。
けれども、対称ではなく、捩れた入れ子のような雰囲気。
それぞれの作品自体が、もともとそういう構造をもっているところで、さらにややこしい…となるかと思うと、それがそうでもなく、片方読んで面白い、両方読んでなお楽しいという感じです。
きっちりと読み込んだら、もっとすごいことになっているのでしょう、きっと。
私は『驚異の発明家の形見函』から『形見函と王妃の時計』に進んだので、アレクサンダーとジェスンが形見函に入れ込むことにもすんなり同調。
逆に『形見函と王妃の時計』を先に読んだら、『驚異の発明家の形見函』を読むときにもっと気合が入っていたかもしれません。
どちらから読んでも楽しめると思います。
単純なところでは、重複するアイテムににんまり、とか。
でも、敢えて言えば、やはり、発行順が良いかもしれません。




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2 コメント

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妻のニック (くろにゃんこ)
2007-10-18 13:23:06
「形見函と王妃の時計」、あまりにも面白かったので、娘に冒頭だけ読ませたんです。
そしたら、
「ニックって、お母さんだね」
と言われました。
どこがといえば、片づけができないところ。
POP絵本の内職をしていたという過去もあり(娘は覚えていたんでしょう)、なんとなくニックには親近感を持っています。
さすがに、あれほど情熱的ではありませんが(笑)
返信する
くろちゃんこさんは (きし)
2007-10-18 22:49:28
ニック?
…想像が飛躍してしまいそうです(笑)
POP絵本って作るのが難しそうな印象があります。
几帳面じゃないと綺麗にできなさそうな…。
最近、とても綺麗なものも多いですよね。

それにしても、面白い本。
ここもツボ、あそこもツボ。非常に好みの本でした。
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