ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

米澤穂信【折れた竜骨】

2013-10-16 | 東京創元社

十二世紀を時代背景に、騎士と魔術師のいる世界での殺人事件を描くミステリ。

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 折れた竜骨

 著者:米澤穂信
 発行:東京創元社


ロンドンから船で三日ほどの海に浮かぶソロン島。
船がついたばかりの港のにぎわいから物語は始まります。
その雰囲気はまるで映画のよう。
それにつられてか、読んでいる間中、あれこれと映画の一場面のように想像してしまいました。

馴染みの船乗りから、島の領主の娘アミーナは、父を訪ねてきた騎士ファルクと従者ニコラの二人組を乗せてきたと聞かされます。
彼らは、自分たちの追う者が、領主の命を狙っていると警告。
時を同じくして、ソロン島に迫った危機に備え、父であるソロン島の領主が募った傭兵たちも到着していました。
長く平和で活気のあふれる場所であったソロンに、緊張が募り始めたまさにその夜、領主は何者かに殺されてしまいます。
その暗殺は、魔術によって操られた「走狗」の仕業であることを、ファルクによって知らされたアミーナは、彼らとともに、「走狗」が誰であるかを探し始めます。

剣と魔術の世界の雰囲気と、大活劇の場面をたっぷり含んだ作品です。
芯の強い姫アミーナ、冷静な偉丈夫ファルクに、チャーミングな少年ニコラ。
容疑者となる傭兵たちもそれぞれに特徴的に描かれていて、それがつい映像として思い浮かべたくなる気分を掻き立てます。
映画、またはアニメの感じ。
活劇の場面ではカッコいいわーと単純に思ってしまいます。多彩な傭兵たちがそれぞれに腕を奮い、青銅の魔人まで登場するとなれば、その気分もわかっていただけるのでは。
でも、ファルクには『指輪物語』のアラゴルンの俳優さんを勝手にキャスティングしてしまいました。
そこだけ実写。

それでも、この作品は、がっつりとしたミステリでした。
騎士にして魔術師、この物語の探偵役、読者の水先案内人であるファルク自身に「理性と論理は魔術をも打ち破る」と言わせているほどに、ミステリらしいミステリ。
雰囲気を盛り上げた魔術や活劇そのものが、謎解きのためにあったと読み終わればわかります。
走狗が誰であるのかは特定するのは割合たやすいのですが、他の容疑者が走狗ではないと証明するにはすべての筋立てが必要。
ミステリはやっぱり読めばおもしろいんだよね、という気分を思い出させてくれました。

上下巻ですが、それぞれさほどの厚さではないのでお休みの日の一気読みにうってつけです。




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