おそらく10年くらい前だろうと思うが、はっきりと判らない。
珍しく私は図書館にいた。
そして、その本の前で立ち止まったまま、動けなくなった。
『銀河を産んだように』
…銀河を産む?
信じられないスケールの、この言葉の組み合わせのインパクトに目が吸い寄せられてしまった。
このタイトルにすっかりのまれて、手に取った。
気がつけば、そこは普段なら寄り付くこともなかった現代短歌の棚。
手にあるのは、著者の第2歌集だった。
なんの予備知識もなく、ページを辿っていく。
ゆったりと文字の並ぶ紙面。
頭の中で音読をしていく。
五・七・五・七・七。
極小の存在である自分と果てのない宇宙との対比。
そのスケール感はタイトルだけが持つものではなかった。
おそらくこの広がりを自分の感覚として持っていることが、この人の特色なのだろうと思う。
それは、恋文を書くその時間を星の動きで計るような歌であり、次のような歌でもある。
迷いつつ脈うつわれの肉体が白点となる距離もあるべし
これは、私にとって、ある意味魔法の呪文となりつつある。
こんな悩みなんかどうってことない。
ちっぽけ過ぎていっそ笑える。
最初は無理やりでも、何度か唱えるうちに、そんな気分になってくる。
雪解けの頃、桜の時期を前にして思い出すのはこれ。
花の色を内に秘めた木の肌。冬を越えたその生命力を思う。
意志もちて冬おわらむとする路傍なる桜の幹に潤いのあり
他にもたくさんあったのだが、時間の流れの中で、自然と私の中から失われていった。
今も記憶に残っているのは数首だ。
指柱それぞれ離し眺めおりてのひらという吾の神殿
冬虹の内側とその外側の触るることなき人を想えや
緋の服をまといて君の夜の夢の砂丘にひとり立ちたきものを
なぜか、あれほど惹きつけられたタイトルの『銀河を産んだように』の言葉を含む歌が記憶にない。
不思議だ。
著者:大滝 和子(おおたき かずこ)
発行所:砂子屋書房
『大滝和子』さんで検索すると結構ヒットしました。その世界では有名な方だったようです。