色をテーマにした物語を集めた短編集。
医療関係の雑誌に連載されていた作品だそうです。
唇に小さな春を
著者:稲葉 真弓
発行:小学館
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収められているのは18編の短編と掌編がいくつか。
ちょうど表紙カバーのチョコレートバラエティセットのようで、目次をみているだけでもちょっと楽しいです。
『静かな茶色の過去』、『青い家』、『おばあさんの桜餅』。
『山は黄緑』、『オレンジの窓の明かり』、『白い町で』。
『空いっぱいにカナリアが』、『ワインレッドの夜』、『黄金色の神さま』。
『闇夜を飛ぶ』、『銀色のハーモニカ』、『紅絹よ紅絹よ』。
『ヒマラヤの青いケシ』、『朱鷺色のふるさと』、『紫のあけぼの』。
『乳色の靄の向こうに』、『藍の満干』、『唇に小さな春を』。
『色のある掌編』
何かの物の名前を聞いて、まず色を思い浮かべてしまうことがあるように、色は「らしさ」のわかりやすい表れではないでしょうか。
それでいて、色そのものから派生するイメージは多種多様。
タイトルからそれぞれの物語に対して漠然と想像する雰囲気、単純なところでいえば楽しそうとかさびしそうとか、そんな印象をもちながら、それぞれを読み始めることになりました。
この色で、物はこれ。どんな人たちの、どんな場面か。
それが連想しなかった組み合わせでの展開だったりすると、「おぉ!」と新しい物語を読む楽しみが増すような気がします。
表題作の『唇に小さな春を』は、これからの季節にぴったりのタイトルではありますが、組み合わせにはちょっと意表を突かれたというほうの作品でしょうか。
名前が刻まれた机の茶色の肌、あたたかな窓の灯り。
降りしきる金色の落ち葉や、滴る青葉。
鮮やかな布の色の思い出。
日常的な光景の中での物語もあれば幻想的に展開するものまでと幅はありますが、いずれも、坦々と過ぎていく日々の中から浮かび上がる一場面や、いつまでも色あせない思いの宿る一場面を描き、いかにも短編集という鮮やかさでした。
後味もやさしいものが多く、時間の切れ目の読むのによい本だと思います。
[読了:2012-03-08]
参加しています。地味に。
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