ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

三木笙子【人魚は空に還る】

2014-03-08 | 東京創元社

gremzの木が成長するどころかしおれてしまうほどに更新が滞ってしまっているのは「読めない」と「書けない」の掛け算の結果。
読み進めるのは少しずつできても、少しずつ書くってなかなか。
でも、いつまでも自分のペースを失ったままなのは悔しいので、今月からはがんばる予定。9年目でもありますし。

…という、誰に対してかわからない言い訳はさておき、こちらの本。
『人魚は空に還る』。
好評であることは知っていながら、ずっと先送りしてしまっていましたが、文庫を見つけたタイミングは重すぎず、でも軽すぎないものを、という今の気分にぴったりでした。

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 人魚は空に還る

 著者:三木笙子
 発行:東京創元社
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絶世の佳人たる当代きっての人気絵師と、温厚篤実な御曹司の事件記者のコンビが事件の謎を解くという短篇集。
美男子の絵師…と少女マンガ風の表紙も手伝って、軽めのもの?という先入観があったのですが、読んでみれば、とても真面目で端整なものという印象の作品でした。
それでもこの表紙は、成人男性は手にしにくいタイプのものかと思いますけれど。

表題作の『人魚は空へ還る』はタイトルもさることながら、その始まりの場面も美しく、この幻想的な始まりからいかなる物語が展開するのか興味津津。
人魚といえば、アンデルセンの『人魚姫』、そして、あれだよねぇ…という連想が浮かぶ方は、作中に登場する人魚を連れた見世物の一座の名が「蝋燭座」であることに、やっぱりね、と思われるかも。
かの有名な、仄暗いイメージの童話作家の名とその作品にインスパイアされたものなのね、と。
かくいうワタクシがそうだったわけですが、これがむしろひっかけになって、というか、勝手に引っかかって、最後の一押しに、ああ、インスパイアされたのはそっちだったかと思われされてしまいました。
なんとなく、隠すから見つかる、隠したいならむしろ隠すなとか、明らか過ぎる秘密には気づきにくい…みたいな…?
と言うのは、やっぱり言い訳ですね。

収められているのは、この表題作の他、『点灯人』、『真珠生成』、『怪盗ロータス』、『何故、何故』で、全五編。
人それぞれの想いを大切に描こうとした物語はどれもいやな気持にならないものばかりです。
顔は良いけど口は悪いワトソン役と人の良すぎる(その上、偉丈夫って非の打ちどころなさすぎるぞ。)ホームズ役のコンビに、スパイスとなる登場人物たちの背景には明治の雰囲気も良い感じに漂って、楽しむための読書にはうってつけ。
文章もすっきりとして、好評なことにもうなづける1冊でした。

シリーズはすでに3冊。もう文庫化もされています。
そういえば、最後に収められている『何故、何故』は文庫だけのボーナストラックなのだとか。
他の作品も続々出ているようです。
ほんとに書きたい人なのでしょうね。すごいな。







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2 コメント

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まさかこの本で! (かもめ)
2014-03-09 11:33:56
きしさんのレビューが読めるとは思っていなかったので嬉しいです!

このシリーズ私もmichakoさんの紹介で読み始めました。
私の利用する図書館には置いていないので、「そういう気分になったときのため」に文庫版を買って読み進めています。(^^)

そうそう、本が好き!に新星のごとく現れたefさん、ネットレビューつながりできしさんのお知り合いだそうですね。
すごく面白そうな本をたくさん紹介して下さるだけでなく
hackerさんとのやりとりがとっても楽しく為になるので、すっかりファンになってしまいました。

ちょっとしたご縁がいろいろなつながりが広がっていくのもまた面白いですね。
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かもめさん (きし)
2014-03-09 23:36:12
あれ?意外でした?こういうさくっと読めるものも好きなのです。
今、図書館に行けていないので、どうしてもこういうタイプの文庫に偏っちゃいますねぇ。先送りしている単行本がどっちゃり…。

>本が好き!に新星のごとく現れたefさん
なんだか自分が褒められたみたいに嬉しいです ^^
読みやすくて楽しいですよね、efさんのレビューは。しかも、読書量は半端ない。べらぼうにお忙しいはずなのに…。
hackerさんと気が合うのはなんとなく納得できる感じがします。
私、hackerさんのレビュー、好きなんですよ。…ここで言っても伝わりませんけど w
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