ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

北村薫【飲めば都】

2013-11-04 | 新潮社

本屋さんの店頭で見つけた文庫の新刊のうちの1冊です。
ひさしぶりに読みました。北村薫作品。

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 飲めば都

 著者:北村薫
 発行:新潮社
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編集者が主人公ときいて、ふと、『空飛ぶ馬』の彼女のその後?と思いましたが、直接的にはそうではありませんでした。
別バージョンとして読んでしまう気分がちょっと残ってしまいますけれど。

『人生の大切なことは、本とお酒に教わった――日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情……。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は? 本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。』

そのとおり、の作品で、さくさくと楽しく読了。
全体的に軽い読み物的な雰囲気の中にも、いかにもこの方らしい人間観察と理解を思わせる部分があって、やっぱり北村薫は北村薫だと思わせる1冊です。
それにしても、どうしてこんなに女性の視点で描きたがるのでしょう。
好きだから?
嫌いだから?
そんな単純な話ではないでしょうけれど、好きだからよりは嫌いだからのほうが納得できるような気がしてしまいます。
女性の怖いところを描きたいのかもと、ふと思ったり。その怖さをこそ愛しているようにも思えますが。
そうすると、どうしても主人公は女性でなければ内幕的なところは書けなくなってしまう。だから?
極端な話、化粧室での会話などは(ま、それがあったわけではありませんけれど、異性の目が届かないところの端的な例として)、主人公を男性にしてしまっては追えませんしね。
でも、書いているのは、柔らかな真綿で包んであるからかえって冷徹な視点が冴え冴えと感じられてしまうような(逆もまた真、でしょう)北村薫という作家であることを思わずにはいられないのでした。

もちろん、そんなことを考えながら読むよりは、駄洒落満載、これまでよりセリフも多いこの作品をさっくりさくさく読んでいった方が楽しいにきまっています。
自分が観察対象になっているわけでもないのですからはばかることなく、酔っ払いたちと一緒にお酒の席の気分を楽しみ、編集者という職業の人たちの仕事への熱とともに著者自身の本への愛情と豊富な知識に感じいり、都さんの恋がうまく成就するのを見守り、整った文章を追う心地よさを味わうに越したことはありません。
ちゃんとそう読ませてくれる作品です。
お酒の銘柄もいろいろ登場するので、知っている名前が出てくると単純に楽しいですし、都さんの旦那さんになる方の出身が山形だったり、二人が行くこけしが名物の温泉はやっぱり鳴子だろうなと思ったりするのも、ちょっと嬉しいところ。
きっと、駅にはお話の中にあるとおり、小此木さんならぬ大野隆司さんのあの猫の絵があるのだろうと思います。
観たことがないのが残念。







コメント (4)    この記事についてブログを書く
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おもしろかった (るい)
2013-11-09 23:08:25
久々の北村薫。さくさく読めました。
でもね、勝負下着の描写はそんなに詳細にしなくてもよかったと思うぞ…。
またS・M婦人に嫌われちゃう!とハラハラしました。
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るいちゃんには (きし)
2013-11-10 00:03:45
さくさく読んでもらえると思ってました。
そして、S・M夫人の感想を想像してびくびくする気分も共有してもらえると!
…ハラハラするよね、ほんと。S・M夫人にはお薦めできないわ―。
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だいじょうぶ! (S・M夫人)
2013-11-10 20:12:11
そこまで言われたら、ぜっっっったいに読まないから!
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うん。 (きし)
2013-11-10 22:58:28
きっと読まないってわかってはいるんだけど、想像しちゃうの、なぜか。
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