文庫化された全集を、ゆっくりと読み進めています。
先日、第3巻を読み終えたところ。
この第3巻は第4巻よりも後に出版されたように思います。
須賀敦子全集〈第3巻〉
著者:須賀敦子
発行:河出書房新社
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収められているのは、「ユルスナールの靴」、「地図のない道」など。
別個に文庫化されていたものはあらかたを読んでいましたが、雑誌などに掲載されていたエッセイなどには初めて読む文章も多いので新鮮。
そして、だらだらとしたペースながらも順を追って読んできたことで、受ける印象の変化もありました。
考える人とはこの人のことだったかと思います。
考える人とはいっても、かの彫刻のような雰囲気ではなく、どこか遠くをみているようなイメージ。
一見のどかな印象ですが、そうやって、とてもとても長い間考え続けてきたのだと突きつけられたような気がしました。「古いハスのタネ」などには特に。
もちろん、以前からそうではあったのですが、著者が長く暮らしたイタリアで出会い、語らった人々との思い出を綴った初期の作品、豊かな物語性を持ち、場面も鮮やかな文章からは、感じる人という印象のほうを、私はより強く受けていました。
ですが、この第3巻にきて、語られる対象が歴史に名を残した人々や、多くの人が知るものになったためか、その印象は私の中で逆転。
人にせよ、その作品にせよ、すでに共有されるものとなっているものから、深く「個」の部分へ降りてゆくこと、そこからまた普遍的な何か、芯のようなものをみつけようとすること、そういった思考が前面に現れたような気がします。
その印象がとても強かったのが「ユルスナールの靴」。
ユルスナールの作品とユルスナール本人のエピソード、そして、著者自身の体験が絡み合い、支えあうようにして、ひとつにまとまっていき、一見唐突な印象で差し挟まれたように思えたエピソードも読み進めていくと、欠くことのできないパーツだという感覚になります。
冒頭の文章が印象的で、どうしてもその部分が強烈な記憶として残っていましたが、とても読み応えのある作品として再認識させられました。
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