ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

数学者達の人生。 藤原正彦【天才の栄光と挫折】

2007-07-11 | 新潮社
 
『綿々と思い続けるのは数学者の特技である。』
この一文が可笑しくもあり、悲しくも感じる1冊。

天才の栄光と挫折
 天才の栄光と挫折 数学者列伝

 著者:藤原 正彦
 発行:新潮社

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ベストセラーとなった『博士の愛した数式』の恩恵に浴したのは、著者自身よりも、この藤原正彦氏ではないかとひそかに思っています。
この本の元となったNHKの番組が『博士の愛した数式』を生んだとか生まないとか。
小川洋子氏と藤原氏の対談の本(世にも美しい数学入門)でも話が出ていたので、大きなきっかけのひとつだったことには違いないのでしょう。

数学界の大天才たちの足跡をたどった、読みやすい伝記といったところ。
同じ数学者として、数式の美しさに魅せられた者としての立場から、彼らの人間的な側面を描いていた作品です。
『国家の品格』で武士道というような言葉を持ち出した硬派な人という印象もあるにはありますが、私の中では、美しい落日に涙をにじませてしまうような人のイメージ。
この本のなかでも、彼らの人生の負の局面での心情に思いを寄せています。
過剰な感傷ではないけれども、けっこうウェット。

対談などで目にすることの多かった、30年近くも思い続けた初恋の女性の立っていた、その床に口づけをしたという数学者のエピソード。
ちゃんと読むまでは、きっと片思いだったのだろうと思っていましたが、予想に反して両思い。
紛うことなき悲恋でした。

本文中にあったとおり『数学の神様は自分に払われた犠牲より大きな宝物を決して与えない』のです。
しかも、身も心も捧げた純度の高い犠牲でなければ、お眼鏡に適わないらしく、大天才たちの人生には眩しいばかりの光と、それに呼応する色濃い影があります。
その落差に、数学の神様は容赦がないと、思わず溜息。

この本を読んで、天才たちではなく著者の藤原氏に興味がわいたら、こちらの本たちがオススメです。
私は『遥かなるケンブリッジ』に始まって(ん?『若き数学者のアメリカ』だったか?それとも?)、ほとんどを読んでしまいました。
数学の美しさを臆面もなく語り、男子たるものかくあるべし!と胸を張るかと思えば奥方にやりこめられる、暴君にして紳士の著者の面白さがあとをひいて…。

 遥かなるケンブリッジ

 遥かなるケンブリッジ

 著者:藤原正彦
 発行:新潮社


『国家の品格』が売れたときに、これらの本の部数も伸びるかと、勝手に嬉しくなっていました。
実際はどうだったのでしょう。

【父の威厳 数学者の意地】clickでAmazonへ。【古風堂々数学者】clickでAmazonへ。【若き数学者のアメリカ】clickでAmazonへ。


学者でエッセイなどの著書の多い方にはリンボウ先生もいらっしゃいます。
あちらの方を絵になるタイプだと言って、こちらの方は似顔絵になるタイプと言ったら、むっとされるかも。





   

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2 コメント

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これ・・・! (むぎこ)
2007-07-12 05:59:43
読んだことあります
なんだか嬉しいです!
なかなか自分の読んでいる本とかぶらないから・・・・。
新しい本(自分にとって)を紹介していただけるのもうれしいですが
、こういうのもなんかいいなあ~~~。
数学者30年の純愛・・・確か30年ぶりにある家に行って・・・そこに昔彼女が立っていた床・・でしたよね
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そうそう。 (きし)
2007-07-12 23:32:57
30年ごし。結局実らず、初恋の女性のほうは病気で亡くなってしまうし、踏んだり蹴ったりでしたね。

なかなかかぶらない…。もしかして、ワタクシ、マイナー傾向?
自覚がなかった…
そういえば、最近、本屋さんの店頭で本を買うことが減ってますし、そのせいもあるかもしれません。
好みと勘、気まぐれだけで読んでますからねぇ。
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