夕暮れのフクロウ

―――すべての理論は灰色で、生命は緑なす樹。ヘーゲル概念論の研究のために―――(赤尾秀一の研究ブログ)

北朝鮮をめぐる国際情勢

2018年05月04日 | 歴史

 

北朝鮮をめぐる国際情勢

北朝鮮をめぐり国際情勢が大きな変化を迎えようとしています。この変化の主導力になっているのは、日米の経済制裁を主体とする圧力です。この経済制裁が可能であるのも、もちろんアメリカ軍を主体とする日米の軍事力が北朝鮮のそれに対して圧倒的に強大であるからです。

北東アジアをめぐる長期的な展望については、かっては次のように論じたことがあります。

 「北東アジアの夢―――六カ国協議の遠い行方

https://goo.gl/cSieFZ

しかし、確かに100年後、200年後の遠い行方については、そのような「夢」を語ることも許されるかもしれないが、さしあたっての次のdecade、10年についてはそのような楽観はできないと思います。

現在トランプ大統領が北朝鮮と行なっている交渉の行方は、日本の将来の動向にも深く関わってくる。その交渉の行方次第で、北東アジアにおける日本の安全保障上の地位(立場)が大きく変わってきます。

日本にとって北朝鮮の脅威が深刻であるのは、北朝鮮の保有する核爆弾と弾道ミサイルの射程が日本国民の頭上に定められているからです。今回の米朝交渉を通じて、トランプ大統領ははたして北朝鮮にその保有する核と弾道ミサイルの「完全廃棄」を実現させることができるのでしょうか、――これには金正恩は命がけで反対するでしょう。――したがってこの場合には、米朝交渉は決裂する可能性は大きいと思います。

しかし、文在寅と金正恩は、先に行なわれた南北朝鮮会談と、そこで発せられた「板門店宣言」を舞台とする国内外のマスコミを最大限に利用、活用して、「平和友好ムード」演出劇の国際的な拡散を狙って、国際世論の「平和志向」に火をつけるべく「世論操作」を行ないました。そうしてトランプ大統領に対して北朝鮮に対する軍事力行使を回避させるべく環境整備を徹底して行ないました。文在寅は「ノーベル平和賞」をトランプ大統領に譲るとまで言いました。

中国の「協力」もあって、今回の日米を主体とする北朝鮮に対する国際的な経済的な制裁圧力によって、北朝鮮の経済は破綻の瀬戸際にまで追い込まれました。金正恩は会談にまで自ら足を運んで出向かざるを得なくなりました。文在寅はそれを自らの望む朝鮮統一の絶好の好機としました。朝鮮戦争の「終結宣言」と北朝鮮との「平和条約」の締結を通して、彼は在韓アメリカ軍の韓国からの撤退を目指しています。

こうした状況において、日本国民の立場からすれば、金正恩とトランプによる米朝交渉の行方としては、次の二つの可能性を推測するしかありません。

現在北朝鮮の保有する総ての核兵器、短中長距離弾道ミサイルの「完全廃棄」をトランプ大統領は実現させるのか、それとも、アメリカにとって自らの直接の脅威となる核と長距離弾道ミサイルの廃棄だけを求めて、同盟国である韓国や日本に対する脅威となる短中距離弾道ミサイルの存在を許し、核兵器の段階的廃棄を認めて妥協するか、です。

歴史的な名声とノーベル平和賞に眼がくらんだトランプ大統領が、米朝会談の決裂を避けるために、核兵器と弾道ミサイルの完全廃棄を絶対的に拒否する金正恩に譲歩するということもありえます。

文在寅たちのつくりあげた「平和」を求める国際世論の醸成とノーベル平和賞という撒き餌につられて、トランプ大統領が、もし自国アメリカのみの当面の安全保障に満足して金正恩との交渉を妥結することになれば、北朝鮮の核ミサイルという深刻な脅威は、同盟関係にあるはずの、とりわけ日本には残されたままになります。その時に安倍首相はトランプ大統領をどこまで説得できるでしょうか。

確かにそこで「平和」という体裁はいちおう保たれるでしょう。しかし、この米朝会談によっては残念ながら同盟国であるはずの日本の安全は保証されません。北東アジアにおいて日本は、ロシア、統一朝鮮、中国、アメリカといった軍事強国に包囲された単なる「経済大国」として残されることになります。その場合には日本は、これらの軍事強国に対する「現金支払機」の地位に留まることになるでしょう。統一朝鮮から莫大な資金援助をもとめられ、それがまた自らの首をしめることになります。

「平和」の継続としてそれを日本国民の多数が受け入れるのならそれも仕方がないでしょう。実際にそうした未来は、これらの周辺諸国民にとっても「平和」の維持、継続する最も好ましい状況として受け入れられるでしょう。ただ、そのとき日本国民は第二次世界大戦当時のユダヤ人が周辺諸民族から受けたような境遇をたどることになるはずです。かってのユダヤ人たちも今日の日本人とおなじように、経済的には相応の地位を占めていたけれども、まともな国家も軍事的主権ももっていませんでした。大東亜戦争における日本の戦争と統治に対する中国人や朝鮮人の憎しみと復讐心も、観念的にイデオロギー的に強められこそすれ、今なお消えてはいません。

トランプ大統領はこれまでの閣僚人事において、対北朝鮮との交渉に融和的なビジネスマン出身の国務長官ティラーソンや軍人出身のマクマスター大統領補佐官を更迭し、CIA 長官に任命したポンペイオをさらに新たな国務長官に、また軍事力の行使に優柔不断な軍人出身のマティス国防長官などを差し置いて、大統領顧問にボルトンを迎え入れました。

また、前アメリカ太平洋軍司令官ハリスを次期の駐韓米国大使に予定するなど、こうしたトランプ政府の閣僚人事だけを見れば、現段階においてトランプ大統領は北朝鮮に核とミサイルの「完全廃棄」させることを放棄していないということは言えます。しかし、いずれにせよ、やはり最終的な決断はトランプ大統領自身が下すことになります。ボルトンの「リビア方式による核兵器廃棄」などの進言を彼に受け入れることができるかどうかは最後までわかりません。日本の官僚たちもそうした状況は十分にシュミレーションしていると思いますが。

 
 
 
 
 
 

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