ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第六十五節[悪と不良]
§65
Die Gesinnung, Andern mit Wissen und Willen zu schaden, ist böse. Die Gesinnung, welche sich Pflichten gegen Andere, auch gegen sich selbst zu verletzen erlaubt, aus Schwäche gegen seine Neigung, ist schlecht.
第六十五節[悪と不良]
知識 と 意志 とをもって他者を害するような心情は 悪 である。自分自身の性格の弱さから、他者への義務を、また自分自身に対する義務をもないがしろにすることを許すような心情は 不良 である。
Erläuterung.
説明
Dem Guten steht das Böse(※1), aber auch das Schlechte entgegen. Das Böse enthält, dass es mit Entschluss des Willens geschieht. Es hat also vor dem Schlechten das Formelle, eine Starke des Willens, die auch Bedingung des Guten ist, voraus.
善に悪は対立するが、しかし不良もまた、善に対立する。悪は意志の決意によって生じる。だから、悪は不良と比べて、形式を、同じく善の条件でもあるところの意志の強さを、前提とする。
Das Schlechte hingegen ist etwas Willenloses. Der Schlechte geht seiner Neigung nach und versäumt dadurch Pflichten. Dem Schlechten wäre es auch recht, wenn die Pflichten erfüllt würden, nur hat er den Willen nicht, seine Neigungen oder Gewohnheiten zu bemeistem.
それに対して、不良とは意志を欠くものである。不良は性向によるもので、かつ、そのために義務をないがしろにする。もし義務が果たされさえするなら、不良もまた正しいということになるだろうが、ただ、不良は自分の性向や習慣を克服する意志をもたないだけである。
※1
das Böse、Der Schlechte
は英訳では、それぞれ、Evil と Bad として訳している。
※2
善と悪は対立概念であるが、意志の強さは共通している。それに対して、不良(Der Schlechte)には、意志が欠けている。
第一課程、序の一 において「この教課の対象は人間の意志である」と述べているように、「意志」が主題であることは、ここでもはじめから一貫している。