社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

田中尚美「国連における女性に関する統計のための諸活動」伊藤陽一編『女性と統計』梓出版社, 1994年

2016-10-09 18:04:51 | 6-1 ジェンダー統計
田中尚美「国連における女性に関する統計のための諸活動(第1章)」伊藤陽一編『女性と統計―ジェンダー統計論序説―』梓出版社, 1994年

1975年は国連女性年であり, 世界女性会議がメキシコで開催された。今から, 40年ほど前のことである。会議開催後, 第30回国連総会は, 1976年から85年までの10年間を「国連女性の10年:平等・開発・平和」と宣言し, 女性の社会的地位改善の諸活動に関わる「行動計画」を提言した。80年には, コペンハーゲンで, 世界会議が行動計画の実施状況の点検を目的に開かれた。

本稿は, 概略上記のように, 女性の地位と環境の改善のための国際的取り組みが国連を中心に展開された時期に, とくに統計の分野で進められた諸活動に焦点をしぼって記述, 紹介したものである。全体は3節で構成され, 1節では1975年から80年まで, 2節では1980年から85年まで, 3節では1985年以降, (この本が出版された)90年代前半までである。

 女性に関する統計的諸活動の成果は, 現在は, ジェンダー統計(あるいはジェンダー平等統計)と呼ばれる。1975年以降の女性に関する統計の諸活動は, ジェンダー統計分野が確立する過程そのものである。もっとも, これらの諸活動が, 1975年の時点から突然起こったのではない。それ以前から, 国連統計委員会, あるいはILOの国際労働統計家会議で, 議論や活動の蓄積があり, それが基盤となって, 75年以降の展開となる。また, ジェンダー統計の国際的展開を可能にしたのは, 北米, 北欧また多くの途上国での女性解放運動であり, 国連の統計委員会と事務局, INSTRAW(国連女性訓練研修所:インストロー, 1979年設立), ILO, OECDなどの各機関, 各組織の連携, 協力である。筆者は, 冒頭で, その点への注意を喚起している。

 1975年から80年までの諸活動で特筆されているのは, 75年の国際女性会議で採択された行動計画で示された, 女性に関するデータの研究, 収集, 分析の重要性, これらの事業に国連とりわけ経済社会理事会の機能委員会である統計委員会が果たしうる役割の重要性である。また80年人口住宅センサスに向けた活動が, さらに統計局が作成した文書「性的ステロタイプ, 性的偏りおよび国家システム」が紹介されている。

 1980年から85年までの諸活動では, コペンハーゲンで開催された国連女性の10年世界会議で採択された「国連女性の10年後半期計画」に注目している。筆者はそのなかから, 「国内レベルの行動」「国際的・地域的レベルの行動」の主要項目を列挙している。女性の状況に関する統計資料集が次々と公にされたのもこの時期の特徴である(『女性の状況に関する主要統計と指標』, 『女性の状況に関する社会指標の編集』『女性の状況に関する統計指標の概念と改善』)。

 1985年以降の諸活動では, 85年世界女性会議(ナイロビ)と2000年に向けた将来戦略, ジェンダー統計視点からの世帯調査の再検討, インフォーマル部門での女性の貢献への着目, 女性に関する包括的統計集の作成の進展(『女性の状況に関する統計と視標大要1986年』『世界の女性1970-90年:その実態と統計』)とデータベースの開発, さらには地域経済委員会の活動(出版物としては『アフリカ工業, 商業, サービス業のインフォーマルセクターにおける女性統計編集ハンドブック』『アフリカ4か国の工業, 商業, サービス業のインフォーマルセクターにおける女性統計編集に関する試験的諸研究の総合』), ILOの統計活動(出版物としては『女性の開発にたいする経済的貢献の評価』, 他に国際標準職業分類, 国際標準産業分類の改訂)などが紹介されている。

 本書の全体は, 格差と差別のもとにある女性の状況を確認し, その改善のプロセスを監視するために統計を活用する運動と理論, すなわちジェンダー統計の動向と理論に関する問題提起の書であるが, 本稿はその巻頭をかざるにふさわしく, 1975年以降の女性統計の改善をめざす国際的な動向に関する丁寧な紹介であり, 貴重な資料である。

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