岩崎俊夫「職業別性別隔離指数」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年(「女性就業者と性別隔離指数」『統計的経済分析・経済計算の方法と課題』八朔社,2003年,所収)
性別隔離指数は,職業,産業,従業上の地位にみられる性別就業率の偏りの程度を指数の形式で要約した統計指標である。種々の性別隔離は性別賃金格差の強固な社会的温床のひとつに数えられ,その除去は各国で課題となっている。この課題を解決するための判断材料として使われるのがこの指数である。本稿は女性労働の実態をこの指数で,あるいは関連した統計指標で把握することを目的としている。具体的には,この統計指標で性別隔離の現象が女性労働の実態のどの側面をとらえるのかを紹介し,次いでこの指標の意義と限界を検討し,それらの検討を踏まえ,日本の国勢調査の職業別就業者の統計を活用した指数の計算結果を示している。
性別隔離指数の登場は,それほど古くはない。国際的には1960年代以降のことである。日本へのその紹介はかなり遅れ,1980年代半ばである。断片的紹介は岩本純「労働市場の中の女性」(鎌田とし子編著『転機にたつ女性労働』学文社[1987年]所収),大澤真理『企業中心社会を超えて-現代日本を(ジェンダーで)読む』時事通信社(1993年)などがあるが,この統計指標を本格的にとりあげ,その意義と限界を論じたのは日本ではこの論稿が最初である。
性別隔離には水平的隔離と垂直的隔離とがある。前者は同一の職業内あるいは同一の産業内のある特定のカテゴリーに一方の性の就業者(あるいは雇用者)が集中している状態を指す。これに対して後者は,同一の職業内での職位の上下関係(従業上の地位)に生じる一方の性の偏在を指す。本稿の論点は主として,水平的隔離の状態に関して限定されている。性別隔離指数には,女性表出計数CFR(coefficient of female representation)と男性表出計数CMR(coefficient of male representation )とが組み込まれている。
DIは職業分類上のすべての職業について,女性就業者の比率と男性就業者の比率との差を計算し,その絶対値の総和をもとに,女性就業者と男性就業者との職業分布の偏りを指数化したものである。CIは職業ごとの就業者の全就業者にしめる比率と女性就業者についてのそれとを対比し,両者の差の絶対値の総和をもとめることで女性就業者の分布の偏りを指数化したものである。
筆者はそれぞれの指数の意味を明確にするために,いくつかの数値例を使って説明をおこなっている。例として示されているのは,完全隔離型就業モデル,非隔離型就業モデルなど5タイプである。結論として,これらの指数によって職業間の性別隔離は数量的に表現され,おおまかな判断はできることがわかる。とくに,時系列的な比較が可能なまでに統計が集積されると性別就業者構造の変化について一定の認識を得ることができる。筆者は,しかし,注意を要する点があるとして若干の指摘を行っている。第一にこれらの指数は,職業ごとの女性就業者と男性就業者のそれぞれの総数に対する比率を前提としているので,これだけで性別隔離の実態を判断するのは早計である。総数が少ない場合は,問題にされない。第二にこれらの指標が政策的意味をもつ指標であるかのように受け止めることが妥当かどうか,ということに関係している。それぞれの性の就業者の職業別配分比(性別隔離の現状)は資本の論理,固定的性役割分担の習慣,種々の法的,制度的諸条件の結果であるがゆえに,それらを無視して政策的に構成比を変えようとしても現実的な提案とはならない。その意味で指数は,机上計算にすぎないという側面をもつ。第三に指数を職業分類のどの次元(大分類,中分類,小分類)で計算するかによって,その値は微妙に異なる。第四に性別隔離指数によって隔離の事実を明確に確認できたとしても,そこから性差別の正確な事実認識に至るまでには隔たりがある。この隔たりを埋めるには,職業別の賃金格差など労働条件の実態を示す他の統計指標との関連づけが不可欠である。
筆者は性別隔離指数について,以上の紹介と検討を行った後,国勢調査の「職業,従業上の地位,男女別15歳以上就業者数」の統計を使って(1980年~2005年),就業者と雇用者の隔離指数を計算している。計算は職業大分類と小分類とで行っているが,前者では計算が大まかで実態が反映しにくいので,小分類を用いた計算結果が重視されている。注意を要するのは,対象時点で職業分類の基準が微妙に異なること,雇用者に関してはこの概念に役員を含める場合と除く場合とで別々に計算するの適切であること,である。計算結果から言えることは,DI,CIともに就業者のその値は1975年から95年にかけ,90年でいったん足踏みしたものの傾向的に上昇していること,しかし95年以降は低下傾向にあることである。指数の推移だけからみると,性別隔離の傾向は縮小している。同じことは,雇用者で役員を含む場合についても,除く場合についても言える。
筆者は最後に同じ対象期間で,女性就業者の多い職種の推移を統計的に一覧し,その特徴点を列挙している。ここでは対象年における女性就業者の一般的増加傾向(近年では鈍化しているが),女性就業者の実数の多い職業(「一般事務員」が一貫して最も多く,過去年には「農耕・養蚕作業者」がこれに続いていたが,90年以降は「会計事務員」「販売店員」がそれに代わっている),女性就業者の比率の高い職業の推移が示されている。95年から2005年にかけては,福祉関係,清掃関係の職業従事者の増加が目立つ。
国調にもとづく指数計算,女性就業者の動向に分析は2005年で止まっているので,2010年,2015年に実施された国調の統計で補完する必要がある。
性別隔離指数は,職業,産業,従業上の地位にみられる性別就業率の偏りの程度を指数の形式で要約した統計指標である。種々の性別隔離は性別賃金格差の強固な社会的温床のひとつに数えられ,その除去は各国で課題となっている。この課題を解決するための判断材料として使われるのがこの指数である。本稿は女性労働の実態をこの指数で,あるいは関連した統計指標で把握することを目的としている。具体的には,この統計指標で性別隔離の現象が女性労働の実態のどの側面をとらえるのかを紹介し,次いでこの指標の意義と限界を検討し,それらの検討を踏まえ,日本の国勢調査の職業別就業者の統計を活用した指数の計算結果を示している。
性別隔離指数の登場は,それほど古くはない。国際的には1960年代以降のことである。日本へのその紹介はかなり遅れ,1980年代半ばである。断片的紹介は岩本純「労働市場の中の女性」(鎌田とし子編著『転機にたつ女性労働』学文社[1987年]所収),大澤真理『企業中心社会を超えて-現代日本を(ジェンダーで)読む』時事通信社(1993年)などがあるが,この統計指標を本格的にとりあげ,その意義と限界を論じたのは日本ではこの論稿が最初である。
性別隔離には水平的隔離と垂直的隔離とがある。前者は同一の職業内あるいは同一の産業内のある特定のカテゴリーに一方の性の就業者(あるいは雇用者)が集中している状態を指す。これに対して後者は,同一の職業内での職位の上下関係(従業上の地位)に生じる一方の性の偏在を指す。本稿の論点は主として,水平的隔離の状態に関して限定されている。性別隔離指数には,女性表出計数CFR(coefficient of female representation)と男性表出計数CMR(coefficient of male representation )とが組み込まれている。
DIは職業分類上のすべての職業について,女性就業者の比率と男性就業者の比率との差を計算し,その絶対値の総和をもとに,女性就業者と男性就業者との職業分布の偏りを指数化したものである。CIは職業ごとの就業者の全就業者にしめる比率と女性就業者についてのそれとを対比し,両者の差の絶対値の総和をもとめることで女性就業者の分布の偏りを指数化したものである。
筆者はそれぞれの指数の意味を明確にするために,いくつかの数値例を使って説明をおこなっている。例として示されているのは,完全隔離型就業モデル,非隔離型就業モデルなど5タイプである。結論として,これらの指数によって職業間の性別隔離は数量的に表現され,おおまかな判断はできることがわかる。とくに,時系列的な比較が可能なまでに統計が集積されると性別就業者構造の変化について一定の認識を得ることができる。筆者は,しかし,注意を要する点があるとして若干の指摘を行っている。第一にこれらの指数は,職業ごとの女性就業者と男性就業者のそれぞれの総数に対する比率を前提としているので,これだけで性別隔離の実態を判断するのは早計である。総数が少ない場合は,問題にされない。第二にこれらの指標が政策的意味をもつ指標であるかのように受け止めることが妥当かどうか,ということに関係している。それぞれの性の就業者の職業別配分比(性別隔離の現状)は資本の論理,固定的性役割分担の習慣,種々の法的,制度的諸条件の結果であるがゆえに,それらを無視して政策的に構成比を変えようとしても現実的な提案とはならない。その意味で指数は,机上計算にすぎないという側面をもつ。第三に指数を職業分類のどの次元(大分類,中分類,小分類)で計算するかによって,その値は微妙に異なる。第四に性別隔離指数によって隔離の事実を明確に確認できたとしても,そこから性差別の正確な事実認識に至るまでには隔たりがある。この隔たりを埋めるには,職業別の賃金格差など労働条件の実態を示す他の統計指標との関連づけが不可欠である。
筆者は性別隔離指数について,以上の紹介と検討を行った後,国勢調査の「職業,従業上の地位,男女別15歳以上就業者数」の統計を使って(1980年~2005年),就業者と雇用者の隔離指数を計算している。計算は職業大分類と小分類とで行っているが,前者では計算が大まかで実態が反映しにくいので,小分類を用いた計算結果が重視されている。注意を要するのは,対象時点で職業分類の基準が微妙に異なること,雇用者に関してはこの概念に役員を含める場合と除く場合とで別々に計算するの適切であること,である。計算結果から言えることは,DI,CIともに就業者のその値は1975年から95年にかけ,90年でいったん足踏みしたものの傾向的に上昇していること,しかし95年以降は低下傾向にあることである。指数の推移だけからみると,性別隔離の傾向は縮小している。同じことは,雇用者で役員を含む場合についても,除く場合についても言える。
筆者は最後に同じ対象期間で,女性就業者の多い職種の推移を統計的に一覧し,その特徴点を列挙している。ここでは対象年における女性就業者の一般的増加傾向(近年では鈍化しているが),女性就業者の実数の多い職業(「一般事務員」が一貫して最も多く,過去年には「農耕・養蚕作業者」がこれに続いていたが,90年以降は「会計事務員」「販売店員」がそれに代わっている),女性就業者の比率の高い職業の推移が示されている。95年から2005年にかけては,福祉関係,清掃関係の職業従事者の増加が目立つ。
国調にもとづく指数計算,女性就業者の動向に分析は2005年で止まっているので,2010年,2015年に実施された国調の統計で補完する必要がある。
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