中野恭子「インストローと女性に関する統計」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年
INSTRAW(インストロー:国際連合国際女性調査訓練所[United Nation International Research and Training Institute for the Advancement of Women])は,「国際女性の10年」の発端となった1975年世界女性会議(メキシコ)の要請で設立された国連機関である。その中心的活動は,開発途上国の女性の役割を積極的に取り入れ,途上国の女性の経済活動を評価し,自立のためのプログラムの研究および訓練活動を推進することである。関連して統計研究にとくに重きをおいている。INSTRAWの設立経緯,活動内容などに関する論稿は意外と少ない。それゆえに,INSTRAWの存在は,日本では今でもあまり知られていない。本稿はそのINSTRAWについて,組織の概略と女性統計に関する活動を紹介したものである。
主題の性質上,以下の要約は本稿によって得たINSTRAWの紹介である。ただし,その内容は,当然ながら,この論稿執筆当時在のものである。
INSTRAWの本拠地はドミニカ共和国(サント・ドミンゴ)にある。その設置は1981年3月31日の国連とドミニカ共和国との間の調印を経て,8月18日のドミニカ共和国の国会で承認された。活動そのものは,1981年1月からニューヨークの国連本部でスタートしていた。
INSTRAWの規約は第38回国連総会での決議の要請に基づいて事務局長が草案を作成し,INSTRAW評議会がこれを検討,修正のうえ経済社会理事会に報告,これを受けて経済社会理事会が総会に文書を提出し,第39回総会で承認された。INSTRAWは女性の地位向上をめざす国連の組織のひとつであるが,他の関連組織である(1)女性の地位委員会,(2)女性差別撤廃委員会,(3)国連女性開発基金,(4)女性の地位向上部,と共同して女性差別撤廃条約の基準の実現を目指している。INSTRAWは,とくに研究開発部門を担う。
筆者はINSTRAWの組織的概要を(1)設立の経緯と目的(①INSTRAWの設立まで(メキシコ会議の決議,国連の動き,活動開始),②設立の目的,(2)組織の概要(①評議会,②所長とスタッフ,③その他,④財政)で詳しく説明しているが,要約者であるわたしの関心は「INSTRAW の活動」である。
その活動は,主として調査と訓練である。調査は女性の状況と活動をより正確かつ包括的に記述し,定義すること,訓練はそのために有効な方法を開発することである。1987年の国連第42回総会ではINSTRAWに対し,開発の経済社会問題に注目した研究,訓練,情報収集活動の継続・強化とともに,ナイロビ戦略にそった実践的方法論の開拓,諸機関とくに地域委員会との連携が要求された。また第44回総会では,インフォーマルセクターの女性への言及,開発途上国内での訓練機能の強化を含む決議がなされた。この勧告の後に,1990-91年の活動計画では,研究および訓練のプログラムに関連して6つのサブプログラムが設定された。それらは,①女性と開発への包括的アプローチ,②女性の統計,指標,データ,③政策決定,④分野別活動,⑤女性と開発における訓練ならびに訓練資料の作成,⑥ネットワーク形成,である。
INSTRAWでは統計活動が重視されている。筆者は1980-90年の10年間のINSTRAWニュースによりながら,その統計活動をまとめている。
[1980-85年]女性に関するデータと指標の利用可能性を向上させ,利用を促進するための概念と手法が開発された。具体的には,経済活動,とくにインフォーマルセクターでのそれの再定義,既存の概念的枠組み,分類,定義の見直し,女性の状況についての統計ならびに指標をより良く編集し,分析すること,国別・地域別・国際レベルでの女性の状況について,統計の作成者および利用者のための技術的ガイドとなる報告書(「女性の状況に関する社会的指標の編集」「女性の状況に関する統計と指標の概念と方法の改善」)の作成,『経済活動における女性:世界的統計調査(1950-2000)』の出版(ILOとの共同)である。
[1985-90年]この時期にはインフォーマルセクターに関する研究と活動,SNA関連の研究(生産境界の拡大,国際標準職業分類[ISOC],国際標準産業分類[ISIC]の変更に関する指摘),家事労働に関連する研究,データベースの整備が精力的に進められた。その他,INSTRAWニュースの定期的発行,『世界経済における女性』『世界の女性1970-1990,その実態と統計』の発刊が特筆される。
筆者は最後に,INSTRAWの活動の成果と問題点を2点ずつ指摘している。成果としては,(1)INSTRAWが国連のシステムのなかで他の組織と連携し,独自の活動を進めてきたこと,とくに女性の経済活動を統計や指標で示す努力を行い,SNAやISOCの改訂を含む統計の改善に寄与したこと,(2) INSTRAWが研究と実践の両面で女性をエンパワーしてきたこと,が挙げられている。問題点としては,(1)女性の地位向上をめざすNGOなどの民間組織との連携が明確でないこと,(2) INSTRAWの統計研究が各国,地域に固有の文化および歴史に理解が届いていないきらいがあること,が指摘されている。今後の課題である。
INSTRAW(インストロー:国際連合国際女性調査訓練所[United Nation International Research and Training Institute for the Advancement of Women])は,「国際女性の10年」の発端となった1975年世界女性会議(メキシコ)の要請で設立された国連機関である。その中心的活動は,開発途上国の女性の役割を積極的に取り入れ,途上国の女性の経済活動を評価し,自立のためのプログラムの研究および訓練活動を推進することである。関連して統計研究にとくに重きをおいている。INSTRAWの設立経緯,活動内容などに関する論稿は意外と少ない。それゆえに,INSTRAWの存在は,日本では今でもあまり知られていない。本稿はそのINSTRAWについて,組織の概略と女性統計に関する活動を紹介したものである。
主題の性質上,以下の要約は本稿によって得たINSTRAWの紹介である。ただし,その内容は,当然ながら,この論稿執筆当時在のものである。
INSTRAWの本拠地はドミニカ共和国(サント・ドミンゴ)にある。その設置は1981年3月31日の国連とドミニカ共和国との間の調印を経て,8月18日のドミニカ共和国の国会で承認された。活動そのものは,1981年1月からニューヨークの国連本部でスタートしていた。
INSTRAWの規約は第38回国連総会での決議の要請に基づいて事務局長が草案を作成し,INSTRAW評議会がこれを検討,修正のうえ経済社会理事会に報告,これを受けて経済社会理事会が総会に文書を提出し,第39回総会で承認された。INSTRAWは女性の地位向上をめざす国連の組織のひとつであるが,他の関連組織である(1)女性の地位委員会,(2)女性差別撤廃委員会,(3)国連女性開発基金,(4)女性の地位向上部,と共同して女性差別撤廃条約の基準の実現を目指している。INSTRAWは,とくに研究開発部門を担う。
筆者はINSTRAWの組織的概要を(1)設立の経緯と目的(①INSTRAWの設立まで(メキシコ会議の決議,国連の動き,活動開始),②設立の目的,(2)組織の概要(①評議会,②所長とスタッフ,③その他,④財政)で詳しく説明しているが,要約者であるわたしの関心は「INSTRAW の活動」である。
その活動は,主として調査と訓練である。調査は女性の状況と活動をより正確かつ包括的に記述し,定義すること,訓練はそのために有効な方法を開発することである。1987年の国連第42回総会ではINSTRAWに対し,開発の経済社会問題に注目した研究,訓練,情報収集活動の継続・強化とともに,ナイロビ戦略にそった実践的方法論の開拓,諸機関とくに地域委員会との連携が要求された。また第44回総会では,インフォーマルセクターの女性への言及,開発途上国内での訓練機能の強化を含む決議がなされた。この勧告の後に,1990-91年の活動計画では,研究および訓練のプログラムに関連して6つのサブプログラムが設定された。それらは,①女性と開発への包括的アプローチ,②女性の統計,指標,データ,③政策決定,④分野別活動,⑤女性と開発における訓練ならびに訓練資料の作成,⑥ネットワーク形成,である。
INSTRAWでは統計活動が重視されている。筆者は1980-90年の10年間のINSTRAWニュースによりながら,その統計活動をまとめている。
[1980-85年]女性に関するデータと指標の利用可能性を向上させ,利用を促進するための概念と手法が開発された。具体的には,経済活動,とくにインフォーマルセクターでのそれの再定義,既存の概念的枠組み,分類,定義の見直し,女性の状況についての統計ならびに指標をより良く編集し,分析すること,国別・地域別・国際レベルでの女性の状況について,統計の作成者および利用者のための技術的ガイドとなる報告書(「女性の状況に関する社会的指標の編集」「女性の状況に関する統計と指標の概念と方法の改善」)の作成,『経済活動における女性:世界的統計調査(1950-2000)』の出版(ILOとの共同)である。
[1985-90年]この時期にはインフォーマルセクターに関する研究と活動,SNA関連の研究(生産境界の拡大,国際標準職業分類[ISOC],国際標準産業分類[ISIC]の変更に関する指摘),家事労働に関連する研究,データベースの整備が精力的に進められた。その他,INSTRAWニュースの定期的発行,『世界経済における女性』『世界の女性1970-1990,その実態と統計』の発刊が特筆される。
筆者は最後に,INSTRAWの活動の成果と問題点を2点ずつ指摘している。成果としては,(1)INSTRAWが国連のシステムのなかで他の組織と連携し,独自の活動を進めてきたこと,とくに女性の経済活動を統計や指標で示す努力を行い,SNAやISOCの改訂を含む統計の改善に寄与したこと,(2) INSTRAWが研究と実践の両面で女性をエンパワーしてきたこと,が挙げられている。問題点としては,(1)女性の地位向上をめざすNGOなどの民間組織との連携が明確でないこと,(2) INSTRAWの統計研究が各国,地域に固有の文化および歴史に理解が届いていないきらいがあること,が指摘されている。今後の課題である。
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