社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

石原健一「統計資料の利用と統計指標」吉田忠編『現代統計学を学ぶ人のために』世界思想社,1995年

2016-10-09 18:06:35 | 6.社会経済統計の対象・方法・課題
石原健一「統計資料の利用と統計指標」吉田忠編『現代統計学を学ぶ人のために』世界思想社,1995年

 筆者の統計指標の定義は,広い。社会の数量的関係を集団的性質として示す統計値としてのメリットを生かし,統計値そのもの,ないしそれを加工したもの,というのがそれである。そして,統計指標体系には大別して2とおりある,という。一つは問題別統計指標配列(人口,雇用,物価など)であり,もう一つは形式的統計指標体系(平均,比率,指数など)である。筆者はこれらに対し,統計値が統計資料ないし統計表のなかで占める位置の相違で,また統計値間の関係ないしその組み合わせの算式で区別する統計指標体系を内容的統計指標体系と呼んで,それは以下のようなものである。

【内容的統計指標体系】
■ 静態的な統計資料に基づく統計指標
•統計値そのものとしての統計指標(分布を前提としない)
・構成要素の数
 ・構成要素の総数(集団の大きさ)      人口,事業所総数
 ・構成要素の発生・消滅数(その相対数)   出生数(出生率)
・構成要素の標識の値
 ・総計量(額)                 総農地面積
 ・平 均                  平均農地面積
•複数の統計値の関係としての統計指標(分布を前提としない)
・対立比率                  有効求人倍率
・密度比率                  農地1haあたり農機具数 
・格差                    貿易収支,業況DI 
•分布としての統計値から得られる統計指標
・構成要素の度数分布
・各部分の大きさ(その相対比=構成比率)  高齢者数(高齢化比率)
・部分集団間の関連             従属人口率,αインデックス
・度数分布の集団の中心           代表値
・バラツキの大きさ(分布の形を前提としない)分散,変動係数,ジニ係数
・バラツキの大きさ(分布の形を前提とする) ジニ係数,パレート係数
・構成要素の標識の値
・各部分集団における小計          県別農地面積
・各部分集団における標識の平均       県別平均農地面積
・各部分集団の格差(相対比)        (格差率)      
•複数の分布としての統計値からえられる統計指標
・複数の分布間のバラツキの差異=特化係数   職業間性別隔離
・複数の分布間のバラツキの相関・対応係数   相関係数,主成分
•複数の統計資料からの各種統計指標を総合加工してえられる統計指標
・累化積+控除,累化積+比率         GNP,食料自給率 
■統計資料の時系列に基づく統計資料  
•統計値の変化関係 
・単独の統計値の変化関係(対前期)       変化率
・単独の統計値の変化関係(対基準値)      単純指数
・複数の統計値の変化関係
・分布を前提とする(全体・部分関係)   寄与度・寄与率
・分布を前提としない(投入・産出関係)  弾力性 
•分布における統計値間関連の変化関係
 ・回帰関係                 エンゲル係数,フィリップ曲線 
•複数統計資料の系列からの各種統計指標を総合加工してえられる統計指標
・単純指数の加重平均 ラスパイレス指数
・複数の統計指標の変化方向の比率      デフュージョン・インデックス
・複数の月別格差率の総合          季節変動指数
・各種変化率の総合的延長          将来推計人口 

 しかし,筆者はこの体系でもまだ不十分で,社会的集団現象としての社会生活の諸局面を全体的体系的に示す社会科学的統計指標体系を提唱するがいまだ手がついていないと言う。

 この後,統計指標による社会・経済問題への接近として,①高齢化社会の将来人口推計,②景気予測と景気動向指数,③価格破壊と消費者物価指数を取り上げ,掘り下げている。具体的には,合計特殊出生率の人口問題研究所とNIRAによる推計値の相違,景気動向指数による景気動向予測の困難性,西友物価指数と総務省統計局の消費者物価指数との対比である。

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