社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

上杉正一郎「資本主義国における第二義統計の諸形態」『統計学』第8号, 1960年4月

2016-10-04 11:17:34 | 2.統計学の対象・方法・課題
上杉正一郎「資本主義国における第二義統計の諸形態」『統計学』(経済統計学会)第8号, 1960年4月, 『経済学と統計(改訂新版)』青木書店, 1974年

 今ではあまり使われない統計用語の一つに, 「第二義統計」がある。調査統計に対し, 組織や機関が日常業務で行っている諸活動の記録から作成される統計である。近年では「第二義統計」というより, 「業務統計」と呼ばれることが多い。

 「第二義統計」と言うと, 当然, 第一義統計が存在し, ニュアンスから第一義統計が主たる統計で, 第二義統計は従の統計のように受け取れる。あるいは副次的統計のようにも受け取られかねない。しかし, 業務統計は, それに固有の長所と短所があるが, 重要さの程度では, 調査統計に劣らない。「従」でも「副」でもない。

 本稿はその第二義統計(業務統計)をとりあげ, その意義, 種類を論じたものである。公表された時期が古いので, そこでとりあげられている組織・機関がすでになくなっているもの, 改組されて名称が変更になったものがあり, また示されている統計にも今ではないもの, 形をかえたものがある。以下の要約では, そのことをふまえ, 論稿にあがっている組織, 機関, あるいは個々の統計もそのままの形で使わせてもらう。

 第二義統計は, ドイツの社会統計学派の人たち(たとえばマイヤー)が使用していた。Sekundäre Statistik が原語である。これを第二義統計と訳したのは, 財津静治によると花房直三郎だ, と筆者は書いている(p.1)。

この第二義統計が, 過去に, 副次的なものとしてしか理解されていなかったり(それが間接大量観察法によるがゆえに), また頭から第一義統計に対して不正確な統計と性格づけられたりしたことがあったようである。筆者はこうした見解を拒否し, 次のように述べている, 「要するに第二義統計は, 第一義統計にくらべて一般に不正確だということはできない。この点においては, 第一義統計も第二義統計も同様であって, どちらが正確であるかは, 場合による。第二義統計の基本的な特徴はむしろ次の事実, すなわち『間接大量観察法においては, 大量観察の技術的過程の募集の仮定が全く省略され, 基礎たる材料は大量観察の理論的過程の規定とは全く無関係に得られたものであること』, したがって, 第二義統計は単位・標識の規定の面で, 統計の外部の事情によって制約を受けるという点である」と(p.4)。この引用のなかで, さらに引用されているのは, 蜷川虎三の文言(『統計学概論』)である。

 第二義統計が重要な統計であることを確認し, 筆者はそれを4つの形態に分類している。第一形態は, 被調査者としての国民, 企業・経営の届出・申告にもとづく統計である。筆者は, 当時のこの種の統計として, 住民登録移動統計, 外国人登録国籍別人員統計, 建築着工統計, 失業保険の適用を受けている事業者が提出する失業保険料申告書にもとづく賃金統計を例にあげている。これに近いものとして, 許可・認可・承認をもとめる申請書・願書を材料とする統計もこの第一形態に含まれるとして, 輸出承認統計を例示している。
第二形態は, 被調査者としての国民, 企業・経営の届出・申告・登記・申請を前提とせず, 官庁自身がその所管事務に関して作成した文書にもとづいて作成する統計である。司法統計, 警察統計, 検察統計, 税務統計などが, これである。この種の統計は, それぞれの官庁の活動記録からの統計であるが, 「成績」を示す一面ももっている点が指摘されている。

 第三形態は, 経済行政官庁が所管事務に関する業務資料にもとづいて作成する統計である。この形態の統計は所管事務統計である点で, 形式的には第二形態と似ているが, 内容的にみると経済行政官庁がその監督下におく企業の報告から作成することで, 官庁の行政活動をとらえる色彩が後退し, 企業・経営の側における経済活動の反映となっている。

 第四形態は国家, 国家資本の経済活動に関する統計である。鉄道・通信などの統計(当時は国鉄, 電電公社), 専売公社の業務統計, 日本銀行の業務統計がその例である。財政統計もここに入る。

 記述の順序が逆になるが, 筆者は第二義統計であるにもかかわらず, それが統計として利用されることが行政記録に反作用し, 記載事項が追加されることがある事実に着目している。第二義統計が, そのことによって内容的に豊かになるのである。
筆者は最後に次のように締めくくっている, 「・・・第二義統計は統計外の目的のために, 統計外の機構(行政機構・経済機構)によって作成される記録にもとづく統計であって, 資本主義諸国の統計体系において, 重要な位置を占めている。一般に, その材料となる統計外の記録が, 資本主義的な条件の下でえられる結果として, 資本主義下の第二義統計は, 資本主義に特有の性格をもち, その信頼性と正確性とは, 資本主義的な歴史条件に依存している。しかし, 資本主義下の第二義統計の誠実を, ・・・一般的に規定するだけでは十分でない。第二義統計は, それが生産される様式が異なるにしたがって, その形態を異にし, 問題を異にするから, これを区別して検討する必要がある」と(pp.11-12)。

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