社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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水野谷武志「統計制度改革の国際的動向と統計品質論」『統計学』第90号,2006年8月

2016-10-06 10:39:54 | 2.統計学の対象・方法・課題
水野谷武志「統計制度改革の国際的動向と統計品質論」『統計学』第90号[創刊50周年記念号]2006年8月

1990年代に入って国際的に活発になった統計品質論の内容,背景,それに関する先行研究を紹介し,日本の社会統計学との関わりについて論じた論稿。統計品質論とは,筆者によると,統計データの質,統計の生産から配布までの経過,さらにその過程を支える統計制度の質を問う一連の論議である。そこで重視されるのは,①統計利用者のニーズを重視し,②統計の質を評価し,結果を公表する過程までを射程に収め,③統計的生産物(一次統計資料や分析結果を含む最終生産物および統計基準等を含む中間生産物)を生産物一般の品質管理論としてとらえることである。

 最初に国際的な統計品質論議の動向が紹介されている。その背景にあったのは,1994年に国連統計委員会で採択された「政府統計の基本原則」の採択である。この「政府統計の基本原則」は,移行国を含めた全ての国に適用可能な政府統計の基本原則づくりの動きの成果としてまとめられたものであり,国際的な統計品質論議はこの原則が国際的に周知されていくプロセスと併行して展開された。アジアにおける通貨・経済危機と踵を接して生まれた90年代後半の統計への不信,先進国での統計予算の抑制,情報公開とプライバシー意識の浸透なども背景にあった。21世紀に入っての国連ミレニアム開発目標に象徴される,世界的規模での諸問題を統計によって把握し,改善の方策を模索し,その進捗度を測ることの重要性の国際諸機関や統計学界による認識がこれに連動した。 

 具体的にあげられているのは,(1)IMFによる金融関係の統計の作成と公表における基準の設定とそれにもとづく加盟国の統計情報の評価と公開,(2)EUROSTAT主催の「政府統計の品質と方法論に関する欧州会議」開催,(3)国連統計委員会・Q2004サテライト会議の開催,(4)国連統計部による『統計組織ハンドブック[改訂]』の発刊,である。筆者はさらに,その他のいくつかの注目すべき動向を紹介し,結論として,この時期の統計の品質論議が従来の統計誤差をめぐる議論を超えた一国の統計制度全体の在り方にまで及んでいること,国際機関の生産・編集する国際統計の品質に関する議論にまで深化していると小括している。

次に日本でのこの分野の先行業績の要約がある。経済統計学会会員によるものと,会員以外によるものとに分けて整理されている。何と言っても大きな貢献を成したのは,伊藤陽一である(伊藤陽一「アメリカ合衆国連邦統計における1990年代後半の統計改革」[1999],同「『統計の品質』をめぐって-翻訳と論文」[1999],同「統計の品質に関する総合的な枠組みの提示-政府統計における品質に関する国際会議」[2001],など)。筆者は伊藤の貢献を3点にまとめている。第一に,当該分野での論議の背景説明を綿密に行っていることである。第二に,議論がカバーする分野を5つに整理したことである(①品質評価の対象,②評価対象ごとの品質構成要素とその相互関係,③品質評価者と品質評価の方法,④品質評価結果の公表,⑤品質管理とその体制)。第三に,この国際論議の内容を次のようにまとめたことである。すなわち論議が日本での統計の信頼性,正確性の議論の内容を超えていること,議論が世界的規模に及んでいること,経済統計に限らない社会統計までも視野に入っていること,現実的改善策の提起があること,論議が地方統計,中央政府統計,国際統計のレベルで検討されるべきことの示唆があること,統計利用者ニーズを重視することのメリットとデメリットを指摘したこと,論議の意義を認めながらもその適用が国際統計機関構成員の意向を無視し,長時間労働を強いる可能性があることを指摘したこと,以上である。

 筆者は続いて,IMFが設置している統計の品質論議に関連するサイトの紹介を行っている。それらはSDDS(Special Data Dissemination Standard),GDDS(General Data Dissemination System), DQRS(Data Quality Reference Site)である。また,Q2004での統計の品質に関するEurostat の活動が紹介されている。さらに国連統計委員会主催のQ2004サテライト会議,国連統計部『統計組織ハンドブック』の説明がある。

 結論部分で,筆者は伊藤陽一の議論を踏まえながら,論点整理と問題提起を行っている。そのうちの主なものをあげると,統計調査の企画段階での民主制の保障,情報公開,プライバシー保護,統計調査員の意見の聴取などが必要であること,統計の品質保証の対象を統計的生産物,統計基準・方法,統計制度まで含めるべきであること,この一連の論議へのアジアや途上国の参加を加速化すべきこと,品質論議での品質保証の枠組みが並列的なので,これを是正すべきこと,などである。日本の社会統計学ではすでに統計の真実性(信頼性,正確性)の評価に関する議論が相当細かく議論されている。国際的な統計の品質論議ではこれらの議論と重なる部分も多いが,視野が広がっているので,それとの対応が必要である。しかし,この分野の研究への関心は,研究者レベルでも政府統計関係者の間でも十分でない。
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