東北アルパインスキー日誌 ブログ

東北南部の山での山スキー、山歩き、山釣りなどと共に、田舎暮らしなどの話を交えながら綴っています。

朝日連峰 三体山の雪崩斜面 2017.03.14

2017年03月16日 | 雪崩

今季初の三体山だったが、長井ダムに到着すると先行パーティーのものと思われるトレースがあり、その後年配のご夫婦風の2人がやってきてニコゴリ方面に向かった。何時もの渡渉点のスノーブリッジを通過して取付きの尾根を目指していると、後ろからハイペースでやってきたAさんの姿があった。

今日は合地沢狙いのようだが余り時間がないようで、トップを変わってもらってラクチンに後をついて行くと、前方には首都圏からやってきた先行パーティの4人の姿が。訳知りの方々が少しづつ増えているようで結構な賑わいで意外だった。

下部の尾根は毎度ながら重い雪とモナカ雪で息が上がってしまい、パワフルな先行のトレースをついて行くだけで日ごろの運動不足を改めて自覚させられる。

今回は桂沢の右斜面に狙いをつけて何時もの尾根から三体山の山頂に立ったが、三体沢の上部は稜線直下から広範囲に雪崩が発生した様子ではっきりと痕跡が残っていた。

東斜面に吹き溜まった不安定な雪が雪崩れた様子だが、広範囲で規模は大きくかなり下の沢まで達しているように思われた。先週も訪れたAさんはピットチェックでは弱層が見られず2本滑っている。今日の破断面は40~50cm有りそうで今度の弱層は最近出来たように思われる。

残念ながら計画は却下となり、登ってきた何時もの尾根を下降して本日は終了。前半は何とかついて行く事は出来たが下降は足が持たずにスローダウン。スタートからのオープンバーンは快適なパウダー斜面で、中盤までは快適な下降を続けて途中から桂沢にコースをとる。絶好調のAさんは相変わらずテクニカルでパウダー・重い雪・モナカ雪を軽く蹴散らして行く。流石です。

#東北 #雪崩 #山スキー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山スキー 東北 宮城蔵王・湯殿山・石御堂付近の雪崩の事例 2018.01.08

2017年03月01日 | 雪崩

古いブログを少し加筆修正しました。

北アルプスと比べて標高が低く、北海道より緯度が低い南東北の山は極上パウダーに恵まれるチャンスは少なく、12月末から2月上旬位がベストシーズンと思える。
しかし、日本海側の月山・鳥海山・飯豊・朝日連峰はもちろん、ジェット気流の中心部が通り易いといわれる蔵王連峰は毎度の悪天候に見舞われ、中々そのチャンスは巡ってこない。

最近はこの付き合いきれない悪天候愛想をつかし、蔵王連峰東面の北屏風東壁や南屏風のコガ沢は足が遠のいてしまった。特に風の強さは半端なものではなく、全く情け容赦のない仕打ちに自ずと月山/村山葉山に足が向いてしまう。月山だったら諦めてツリーランで気を紛らせる事もできる。

しかし、蔵王東面のルンゼも好天に恵まれれば素晴らしいパウダーコースとなり、エクストリーム的な要素を持った南東北を代表するエリアとなる。比較的アプローチにも恵まれ、最近はボーダー・テレマーカーの皆さんも訪れている。

しかし、忘れてならないのが雪崩への警戒心であり、雪崩の通過コースの事前認識も怠ってはならない。最近はビーコン・スコップ・プローブの携帯が常識となっていますが、道具は使いこなしてこそ初めて機能し、机上講習と訓練を積み重ねたと言って実践で即役に立つとは限らない。実体験だけは御免こうむりたいので訓練には限度があり、また、自然の脅威は人間の理解を超える事も有りえる。

自分では幸い本格的な雪崩に遭遇した事はないが、雪崩についての十分な知識を持ち合わせている訳でもない。むしろ初心にかえって基礎から学びたい気持ちもある。雪崩と天候に関する正しい知識と観察力、そして人間の力の及ばない自然の脅威と時の運が全てを支配する。

また、講習とか訓練は重要だがそれ自体が目的化し、活動の範囲を自ら狭めて山行計画が萎縮したり、必要以上にただ恐れる事態も避けたい。大切な事は知識や観察力の習得と共に、フィールドでの実体験と経験を積み重ねる事だと思う。天候や雪の状況判断などは他人任せで決して身に付くものではなく、自分で努力しないと成果は上がらないだろう。


【蔵王東面の雪崩エリアの一部について】

通い慣れた蔵王の東面で観察された画像ですが、このエリアを訪れる方には参考にして頂きたいと思います。但し、天候・積雪量によって状況は多様に変化すると思われますので、画像は全体の一コマであり全てでは有りません。

2005年3月6日 蔵王連峰東面 北屏風東壁の雪崩れ

北屏風(屏風山)に突き上げる雪稜の両側のルンゼが雪崩れ、左側の斜面(コース02)は東壁の基部までデブリが達しています。また、右の斜面(コース01)は山頂付近から雪崩が発生したという報告が有ります。

 

宮城蔵王 北屏風アプローチルートの雪崩 2016.03.16

 

2006年1月29日 蔵王連峰東面 コガ沢の雪崩れ 

南屏風から北屏風にかけての鞍部には1月頃に大きな雪庇が発達し易く、大きく成長して重さに耐えかね時、毎年1月下旬から2月上旬にかけてコガ沢に大きく崩壊している。デブリはコガ沢まで達する大規模な雪崩で、これによってコガ沢の滝壺が埋まります。

2009年2月11日 蔵王連峰東面 お釜斜面の雪崩

五色岳山頂から馬の背稜線側の斜面を撮影した画像ですが、稜線直下から全面雪崩が発生し、基部にデブリが堆積しています。通常馬の背を歩いている時は見る事は出来ませんが、1月頃には降雪直後には時々雪崩が発生している可能性が有り、お釜斜面を滑る際には慎重な判断が必要です。

宮城蔵王 井戸沢上部の雪崩 ( torasan ブログより)

宮城蔵王 井戸沢の雪崩。東斜面に位置する井戸沢上部は稜線付近からの吹き溜まりが出来やすく、降雪中やその直後には雪崩が発生しやすい。特にスキーカットによる人為的な雪崩に注意が必要です。

2012年12月30日 湯殿山東斜面の雪崩

2012年12月30日 湯殿山東斜面山頂付近の雪崩

湯殿山東斜面のブロック雪崩 2024.03

四ッ谷川左岸の斜面のブロック雪崩 2024.03

2018年1月6日 石跳川右岸 湯殿山寄りの斜面 破断面 50~60cm (石沢 孝浩様ページより)

 ⑤2010年2月24日 朝日連峰 石見堂岳に至る南東尾根斜面(1120m付近)で発生。⑤2010年2月24日

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮城蔵王 北屏風アプローチルートの雪崩 2016.03.16

2016年03月21日 | 雪崩

3月16日(水) 10:40AM 知人が宮城蔵王の烏帽子スキー場から後烏帽子を経由し北屏風を目指した際、ろうずめ平からの北屏風へのアプローチ斜面で雪崩に遭遇しました。
流された水平距離200m 高度差100m (GPS計測) でしたが、かろうじて脱出するこ事ができて無事生還しました。
流されて体はすっかり埋没しましたが、片手だけ出ていたので必死でかき分けて脱出した模様です。当日は単独行のため自力での脱出でしたが、かなりの体力の持ち主ですが消耗は激しかったようです。...
破断面は10~15cmほどで、雪崩が発生した瞬間は足元から上に細い亀裂が入り、上部から雪崩が発生して流されたようです。
当日は比較的気温は低く、破断面の下は固い斜面で弱層になっていたと思われます。
前日までの天候は13日(日)は晴天で気温が高く、14日(月)には風雪、15日(火)は下は雨で北屏風付近は雪だったと思われます。
以前、自分も過去何度か通ったコースですが、降雪時や降雪直後は不安定要素が強く、雪崩の疑いのある斜面では極力行動を控えた方が良いと再認識しました。

東北アルパインスキ―日誌

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

湯殿山東斜面の大規模な雪崩 東北 山スキー 2012年12月30日

2013年01月12日 | 雪崩

石跳川から姥ヶ岳に登った際に目撃した湯殿山東斜面の雪崩。雪崩は東斜面の全体に及んでおり、破断面は1.0m位で石跳川まで達しているように見える。

東斜面は毎年3月~4月頃にブロック雪崩が発生するが、1月にこのような大規模な雪崩を目撃するのは初めてだった。この時期は毎年悪天候で視界不良が続いているが、毎年この時期には石跳川まで達する大規模な雪崩が発生していると思える。

29日の午前中には知人が目撃して既に雪崩跡はあった様で、30日の午前中に自分が見た時にはその後山頂付近から雪崩が発生し、更に規模が広がったように思われます。

また、29日の山頂付近の画像を見ると、それ以前にも表層が流れたような痕跡が有り、複数の弱層ができていた可能性も有り、2回~3回位の雪崩が発生したのではないかとも考えられます。

29日以前は積雪量が多くその前には比較的気温が高かったので弱層ができていた可能性があります。積雪が安定するまで、東斜面をトライする際には慎重な判断が必要です。


12月29日 山頂付近 (大場さんより)


12月30日


12月30日 山頂付近



【関連サイト】 

東北アルパインスキー日誌

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東北 朝日連峰 祝瓶山 ヌルミ沢の大規模雪崩の痕跡 2012.09.17

2012年09月18日 | 雪崩

祝瓶山のカクナラ沢を釣り上がり、桑住平から 直登尾根を登って山頂を踏んだが、驚いたのはヌルミ沢の大規模なブナの倒木。

最初は何なのか解らなかったが、これがどうやら祝瓶山東面のヌルミ沢で発生した大規模な雪崩の跡だと気がついた。直径40~60cm位のブナの木は根元からなぎ倒され、すべてが下流のカクナラ沢に向けて倒れていた。

ヌルミ沢と本流筋のカクナラ沢との合流点は破壊的な状況で、沢を塞いだ倒木は誠に厄介な置き土産ともなって横たわっている。豪雨の際には倒木が下流に流れ、砂防ダム辺りに流れ込む事も考えられ、快適なイワナ釣り場としての環境悪化が気になるところ。

今までも沢の中での倒木は良く目にしたがこの位の規模は記憶になく、また山頂からこれだけの距離を流れたとすればまったく見慣れない雪崩の痕跡の様に思える。大規模な倒木は竜巻で倒れたと思われる鳥海山の鳥越川流域の例を覚えているが、この状況はそれとは全く異なっている。当然付近には豪雨により流れた痕跡の岩や大きな石も見当たらず、明らかに雪崩と思われる状況が伺える。

この雪崩は新雪雪崩なのか底雪崩なのかは確定できないが、ブナの木の根元から倒されていることから見ると後者のケースと思われる。祝瓶山山頂からヌルミ沢とカクナラ沢の合流点までは水平距離で1600m程あり、これだけの雪崩の走路となるとスケールの大きさは別格で、おそらく東北の山では最大規模の雪崩では無いかと思った。山スキーで春山の飯豊・朝日の沢筋を滑っているが、雪崩の規模がやや大きくても急峻な上部の沢止まりで、1000m以上も距離を稼いで本流筋まで達する雪崩は見当たらない。

東面のヌルミ沢上部は急峻なスラブ帯を構成し、山頂から標高差800m余りを駆け下ってカクナラ沢に達したとなると考えるとうなづける。今シーズンの豪雪は近年まれな年だったため、よほどの条件が積み重なっての状況と思われる。しかし、残念ながら木地山ダム方面は6月頃まで林道に雪が残って車は入れず、その後は酷暑の夏が続いてヌルに沢のデブリは消えてしまい、実際この状況を確認した人は少ないだろう。

南東北の山は比較的雪崩が少ないと思っていたが、これはれ珍しいケースとはいえ貴重な資料ともなる訳で、どなたか雪崩の専門家の方に調査して頂く価値があるとも思えるのですが・・・。








































【関連サイト】 東北アルパインスキー日誌

        飯豊 朝日 蔵王 吾妻連峰 月山 鳥海山など、東北南部の山で
        山スキー 沢登り 山歩きなどを楽しんでいます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蔵王連峰東面の雪崩コース  東北 山スキー

2010年01月08日 | 雪崩

今シーズンの初めには暖冬傾向とされてましたが、蓋を開けてみれば年末年始からの寒気が流入して北陸・東北では大雪となり、快適なパウダースキーを目論んだ山スキーやテレマーカーはすっかり予定が狂ってしまった。

雪不足の年末年始と比べればまだましな方だが、山の玄関口で登山を中止して派手な新年会になった方も多いのではないでしょうか?シーズン最初としては出鼻を挫かれた感じでしょう。

北アルプスと比べて標高が低く、北海道より緯度が低い南東北の山は極上パウダーに恵まれるチャンスは少なく、12月末から2月上旬位がベストシーズンと思える。
しかし、日本海側の月山・鳥海山・飯豊・朝日連峰はもちろん、ジェット気流の中心部が通り易いといわれる蔵王連峰は毎度の悪天候に見舞われ、中々そのチャンスは巡ってこない。

最近はこの付き合いきれない悪天候愛想をつかし、蔵王連峰東面の北屏風東壁や南屏風のコガ沢は足が遠のいてしまった。特に風の強さは半端なものではなく、全く情け容赦のない仕打ちに自ずと月山に足が向いてしまう。月山だったら諦めてツリーランで気を紛らせる事もできる。

しかし、蔵王東面のルンゼも好天に恵まれれば素晴らしいパウダーコースとなり、エクストリーム的な要素を持った南東北を代表するエリアとなる。比較的アプローチにも恵まれ、最近はボーダー・テレマーカーの皆さんも訪れている。

しかし、忘れてならないのが雪崩への警戒心であり、雪崩の通過コースの事前認識も怠ってはならない。最近はビーコン・スコップ・プローブの携帯が常識となっていますが、道具は使いこなしてこそ初めて機能し、机上講習と訓練を積み重ねたと言って実践で即役に立つとは限らない。実体験だけは御免こうむりたいので訓練には限度があり、また、自然の脅威は人間の理解を超える事も有りえる。

自分では幸い本格的な雪崩に遭遇した事はないが、雪崩についての十分な知識を持ち合わせている訳でもない。むしろ初心にかえって基礎から学びたい気持ちもある。雪崩と天候に関する正しい知識と観察力、そして人間の力の及ばない自然の脅威と時の運が全てを支配する。

また、講習とか訓練は重要だがそれ自体が目的化し、活動の範囲を自ら狭めて山行計画が萎縮したり、必要以上にただ恐れる事態も避けたい。大切な事は知識や観察力の習得と共に、フィールドでの実体験と経験を積み重ねる事だと思う。天候や雪の状況判断などは他人任せで決して身に付くものではなく、自分で努力しないと成果は上がらないだろう。


【蔵王東面の雪崩エリアの一部について】

通い慣れた蔵王の東面で観察された画像ですが、今後このエリアを訪れる方には参考にして頂きたいと思います。但し、天候・積雪量によって状況は多様に変化すると思われますので、画像は全体の一コマであり全てでは有りません。


①2005年3月6日 蔵王連峰東面 北屏風東壁の雪崩れ

北屏風(屏風山)に突き上げる雪稜の両側のルンゼが雪崩れ、左側の斜面(コース02)は東壁の基部までデブリが達しています。また、右の斜面(コース01)は山頂付近から雪崩が発生したという報告が有ります。


②2006年1月29日 蔵王連峰東面 コガ沢の雪崩れ 

南屏風から北屏風にかけての鞍部には1月頃に大きな雪庇が発達し易く、大きく成長して重さに耐えかね時、毎年1月下旬から2月上旬にかけてコガ沢に大きく崩壊している。デブリはコガ沢まで達する大規模な雪崩で、これによってコガ沢の滝壺が埋まります。


③2009年2月11日 蔵王連峰東面 お釜斜面の雪崩

五色岳山頂から馬の背稜線側の斜面を撮影した画像ですが、稜線直下から全面雪崩が発生し、基部にデブリが堆積しています。通常馬の背を歩いている時は見る事は出来ませんが、降雪直後には時々雪崩が発生している可能性が有り、お釜斜面を滑る際には慎重な判断が必要です。


④2009年1月16日 蔵王連峰 丸山沢ボール斜面のノドの部分

熊野岳山頂から滑り込んだ最初の斜面カラ滝付近。早い時期に大きな雪崩が発生していると思われます。


【番外編】



⑤2010年2月24日 朝日連峰 石見堂岳に至る南東尾根斜面(1120m付近)で発生。

2012年12月30日 湯殿山東斜面の雪崩

2012年12月30日 湯殿山東斜面山頂付近の雪崩



なお、冬山を目指す方スキーヤー・登山者は雪崩跡を目撃するケースが有り、雪崩の画像又は情報が有れば積極的に公開して頂きたいと思います。より多くのデーターを集約して情報を共有し、積極的に活用する事でリスクの低減を図り、事故防止へと繋がれば何よりと思います。


【関連サイト】   東北アルパインスキー日誌>
   http://alpaineski.sakura.ne.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雪庇の崩落について

2007年09月13日 | 雪崩

日ごろ遭難事故などにはあまり縁の無いな自分だが、2007年7月26日、名古屋高裁金沢支部において、大日岳遭難事故第三回目の和解協議が行われ、原告の請求を全て 国が認めるかたちでの和解が成立し、山スキーヤーとしては大変興味深いものが有った。

 この遭難事故は、2000年3月5日 北アルプス大日岳で文部省登山研修所の研修登山に参加したメンバーが雪庇上で休憩中に雪庇が崩落し、11名が雪崩にまきこまれ、内藤三恭司さんと溝上国秀さんが死亡した。翌年国は、雪庇の崩落は予見不可能で、引率講師に過失はなかったという調査報告書を発表し、遺族に謝罪すらしなかったことから、遺族は国家賠償法に基づき、2002年3月国に損害賠償を求める裁判を起こした。

    

       文部省遭難事故報告書より

この裁判で大きな論点の一つは、「雪庇の形成及び崩落の予見可能性」ついてであり、「雪庇回避のための想定及び判断」が適切であったかどうかである。事故の原因は山稜を雪庇の先端から10mと判断した事に有り、実際の山稜はコースから27mも風上側(東)にあった事が判明し、このコースを選択した講師の判断ミスの是非が問われた。

裁判で、国側は雪庇の大きさが40メートルもあり、例年をはるかに超える大きさだった事によりルート選定を誤ったとし、雪庇の崩落は予見できなかったとして過失を認めない主張を展開した。雪庇を避けるためには山稜を特定して山稜付近を登高すべきだが、雪庇を避けるためのルート選定方法として、通常は雪庇先端から10数メートルの位置を歩けば安全なのである。しかし、この年は雪庇がかってないほど大きかったために雪庇をさけられず、予見不可能な大きな雪庇ができていたと言う、異常気象が原因での不可抗力だと主張をした。
2006年4月26日、富山地方裁判所の判決が下されたが、その内容は、講師は大日岳山頂の雪庇の大きさを10m程度と判断した上で、この雪庇を避けるために見かけの稜線から十数メートル程度の距離を取った。しかし、大日岳の雪庇の大きさを25m前後と予見する事は可能であり、見かけの稜線上から少なくとも25m程の距離をとって行動及び休憩の場所を選定すべきてあり、講師らの選定基準には過失があったとされた。

 

A.平成19年5月4日 飯豊連峰 門内岳~北股岳



B.平成16年3月20日 朝日連峰 小朝日岳~熊越え

この講師は日本山岳会、1991年ナムチェバルワ峰7782m日中合同登山隊の初登頂者で、日本でも有数の登攀ガイドとして高名な方であり、過去14回ほど、大日岳でこの文部省主催の講習会を行っている。しかし、大日岳の雪庇は他にあまり例を見ないスケール言われているが、この山域を知り尽くした佐伯山岳ガイドによれば、40m位の雪庇は有り得るとのコメントが有ったようです。

自分は大日岳には登った事が有りませんが、この話を聞いて思ったのが飯豊と朝日の雪庇でした。同じ日本海側に面する日本でも有数の豪雪山域と言う共通点で、この桁外れの雪庇の大きさを想像してみた。A.は5月の飯豊連峰の主稜線上の雪庇ですが、この時期でも雪庇の張り出しは20mを越え、おそらく3月末頃の時期には25mくらいには成長しているように思われます。3月頃には視界が良好でも実際の山稜の認識は難しく、どれほどの大きさなのか判断するのは困難でしょう。今年は雪不足と言われながらも、3月後半からの大雪と強風で、雪庇は大きく成長したものと思われます。

B.は3月の朝日連峰の熊越え通過時の写真(先行者は雪庇の上に乗っているの図)ですが、風下側に大きく雪庇が張り出し、最低コルではやはり25~30m程は有ったと思われます。この様な事例から考えると、大日岳の雪庇だけが予見不可能な雪庇の規模とは言えず、日本海側の北アルプス・東北などの山では想定すべきであるとも言えます。つまり表向きのデータが無いだけで、意外と地元だけに知られている可能性が有ります。

雪庇は冬山登山者・山スキーヤーにとって避けて通れないケースが多く、自分も冬山初心者の頃は2度雪庇の踏み抜きを経験している。3月の蔵王~二口山塊スキー縦走の時、北雁戸山と仙台神室付近で2日連続の失態をやらかした。幸い雪崩を誘発する事も無く10~20m程の滑落で済んだが、結果これが良い薬となったようでその後は経験が無い。やはり経験が物を言う登山の中でも、最も典型的な学習効果ということが言えるだろう。

雪庇の歩き方については登山技術書には載っていると思うが、実際には各登山者によってその判断は様々で、必ずしも安全な歩き方とは言えない現場を良く見る。もちろん時期、天候、雪質によって歩き方は変わってくるが、降雪中はもちろんの事視界良好の時でさえ、その判断力は実戦の中で学ばないと意外と難しい。山岳会等での山行ならば先輩方から学ぶ事も多いが、未組織登山者の場合にはそこのところがネックとなる。事実、HP上の写真を見ると冬山の経験が長い人と思われる人でも、意外と雪庇の先端から2~3mほどの所を歩いていたり、実際に崩落した現場写真を平然と載せていたりする。雪庇の基本構造・成型の過程・スケールなどの知識のない方が少なくないと思われます。

考えてみると雪崩に関しては研究が進み、体系的な雪崩講習会などが開催されて多くの参加者を集めているが、雪庇については基本的な研究とか、崩落のメカニズムについての解明は殆ど成されていない。殆どが経験とか憶測に頼る状況で、登山者・山スキーヤーの関心も雪崩程には無い。確かに緩やかな山容の東北の山では、雪庇を踏み抜いても大事故に繋がる事は少い。しかし雪崩以上に冬山でのルートミスによる遭難が多いのと同様、意外と雪庇の踏み抜きは頻発していると思われるので決して侮ってはならない。

東北地方の山で雪庇の崩壊で事故が起きた例はあまり聞かないが、最も危険なケースは下降の際視界不良で雪庇の先端に近づいて事故になるケースです。又は、視界不良の時の雪庇が風向きにより狭い尾根の左右に発達している場合は特に危険です。特に有名なのが奥穂岳から新穂高温泉に下る西尾根?で、雪庇を踏み抜いて滝谷側に滑落して日本でのトップクライマーと呼ばれた人の何人かは帰らぬ人となっています。

あと、この裁判で気になったことがもう一つ。それは、この訴訟を勝ち取る為に原告団は30万人に及ぶ署名を集めたそうですが、個人的には数の論理で勝利を勝ち取ると言う方法に少し違和感を感じます。大切なご家族を亡くされた遺族の方々にはお悔やみを申し上げます。署名活動は社会一般に認められた権利と言えます。

しかし、この山岳事故の訴訟問題の場合、冬季で一般人の入山が困難な山岳地帯であり、限られた人しか事故を検証する事が出来ず、しかも雪庇は日々変化して事後の確実な物証を集める事は困難と思われます。しかも、裁判に関しては冬山登山の専門的な知識・雪崩や雪庇の知識が不可欠で、多くの冬山経験者や学術専門家の力を必要とします。もっと条件を改善して欲しいと言う要望なら解りますが、起きてしまった過去の事実について数の力に頼ることは筋が違う様な気がしますが・・・・。

※ 関心のある方は次のサイトへどうぞ。

「大日岳遭難事故を考える」

http://www.geocities.jp/sa9zi2005

「北アルプス大日岳遭難事故調査報告書」 文部省

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/02/houkoku/index.htm

「大日岳遭難訴訟裁判記録」 

http://sports.geocities.jp/tadophoto/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金沢 早川先生のコメント

2006年01月27日 | 雪崩

                小朝日岳から大朝日岳へ

は3年ほど前から山スキーMLに参加させてもらっていますが、皆さんの最新の山行記録といろんなコメントが投稿されており、大変興味深く参考にさせてもらっています。

その中で昨年11月に投稿された金沢の開業医、早川先生の次の様なのコメントが有ります。当たり前といえばそうですがそこが大事な事と考え、短いながら本質を突いたポイントと思い引用させて頂きます。
早川先生は山スキーヤーの中では大変著名な方で、かなりハードな日帰り山行を実践する、豊富な経験と技術、体力ともに抜きん出た方です。
私は幸いにも山スキーでは雪崩に巻き込まれた経験はなく、実際その時機敏に対応できるかどうかは別ですが、早川先生の記録では時々このような場面に遭遇し、実際雪崩から逃れることが出来ているようです。


【早川先生のサイト】

「YASUHIROのマウンテンワールド」

http://w2222.nsk.ne.jp/~turu/

【投稿コメント】

こんにちは三浦さん 早川@金沢です。
いつも先鋭的な滑降記録楽しみに拝見させて頂いています。

このたび危ない場面でしたね。折角の問いかけですので三浦さんに対しておこがましい気もしますが僕が普段考えている雪崩対策について少し触れてみます。
過去の登山史を見ても明らかなようにどれだけ優れた登山家もほとんどが雪が原因で命を落としています。雪だけはどれだけ深く考えてもどうしても勝てない人の予想を遙かに超えた自然現象だと思います。これがまず大前提です。

ここ最近深沢君とコンビを組むことがほとんどですがパウダーを楽しめるような斜面では正直いつ雪崩れてもおかしくないと考えています。だから事前の弱層テストなどは少しの参考程度でそれほど大きく重視していません。それよりもどこを滑る場合でもここで雪崩れる可能性はあるかも知れないという大前提に立ってもしここで雪崩れたらどう回避するかと言うことをいつも考えて滑っています。

だから二人で斜面に入る場合はまず絶対一緒に入らない。たとえば深沢君が先に斜面に入るなら常に僕は上で監視しています。滑っている間は上からの雪崩には無警戒ですから声の届く範囲で緊急事態が伝わるようにしています。先に滑るものは常に安全地帯まで滑って、上から雪崩れても回避できる場所で待避して次に上から滑るものを監視します。だから滑る場合は大体交互に行くことになります。

このように互いに厳しく監視しあって万が一雪崩れてもすぐに逃げられる体勢をとって万が一の時もすぐに救助できるようにしています。だからガスで視界が悪い時は特に注意して互いが監視できる視野の場所までしか滑らないようにしています。

また上に人がいる場合は雪崩の原因になる可能性がありますので特に気を付けるべきだったと思います。厳冬期に山で人にあうことはまず無いですが。

過去にこの監視システムで何度も危機を逃れることができました。滑りも大切ですが互いを監視しあって絶対二人が一緒に流されないように最前の注意を払っていますす。雪にいったん埋まると自力での脱出はまず不可能ですから。

この場所で雪崩れた場合どう回避するかと言うことを常に考えながら行動する。これが僕たちの基本的なスタンスです。それからビーコンを付けておくことは大切ですがその次の段階の蘇生術をきちんと実践でマスターしておかなければまず埋もれた仲間を救うことはできません。これはかなり重要な要素だと考えます。浄土山の死亡事故の場合20分で救助したとのことですが蘇生術が正しくなされたかどうかとても気になりました。

まあパウダーを楽しみに山に入る場合常に雪崩と表裏一体の関係になりますからそこのところをよく考えてきちんとしたパートナーと行動することは大切だと最近強く感じるようになりました。以前は単独メインでしたが。単独の場合はまた違う行動パターンがありますがここでは敢えて触れません。

あまり参考にならないかも知れませんが一言感想を述べました。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする