「父が 泣いた」
父が 泣いた 二度 泣いた
覚悟を決めて 手術室へ入る時
皆の手を握り ぎゅっと握り 涙がこぼれた
愛しき者たちから 離されていく
車はまわり 父を連れて行った
父が 泣いた 二度 泣いた
どれだけ時間が過ぎたか 深い眠りから覚めた時
皆の手を握り ぎゅっと握り 涙がこぼれた
愛しき者たちのもとへ 帰ってきた
待っていた私たちのところに 帰ってきた
体は切られた 体は小さくなった
だけれど 父の血潮は
温かさを増して 感謝を増して 生きてる喜びを増して
体中をめぐりだした
父が 泣いた 二度 泣いた
「ありがとう・・・」
父の心が動き出した
ここからまた生きていく
きっと夢の通り 深い眠りのうちに見た夢の通り
千年の灯を守り通した 若かりし比叡山の頃の 夢の通り
命の灯は守られた
だから 父が泣いた
(2008.1.10 作:愛依)