Price Discrimination(PD:差別化された価格)に関して面白い話を聞いた。実際にブラジルであった清涼飲料水の販売に関する話だ。授業中に笑いが止まらなかった。きっと考えついた人はEconomics(経済学)に精通している上に、相当なクリエイティビティの持ち主だと僕は思う。
まずPDがどんなものかを一言で説明すると、“1種類の同質な製品やサービスを異なる価格で販売する”という価格戦略のことだ。
例えば、同じ飛行機の同じフライトの同じクラスの座席なのに自分と隣の人とでチケットの価格が異なっていたり、映画館で全く同じ映画を同じシートで同時に観るのに大人と学生とでチケット代金が異なったりと、現代社会にはPrice Discriminationが実に溢れている。
これはセグメント(顧客の性質の違いによる大括りな区分)によって需要に対する価格のElasticity(弾力性)が異なるためで、企業は全く同じ商品やサービスであっても、それらを異なる価格で市場に提供しようとする。
具体的には、価格により敏感な顧客層にはより低い価格で商品やサービスを提供し、価格にあまり敏感でない顧客層にはより高い価格で提供する。そうすることで顧客の購買意欲を最大化し、利益の最大化につなげるのだ。
ブラジルで実際にあった話に話を戻すと、ある清涼飲料水メーカーが真夏のビーチに自動販売機を設置しようとした。担当者は経済学を学んだことがあり、かつ、顧客の需要が天気によって変化することを知っていた。
すなわち、天気がよい晴れの日は気温が上がってより多くの人が清涼飲料水を買いにくるようになるが、逆に天気の悪い日は気温が下がって清涼飲料水を買いにくる人の数が少なくなるという事実を経験的に知っていたのだ。
そこで担当者は考えた。そうだ、自動販売機に温度センサーをつけよう!そして、温度の上昇割合に従って清涼飲料水の販売価格が自動的に上下するようにセットしよう!そうすれば、暑い日にはより高い価格で売れてより儲かり、寒い日にも価格が安くなるのでよりたくさんの人が買いに来てくれてより儲かるはずだ。こう考えて、彼は温度センサー付き販売価格変動型の自動販売機を開発し、海にほど近いビーチに試しに設置してみた。
さて結果はどうなったか。答えから言うと、清涼飲料水メーカーはすぐにこの自動販売機を撤去したらしい。それはなぜか?理由は、毎日変動する価格に顧客からのクレームが絶えなかったからだそうだ。
想像してみてほしい。ジュースを買おうと思って自動販売機の前まで行く。昨日は120円で買えたジュースが、なぜか今日は130円出さないと買えない。今日は昨日よりちょっとだけ暖かい気がするけど、温度センサーというカラクリがあることを当人は知らない。当然フラストレーションがたまる。顧客の満足度も下がる。中には怒り狂って自動販売機を壊しかけた客がいたというのもちょっと納得できる。
ということで、アイデアとしては最高に面白いのだけど、あまり理論に頼りすぎると痛い目を見るという話でした。
経済理論も大事だけど、生の人間の感情を忘れるととんでもない話になるってことですね。
ふと思ったんですけど、冬になると日本の自動販売機には「あったか~い」が増えますが、これなんかはある意味で手動で温度変化による顧客の需要変化に対応していると言えますよね。PDとはずれますが。。。
フランスにも「あったか~い」ってあるんでしょうか。
コメントありがとう。元気に仕事頑張ってる?
新規ビジネスでは既存のマーケットにない斬新なアイデアがとても大事だけど、“顧客の目線”から足が離れてしまうととんでもない失敗に繋がるということですね。
これは宇宙航空開発にも言えると思います。技術の斬新性だけを追求してR&Dを進めていくと、結果として社会に何の利用価値もない新規技術だけがどんどん生まれてくる。投資したコストに対して得られる利益が少ないと分かっているのであれば、中止や撤退を決意する勇気を持つことも大事だと僕は思います。
撤退する勇気、とても難しいことです。でもエコノミスト的考え方をしっかり身に付ければ、不可能ではないと思っています。