「技術力で勝つ」ということはまさにこういうことだと教えられた。最近話題になっている英国スピード社の水着、Laser Racer(レーザーレーサー)だ。企業としての財務内容の良さとかブランド力とか、製品のコスト競争力とかデザインとか、販売チャネルとかCMとか、そんなものを無価値にしてしまうほどの勢いでその性能が顧客に評価されている。もちろん、顧客といってもオリンピックに出場するような有名スイマーに選ばれるといったレベルでの話だ。
オリンピック選手に選ばれたからといって、そのまま企業の売上が増えるわけではない。むしろ、オリンピック選手への水着提供は企業側にとってコスト増加要因でしかない。特別仕様の水着を提供する上にスポンサー代金を支払わなければならないからだ。
しかし、水着を提供した選手がオリンピックで活躍すればするほど、その企業が販売する水着全体のブランド力が向上し、結果として売上増加につながる。だからこそ、企業は多額のスポンサー代金を支払ってまで有力選手に水着を提供しようとするのだ。そこには、いずれ一般スイマー向けの水着販売で何倍ものリターンを得てやろうという戦略がある。
今回の事態は、水着を開発する日本企業にとって非常に深刻な事態だと思う。スポンサー代金を支払ったにもかかわらず、有名選手に自社の水着を着てもらないのだ。そればかりか、日本人選手にさえ選んでもらえなかった事実がネガティブ要因となって企業のブランド力を傷つけるだろう。それは既に企業の株価にも現れていて、選ばれなかった水着を開発していた日本企業の株価は軒並み下落している。逆に、選ばれたスピード社の水着を販売する企業の株価は上昇傾向にある。マーケットは嘘をつかないようだ。
水着を開発する日本企業の技術力が劣っていると言うつもりはない。ただ、「独占契約なので必ず使ってもらえる」という安心感のようなものがそこにあって、本来ならば技術開発競争のための投じるべき資金や人材さえも、企業として別なことに使っていたのではないかと僕は思う。その結果、独占契約という安心感のなかった企業に技術力の差で敗れるという結果に至ったのだ。
独占契約は、企業の事業から将来の不確定要素を排除してくれるとても魅力的な戦略ツールの一つだ。その価値は十分に認めつつも、それに頼り過ぎると企業としての本質的な競争力さえ失ってしまう原因になることも忘れてはいけない。
競争に勝つには、やはり競争をするしかないのだ。
(写真はスピード社のレーザーレーサー)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080613/161906/?P=2
もちろん、安心感による既存路線踏襲がこの状況を作り出した根本にあるのかもしれませんが
コメントありがとうございます。
いわゆる、「バカの壁」ってやつですね。これは破るのとても難しいと僕自身もいつも感じています。次なる成功のために過去の成功を忘れる勇気、それが必要なのでしょうね。
いずれにせよ、無名のイタリア繊維メーカーに白羽の矢が立った、という事実に僕は最も興味がひかれました。そういうことのできる人間になりたいものです。