宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

暗黙の協調

2009年04月02日 | MBA
 
経営戦略には本当に多種多様な理論やコンセプトがあって、どれが一番優れているかと聞かれても困るのだけど、僕が一番好きなのは何かと聞かれれば、間違いなく「ゲーム理論」と答える。僕はこの理論を応用して修士論文を執筆したので、ある意味で僕の専門領域だと言える。

「ゲーム理論」は数学の分野としても数々のノーベル賞を生み出した非常に面白い領域で、ジョン・ナッシュのナッシュ均衡などはその後映画にもなっている。「囚人のジレンマ」という言葉は、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないだろうか。お互いに協力すれば全員の利益を最大化できるのに、人間は個々に自分の利益だけを最大化しようとするために、結果として、協力した場合よりも少ない利益しか手にすることができない。逆に、協力することを全員で最初に合意できていれば、全員の利益を最大化できる可能性が高まるのだ。

この「ゲーム理論」が航空ビジネスで上手く適用されている事例を紹介したい。記事の執筆者は一橋大学の沼上教授で、日経新聞の「経営学のフロンティア」という記事の中の一文からの引用だ。

「価格競争に苦しんでいたアメリカ航空業界で、ある航空会社がマイレージサービスを開始した。飛行距離に応じて同社のマイレージ(距離に応じたポイント)がたまり、一定レベルを超えると、例えばハワイまでの航空券をもらえるというサービスである。

航空会社にとっては、閑散期にハワイまで1人を追加輸送してもほとんどコストはかからない。顧客にとってはハワイへの無料航空券は魅力的である。それ故、他の航空会社も競って類似のサービスを導入した。

このサービスを各社が導入すると、顧客は簡単に航空会社をスイッチしなくなった。マイレージを貯めるために、同じ航空会社を使い続けるようになったのである。『あと1回乗ればハワイまで行ける』のであれば、運賃が多少高くても他社に乗り換えることはない。こうして、マイレージサービスのシステムが一般化すると、顧客は運賃の高低に対して敏感でなくなり、少なくとも当時は業界全体が低価格化競争から脱して利益を上げられるようになったのである。

1社がマイレージサービスを導入すると、他社が追随し、顧客の購買行動が変わり、業界全体の価格水準が上がる。このようなダイナミックな相互作用の解読がゲーム理論的なアプローチの特徴である。しかも、この事例から分かるように、このアプローチは敵対関係にある企業間でも協調が可能であることを強調する。マイレージサービスを模倣し合う『競争』により各社に忠実な顧客が生み出され、その結果、徐々に運賃を高めていく『暗黙の協調』が行われるようになったのである。」

『暗黙の協調』は、皆が賢く生き延びていくために自然発生する均衡点だということもできる。意図的にやればカルテルや独占禁止法違反となってしまう可能性があるが、競争の結果としてそうなったのであれば法にも問われない。逆境や苦境に立たされると人間はそれを乗り越えるための新しい術を生み出す生き物なので、今の経済不況も楽しみながら何が起こるかを観察していきたいと思っている。

(引用は平成21年4月2日付の日本経済新聞より)
 


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