インターン先のATR(Avion de Transport Regional)社で僕が担当しているのは、主に新市場開拓のためのマーケット分析とビジネス戦略立案だ。その中で何よりも先に行っているのが、既存マーケットの分析である。
ある地域を調査するにあたっては、その地域内にどんなプレーヤーが存在して、それぞれどのような活動をしていて、さらに、将来戦略をどう考えているかをしっかりと見極めなければならない。マーケティングにおいて最も重要なのは、決してある1点だけを見つめないことで、大きな流れの中で今後の潮流を読み取ることが大事だと僕は考えている。
さらに僕が挑んでいる航空機ビジネスにおいては、一定周期で繰り返されるビジネスのトレンドを十分に考慮することが重要だと言われている。この業界はほぼ7年周期で上がったり下がったりするサイクルがあると言われていて、それは過去のデータからもしっかり裏付けられている。たとえ今何十機、何百機と航空機が飛ぶように売れたとしても、数年後には必ずダウンサイクルがやってくる。そのあたりをしっかり読み切らないと、少なくともこのビジネスにおいて長期的な成功はありえない。
また、航空機ビジネスの顧客である航空輸送ビジネスも、極めて周期性のあるビジネスだと言われている。数年おきのサイクルに加え、1年の中でも季節変動の影響を大きく受ける。そのため、各航空会社は全く同じルートを、同じスケジュールで、同じ航空機で一年間ずっと運航するのではなく、季節ごとに大きな変化をつけたオペレーションで挑んでくる。
たとえ僕がある地域の航空会社ひとつを採り上げて、その航空会社がどんな風に航空機をオペレーションしているかを分析したとしても、それはこの一時点におけるその航空会社のビジネスの一形態でしかない。その航空会社のビジネスの戦略の本質を掴むためには、さらに長期間に渡って彼らが実際にどう動いていたかを見なければならない。
しかし、一年間に膨大な数のフライトがあることを考えれば、全てのフライトをこと細かく調査するのは極めて時間のかかる、非効率なやり方だ。少なくともMBAで学んだアプローチの仕方からは程遠い。今求められている正確さのレベルを見極め、最小のエネルギーで最大の成果を生み出すような手段をとるべきなのだ。
そこで僕は、一年の中で最も典型的な1つの月だけを調査して、それを単純に12倍して、年間を通したマーケットの動きだと想定しようと考えた。今は高い位置からマーケット全体を俯瞰すべき段階なので、正確さはそれほど重要な要素ではない。時間をあまりかけることなく、マーケット全体の大きな絵がつかめればそれでいい。問題は、どの月が一番典型的な月といえるのかということだ。
これはもう経験者に聞くしかない。自分で考えても時間がかかるだけで、最も正しい答えにたどり着ける可能性は低い。僕はためらうことなく、ATR社の皆さんに質問することにした。
すると、驚くことに一瞬にして全員から同じ答えが返ってきた。答えは、「9月」。航空ビジネスでは、夏のバカンスシーズンが終わり、冬に向けた準備が始まる前の9月こそが、1年間の中で最も典型的なオペレーションが行われる季節なのだそうだ。もちろん、国や地域によって多少の違いはあるのだろうけれど、それでも9月を見れば一年間を通した大体の平均が見えてくるらしい。実際、プロであるATR社のマーケティング担当者も、ビジネス開発の初期段階ではこの手法を使って分析を行うとのこと。
あっさりと正解が分かったので、僕は膨大なデータの中から9月のデータだけを抽出して、今必死になってマーケットの分析をしている。今週末にこの分析をやり終えて、来週からは次なるステップに移りたい。
(写真はインドのAir Deccan航空のATR機)