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宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

決戦は10月16日

2007年07月24日 | MBA
 
自宅のあるIASキャンパスの電気は復活したものの、相変わらずインターネットはつながらない。つながる瞬間も1時間に数分程度あるのだけど、とにかく今の状況は不便で仕方がない。インターネットがいかに僕の生活の中で既に必要不可欠なインフラとして機能しているかが分かる。電気や水道と同じようなものだ。ただし、無くても死ぬことはない。

こんな不安定な状況の中でも、このブログだけは最優先で記事を書き、なんとか更新できるように心がけている。一時間に数分あるかないかの微妙なウィンドウを狙って、つながったら即のタイミングでアップロードするのだ。ブログ記事以外の個人的なメールに関しては、正常復帰するまでは会社のパソコンから英語で書くことが多くなると思うので、友人の皆様どうぞよろしくお願いします。

さて、今日はビジネススクールから1通の大切なメールを受け取った。MBA取得のための最終関門となるプレゼン審査の期日指定だ。僕の発表は10月16日火曜日の午前11時から12時までの1時間に決まったらしい。計算するとあと84日、どうやら3ヶ月もないようだ。確実にターゲットに間に合うように作業量の見極めをしていかなければならない。

さあ、気を引き締めて頑張ろう!と思っていたところ、ATR社での僕のスーパーバイザーの一人であるGianni副社長が僕の部屋にやって来た。え、今日はミーティングのアポイントも入れてないし、何よりGianni副社長が自ら僕の部屋まで足を運んでくれるなんて、一体何事だろう?と思ってしまったのだけど、理由は恥ずかしくなるような僕のミスだった。

僕が冒してしまったミスというのは、他でもない「スペルミス」だ。僕の英語力がまだ完璧ではないという証拠でもあるのけど、僕は「グループ」という単語を「Groupe」と表現してしまっていた。これはフランス語で書く場合の「グループ」であって、英語で書く場合は「Group」となる。最後に一つ「e」が付くか付かないかのわずかな違いだ。

言い訳になってしまうのだけど、フランス語を勉強しはじめてからというもの、フランス語と英語とで、どっちがどっちの正しいつづりだったか、僕の中の記憶が混乱することが非常に多くなってしまった。これは僕の記憶力と外国語習得センスの無さからきていると思うのだけど、「外国語を使いこなすこと」と「正しい外国語を使えるようになること」との間には、実は大きな開きがあるのだと改めて実感してしまう。

しかし、それ以上に今回の事件に僕は驚かされてしまった。理由は3つあって、一つ目は、副社長自らが英単語のスペルミスを指摘するためにわざわざインターンの部屋にやって来たこと。そして2つめは、イタリア人もこういう細かい点に気を配る繊細さがあるのだと改めて気付いたこと。そして3つ目は、ATR社の幹部は超多忙な業務の中でもちゃんと一言一句僕のレポートに目を通しているのだということ。

きっと、Gianni副社長は最後のポイントを僕に伝えるためにあえて僕の部屋までさりげなくやってきたに違いない。ちゃんと見ているから最後まで気を引き締めて全力投球してくれ!という強いメッセージだと思う。

プレゼンまであと84日、頑張っていこう。見てくれている人は必ずいる。

(写真は武田信玄の「風林火山」。決戦の日が決まったというこことで。)
 

久々のビジネススクール

2007年07月23日 | MBA
 
今日はMBAでStrategy(経営戦略)の授業を担当してくれたSveinn教授との打ち合わせのため、ATR社での勤務を少しだけ早めに切り上げて久々にビジネススクールへやって来た。なので、自宅が停電でインターネットも電化製品も全く使えない状況にも関わらず、こうしてビジネススクールのWIFIを使って日本語でブログを更新することができる。

ビジネススクールに来るのは、最後の授業が終了してからほぼ一ヶ月ぶりになる。本当に久しぶりだ。今日の一番の目的は、僕が今ATR社で進めているプロジェクトについてSveinn教授と議論することだ。実は、教授にはずっと前から僕のアカデミックアドバイザーをお願いしている。多忙にも関わらず快く引き受けてくれた教授に感謝だ。Merci!

僕が進めているプロジェクトの大枠については、既にATR社の複数の副社長と調整をして合意を得ているので、計画自体が大きく変更される可能性は少ない。後はこの計画を十分なクオリティで期限内に遂行し、最終的に顧客であるART社に満足してもらえるだけのレポートに仕上げるだけだ。

しかし、MBAの授業で一通り経営学の基礎を叩き込んだとはいっても、僕はまだ駆け出しレベルのコンサルタントでしかない。大事なポイントを見逃していたり、より経験を積んだ者の目から見ればロジックが破綻しているような分析をしてしまっているかもしれない。そういったミスやヌケをプロの目から指摘してもらうために、僕は今回Sveinn教授にサポートをお願いしている。自信を持つことは大事だが、自信過剰には決してなってはいけないのだ。

Sveinn教授との打ち合わせは、結局、夕方6時から7時30分まで続いてしまった。予定は30分で切り上げる予定だったのだけど、途中で日本の航空ビジネスの話で盛り上がったり、より発展的な議論をしたりしていたら、互いに気付いた時にはもう1時間30分にもなっていた。Sveinn教授はアイスランド出身なので、フランス人的な労働感覚の持ち主ではない。しかし、ここまで一生徒の一プロジェクトに真剣に付き合ってくれたことには、心から感謝しなければならないと思う。

いろんな人が僕を応援してくれている。本当にありがたいと思う。

(写真はToulouse Business Schoolの場所。フランスの地図だと大体このあたり。)
 

Gap Filler

2007年07月10日 | MBA
 
今日はペーパー衛星に関係する続きの話。

人工衛星を使って宇宙ビジネスを始めようという場合には、必ず行政当局を通じてITUに申請を出し、軌道上のスロットをあらかじめ確保しておかねばならないことは昨日説明した。しかし、宇宙ビジネスを継続的に進めていく上で、ある一定期間だけどうしても空白が空いてしまうような事態だって発生してしまうかもしれない。そんな危機を救ってくれるのが、人工衛星ビジネスにおけるGap Filler(ギャップ・フィラー)の存在だ。

これは文字通りGap(空白)をFillする(満たす)ことを目的とするビジネスなのだけど、人工衛星の開発から打上までには通常早くても数年はかかるので、ギャップ(空白)の存在に気付いてから地上で準備を始めても、はっきり言って遅い。そこで、既に宇宙空間に存在する人工衛星を使ってギャップを埋めるのが、最も手っ取り早い解決策だろうということになる。

しかし、宇宙にある人工衛星は、ある特定の機能は果たすために軌道上に置かれているのであって、発生するかどうかもわからないギャップを埋めるために念のために置かれているわけではない。もちろん、サービスの継続的な提供を担保するために予備の人工衛星を配置することはあるが、それはあくまで予備であって、ギャップを埋めるための人工衛星ではない。

そこで、Gap Fillerと呼ばれる中古の人工衛星の出番となる。通信・放送衛星の寿命は約15年と言われているのだけど、これは言い換えれば、寿命直前にはもう既に15年前の古いテクノロジーで運用されているということだ。当然、地上での技術の進歩によって既にサービスとして時代遅れとなってしまった人工衛星も発生する。同業他社は最新の技術を使った人工衛星を打ち上げて、より低コストでより高品質な衛星通信サービスを提供し始めるかもしれない。このまま古い人工衛星を使い続けてビジネスを続けていくことは、市場の競争原理を考えるとちょっと厳しそうだ。

しかし、この人工衛星の寿命はまだ残っているので、地上でのサービスには使えないとしても、今すぐに大気圏に突入させて燃え尽きさせるのはもったいない。そこで、こういった人工衛星を中古人工衛星のマーケットに出し、Gap Fillerとしてとにかく何か軌道上のスロットに置くものを探している企業に有料でリースするか、もしくは、人工衛星そのものを売りつける。これが、人工衛星におけるGap Fillerビジネスだ。

もちろん、Gap Fillerとして取引される中古人工衛星の数はそれほど多くはないので、リース会社を介して所有者が次々と変わる航空機の中古マーケットほど活気のある市場ではない。それでも、中古の人工衛星に対する需要は、確実に存在するのだ。

中古人工衛星の売買が儲かるビジネスかどうかは、皆さんの想像にお任せします。
 

ペーパー衛星

2007年07月09日 | MBA
 
宇宙ビジネスを進めていく上で重要な戦略コンセプトの一つに、Paper Satellite(ペーパー衛星)というのがある。宇宙業界に携わる人なら「ああ、あれのことか」と簡単に分かってしまうと思うのだけど、今日は宇宙ビジネスにあまり詳しくない人を想定して簡単に説明してみたい。

ペーパー衛星とは、子供達に宇宙開発に興味を持ってもらうことを目的として、各国の宇宙機関や人工衛星メーカーなどが宣伝用に作るペーパークラフトのことだ。というのは冗談で、実際には紙の上でけで存在する実態のない人工衛星のことを指す。

分かりにくい人は、自動車のペーパードライバーを思い浮かべてもらえれば分かりやすい。紙の上だけでは運転免許は存在するものの、実際にこの免許に基づいて車が運転されることはないという状態だ。人工衛星の例でいえば、紙の上では存在するのだけど、実際にロケットで宇宙に打ち上げられて運用されることは想定していない、いわば、実現する予定のない人工衛星開発計画だと言ってもいい。

なぜそんなペーパー衛星が必要なのか。その答えの鍵は、宇宙空間での人工衛星の軌道調整を一元的に管理する国際団体ITU(International Telecommunication Union)と、そのITUが定める人工衛星の軌道割り当てに関する特別なルールの存在にある。

ITUでは、各国の行政当局からの申請に基づいて、First come, first served(早い者勝ち)ベースで宇宙空間における人工衛星の軌道の割り当てを行っている。つまり、一番最初にスロットを利用したいと申請した者が、基本的にそのスロットに人工衛星を配置することができる。

具体的に言うと、もし日本のある人工衛星オペレーターが日本上空の静止軌道上の特定スロットを利用して新たな宇宙ビジネスをスタートさせたいと考えた場合、この企業はまず総務省を通じてITUに希望するスロットの申請を出し、このスロットを利用する権利をまずは確保せねばならない。もし、他の企業や他国がこのスロットの優先利用権を確保していた場合、この企業は交渉によってこのスロットに関する権利を譲渡してもらう必要がある。時には金銭の授受が発生するビジネス交渉となることも多い。

ここで重要なのは、一旦申請によって確保したスロットの利用権も、約2年間何も人工衛星を配置せずにいると、基本的にこのスロットの利用権が消滅してしまうというルールが存在することだ。軌道上のスロットは今飽和状態にあり、計画だけで実際に利用する見込みのない人工衛星にはお引取り願おうというITUの戦略なのだ。2年間という基準が長いのか短いのかという議論は別として、とても合理的なルールだと僕は思う。

さて、困ったのは人工衛星オペレーターの側だ。自社のビジネスを柔軟かつ効率的に遂行するためには、将来打ち上げる可能性のある人工衛星の軌道を、本当に打ち上げるかどうかに関わらず全て確保しておくことが望ましい。実際に人工衛星の開発が決まった段階で軌道上のスロットが空いているかどうかを調査していたのでは、既に競合他社にスロットを押さえられていたというケースもあり、ビジネスとしては致命的に遅いのだ。そのため、ビジネスを進める上での戦略的観点から、将来的にマーケット需要の高そうな軌道上スロットを押さえておく必要がある。

ここまで書けば、なぜペーパー衛星なるものの存在が必要なのか、その理由が理解できたのではないかと思う。実際に開発して打ち上げるかどうかまだ分からないが、軌道上でのスロットを確保するために紙の上だけで存在する、一時的な人工衛星計画のことだ。

少なくとも、子供用ペーパークラフトではない、ということだけ分かってもらえれば嬉しい。
 
(写真は地球観測衛星「だいち」のペーパークラフト。これは実際に打ち上げられました。)
 

Space & Telecom

2007年07月08日 | MBA
 
Aerospace MBAで受けてきた授業の中で唯一ブログの記事として何も書いてなかったのが、Space &Telecom(宇宙と通信)の授業だ。インターン先のATR社の意向で6月中旬から勤務が始まったこともあって、仕事と授業の2足のわらじを履いていた僕は、これまでこの授業の内容を振り返る余裕がなかった。

この授業は、主に宇宙に関するビジネスの開発について学ぶことを目的としている。宇宙ビジネスといっても多種多様で、ロケットの開発や打ち上げに始まって、人工衛星の開発、運用、保守、地上通信設備の開発、運用、保守、さらには、人工衛星を利用した各種サービス事業まで、本当に裾野が広い。その他付随的なビジネスとして、高額なロケットや人工衛星のリスクをヘッジする保険ビジネスも存在する。

そういった様々な宇宙ビジネスの中で、最もビジネスとしての市場規模が大きいとされるのがTelecom Satellite(テレコム・サテライト)分野だ。言い換えれば、通信・放送衛星に関するビジネスということになる。考えてみれば、僕達の生活に一番深く関係しているのも、このテレコム・サテライトではないだろうか。地上の生活に一番恩恵をもたらしている宇宙ビジネスといっても過言ではない。

授業の中で一番なるほど!と納得してしまったのは、「何が宇宙ビジネスを加速するドライバーなのか?」という教授からの問いかけに対して、僕達Aerospace MBAの生徒全員でディスカッションした時のシンプルな結論だ。僕達の議論では、宇宙ビジネス、特に、放送・通信衛星ビジネスを加速させるドライバーは、大きくわけてこの世に3つしかないだろうという結論になった。

まず一つ目は、「戦争」。軍事目的の通信衛星の数は非常に多いし、情報を地上に供給するという意味で偵察衛星まで含めれば、その規模は宇宙ビジネスの中で群を抜いている。この世に戦争や軍隊がある限り、宇宙はそのニーズを満たすために存在しつづけることができる。宇宙の軍事利用が是か否かという問題は置いておいて、このニーズが宇宙分野の技術開発を促進させてきた大きなドライバーの一つであったことだけは確かだと思う。

そして2つ目は、「スポーツ」。通信・放送に関して人工衛星を用いる一番の利点は、地球上の遠距離かつ多地点間を同時進行的に結びつけることができるということだ。ワールドカップやオリンピックなどの世界的なスポーツイベントの映像を、ニュースで結果を知った後に観たのでは決して面白くはない。地球の裏側で起こっている外国の試合でさえも今この瞬間に観られるということに、人は大きな付加価値を見出すのだ。スポーツを生中継で観たいという欲求が、結果的にテレコム衛星への多額の投資を導いてきたといえる。

最後の3つ目のドライバーは、冗談ではなく真面目に「エロ」。人工衛星を使った衛星放送事業の中で、収益性という意味で最も成功しているのは、エッチな番組を個人宅にお届けする会社なのだ。すなわち、世界中を飛び交うエロ番組によって、放送衛星ビジネスの大半は支えられている。宇宙で必死に電波を送り続ける人工衛星にはちょっと申し訳ないのだけど、地上波ではまず放送されることのないエッチな番組を、他人の目を気にすることなく、好きな時間に好きなだけ自宅で観たいという欲望こそが、宇宙ビジネスを陰で支えているのだ。これは冗談ではなく、本当に真面目な議論だ。

ということで、僕達の議論の結論は、宇宙ビジネスは「戦争」と「スポーツ」と「エロ」の3つのドライバーによって突き動かされている、ということになりました。

いかがでしょうか?異論・反論がありましたら、ぜひコメント欄に書き込んでください。

(写真は人工衛星からの電波を受信するアンテナ)
 

新メトロ開通

2007年07月01日 | MBA
 
今日のトゥールーズは町中がお祭り騒ぎになっている。長年トゥールーズ市民が待ちに待ち続けたメトロ(地下鉄)のB線が、ついに今日開通したのだ。そのサービス開始を祝うため、トゥールーズ市内の至るところで野外コンサートやイベントが開催されている。フランスといえども地方都市なんだなあ~という雰囲気が町全体から伝わってきて、そのあたりが僕にとってはとても心地よい。

元々、僕が昨年の7月にフランスに来たときにも、トゥールーズにはA線(赤)というメトロが1本だけ既に開通していた。僕は幸運にもフランス滞在2日目にして車をゲットできたので、これまでは一度もメトロを使ったことはなかった。トゥールーズの公共交通機関はお世辞にも充実しているとは言い難く、バスもこれまでに利用したのは1度だけだ。

しかし、これからは毎日のようにメトロを使うことになるのかなあ~と思っている。理由は2つあって、一つは新しく開通したB線は僕の住むIASキャンパスの近くにPaul Sabatier駅があり、とても便利なこと。そして、もう一つは、今リースしている車のリース期間がまもなくあと2週間で期限切れとなり、僕はもう今の車を運転できなくなってしまうことだ。

トゥールーズで生活するには車があったほうがはるかに便利なので、本当は車のリース契約を延長したかった。しかし、僕はEU域外の外国人免税特権を利用して今のルノーClioを手に入れたので、法律上350日以上のリース契約ができないらしいのだ。

僕はフランスに来る前に日本で335日という期間でリース契約を結んでいて、今回延長できたのは、たったの15日間。今の予定では、僕は7月15日に愛車ルノーを返さなくてはいけない。いつも一緒に頑張ってきた相棒だけに、なんだかちょっとさびしい。できることなら日本に帰国する11月まで、一緒にいたかった。

それに、南仏トゥールーズはもうかなり前から夏の陽気だ。外を自転車で走ったらとても気持ちいいいだろうなあという気もする。フランスといえば、世界で最も有名な自転車ロードレース、Tour de France(ツール・ド・フランス)の開催国。自転車で颯爽と風を切って走るのがとてもよく似合う国だ。

さすがにあんなカラフルなコスチュームは着ないけど、もし可能なら会社まで自転車通勤というのもありかなあ~と思っている。車で通うよりも、はるかに健康に良さそうだし、ストレス解消(ほとんどないけど)にもいいはずだ。

ということで、7月16日から僕は車のドライバーをやめ、自転車ツーリストになる予定です。

(写真はトゥールーズのメトロ路線。今回開通したのは黄色のB線。)
 

全授業終了!

2007年06月30日 | MBA
 
昨年の10月末にスタートしたAerospace MBAの授業が、今日のSpace & Telecom(宇宙と通信)の授業をもって全て終了した。

トゥールーズ郊外のホテルでの合宿に始まって、パリにある航空宇宙系企業の本社訪問、全23科目のアカデミックコース、個人プロジェクトのプレゼンテーションにマルチカルチュラルなチームプロジェクトという、本当に全てを9ヶ月でやってしまったのかと疑いたくなるような盛りだくさんの内容だ。

思えば大学を卒業してからというもの、こんなに勉強に集中できる環境に身を置いたのは、本当に久しぶりだった。こんな貴重な時間は人生の中で二度とないのだからと自分に言いきかせ、僕は授業で出されるリーディングとケーススタディの予習のために、寝る時間を割いて可能な限りの準備をして授業に臨んだ。

翌日に控えたチーム発表のために、深夜までチームメイトと一緒に議論をし、明け方になってやっとプレゼンが完成するといったことも、一度や二度ではなかった。とにかく、僕に今できることは全てやった。MBAの勉強に関しては、この世の中の誰に対しても胸を張ってやりきったと宣言することができる。今の僕の心の中に悔いなんて一カケラもない。

それ以上に、今僕はこれまで僕を支え続けてくれた全ての人に心から感謝をしたい。僕がこうやってフランスのMBAで自分の勉強に夢中になれたのも、大きな事故もトラブルもなく無事に生活してこられたのも、全て周りで僕をサポートしてくれた人達のおかげだ。僕一人の力じゃ何もできなかったということは、今の僕自身が一番良く分かっている。本当に心から感謝したい。Merci Beaucoup!

MBAが僕に与えてくれたものは何か。そして、僕のこれからの人生にMBAはどんなインパクトをもたらすのか。落ち着いてそれらを振り返るには、今はまだちょっと早い。ATR社でのインターンシップがまだ残っている。

しかし、日本に帰国する飛行機の中では、僕は間違いなくそんなことを考えながらフライトをしていると思う。

MBAは僕にとって一体何だったのか。

成田空港に到着する瞬間までには、その問いに対する僕なりの答えを見つけておきたい。

(写真は僕が通ったトゥールーズビジネススクール。信号待ちの車から撮影。)
 

宇宙旅行ビジネス

2007年06月18日 | MBA
 
先日、ヨーロッパ宇宙産業の最大手EADSアストリウム社から、ついに宇宙旅行ビジネスに進出するとの発表があった。これまでも米国のベンチャー企業を中心に宇宙旅行サービスを企画する企業はいくつかあったものの、ロケットや人工衛星の開発などですでに実績のある大手企業が、この宇宙旅行というハイリスクな分野に進出するのは極めて異例な意思決定だと思う。

宇宙旅行ビジネスは、潜在的な需要は高いとは言われているものの、技術的な可能性、安全性、運用性、成長性などにおいて、まだ多くの不確定要素を抱えている分野だと言われている。Aerospace MBAでもよく宇宙旅行ビジネスの話題になるのだけど、1度か2度ほど技術的にフライトに成功したとして、それを継続的に利益の上がるビジネスモデルに落とし込むのは非常に難しいだろう、という意見で一致している。

前にも国産航空機の話で書いたのだけど、技術的に成功することと、ビジネスとして成功することは、全く次元の違う話だ。コンコルドなどを見ても分かるとおり、技術開発としては大成功を収めながら、商業運行という面で大失敗に終わったプロジェクトは枚挙に暇がない。もちろん、事業環境の変化などが失敗の大きな要因であった点も無視できないが、それ以上にビジネス面でのSuccess Factor(成功要因)を押さえることなく、盲目的に技術開発にのめり込んでしまった結果だと僕は思う。

宇宙旅行ビジネスをスタートするとき、そのゴールは決して誰かの夢を実現することでも、宇宙船を開発することでもない。高い投資リスクに見合うだけの高いリターンを上げることのできる、長期安定的なビジネスモデルを、他社よりも低コストかつ短期間で確立することだ。ひとたび宇宙旅行技術が確立されれば、当然多数の企業がこの事業に参入し、価格競争、サービスの差別化競争が始まる。競争の激化に耐え得るだけの資金力と経営力を有していなければ、企業として初期投資を回収することさえ難しいだろう。

ところで、なぜEADSアストリウム社は今回、この宇宙旅行というハイリスク・ハイリターンなビジネス分野に進出することにしたのか。僕なりに背景を分析してみたのだけど、やはり一番の理由は、現在の宇宙産業の将来がどんどん先細りになっているという事実が大きいと思う。

ロケットの打上市場は、年間の打上需要が今後20機~30機程度と頭打ちになると予測されているし、加えて、インドや中国などの宇宙新興国の安価なロケットの本格的市場参入により、価格競争がますます激化すると言われている。

ロケットのお客さんである人工衛星についても、技術の飛躍的進歩が人工衛星1機あたりの最大寿命をどんどん伸ばし、皮肉なことに新規な衛星需要をどんどん少なくしていっているという事実がある。また、最近中国がナイジェリアの人工衛星を開発して打ち上げたように、人工衛星市場でも今まで以上に国際受注競争が激化することは必至の状況だ。

既存市場での競争が激化し、かつ、これまでのような安定的成長が見込めなくなった時、企業がとるべき主な行動はひとつだ。既存事業からの安定的な利益がある間にその資金を使って新たな事業分野を開拓し、そこから得られるであろう利益を次世代の経営の基盤とするのだ。いわば、将来の”金のなる木”の種を今蒔いておく必要があるのだ。

今回のEADSアストリウム社の宇宙旅行ビジネスへの進出は、まさにこの「金のなる木」の種蒔きに等しい。別に夢の実現でも、新技術確保のためでもなく、経営の教科書に載っているような定石の意思決定だと僕は感じている。

2012年の商業サービス開始を、楽しみに見守っていきたいと思う。

(写真はEADSアストリウム社のHPより)
 

Galette

2007年06月17日 | MBA
 
今日、Galette(ガレット)と呼ばれるフランス料理を食べた。ソバ粉で作られたクレープの中に好みの具を入れて焼く、ブリターニュ地方に伝わる伝統料理だ。

僕は甘いものがあまり好きではない(チョコとソフトクリームを除く)ので、フランスに来るまでクレープらしきものをあまり食べたことがなかった。クレープといえば、僕の中では女子高生が街を歩きながら食べるおやつくらいにしか思っていなかったのだ。

しかし、フランスではクレープは単なる”おやつ”以上の存在だ。ランチタイムの人気メニューであり、大人から子供までがレストランで座って食べる、いわばメインとしての食事なのだ。最初にナイフとフォークを使ってクレープを食べるフランス人の姿を見た時は、正直驚いた。

中に入れる具材も、バナナやイチゴや生クリームといったおやつレベルのものばかりではない。ハム、ベーコン、ウインナー、チョリソー、キノコ、タマゴ、チーズ、タマネギなど、いわゆる”甘くない”系の食材がしっかりとメニューに並んでいる。僕にとっては、こっちのほうがはるかにおいしいし、食べやすいし、お腹もいっぱいになって嬉しい。

話をGaletteに戻すと、ソバ粉で生地を作るということ以外は、クレープと何ら変わりはない。生地自体の味はクレープに比べて少し淡白だったかもしれないけど、タマゴやハムと一緒に食べるぐらいだから、かえってそのほうが合うと思う。

今日僕がチョイスした具材は、ハム、チーズ、タマゴ、キノコの4種類だ。まず、Galetteの生地を目の前の鉄板で焼いてくれ、その上に生卵を直接割って乗せる。次に、タマゴの白身だけをヘラですくい、生地全体にまんべんなく伸ばす。

タマゴの白身が白くなってきたら、その上にハムをのせ、さらに上からチーズをたっぷりとかける。最後に、チーズがだんだんとけてくるタイミングを見計らって、あらかじめ調理しておいたキノコをのせ、写真のように折りたたんで出来上がり。この間、わずか2分の早業だった。たぶんアルバイトのお兄ちゃんだと思うけど、手際の良さにちょっと感動してしまった。

味のほうは、意外にもジューシーで濃厚なランチが楽しめるといった感じ。これ1枚でお腹いっぱいになるのは厳しいけれど、フランスパンやサラダと一緒に食べれば十分ランチとして成立するはず。

次回は僕の大好きなスモークサーモンをチョイスして焼いてもらおうと思う。

(写真は今日食べたGalette)

借りるか買うか?

2007年06月16日 | MBA
 
Aerospace MBAの授業で航空機のリースと購入について議論していた時の話。

僕達はAloha Airline(アロハ航空)というハワイの航空会社のケーススタディをしていた。課せられたミッションは、アロハ航空のCFO(最高財務責任者)の立場に立ち、ブルネイの航空会社から売りに出されているBoeing737旅客機を、どうやって獲得すれば最も会社の価値を高める意思決定となるかを検討せよ!というもの。

考えられるオプションは2つ。自己資金を使ってリース契約で獲得するか、あるいは、銀行から長期資金を借りて直接購入するか。どちらのオプションにもメリット・デメリットがあって、なかなかクラスでの議論が一つにまとまらない。

リース契約で獲得すれば、当然に毎年の支払額は少なくなる。しかし、そのかわりトータルライフサイクルで考えた場合の総支払額は多くなるし、リース終了後には会社には資産として何も残らない。一方、直接購入には最初に莫大な資金の借入れが必要になるので、毎年の支払額は大きくなる。しかし、購入した航空機はそのまま会社のAsset(資産)となるので、同時に会社の価値は増す。

もちろん、航空機の価値というのは、その時のマーケットの状況や機種の人気度、メンテナンスの状態など、様々な要因によって大きく変化する。そのため、購入する場合には航空機の価値変動リスクも考慮しなければならない。

一方、リース契約で獲得した場合でも、場合によってはリース終了時に航空輸送ビジネスが活況を呈していて、今なら購入できる金額よりもはるかに高い値段でしか航空機が手に入らないといった事態も十分にあり得る。どちらのオプションでも、性質の異なるリスクを少なからず負わなければならない。これらのリスクは、Real Option(リアル・オプション)理論を使って十分に評価する必要がある。

会社の価値というのは、Finance(ファイナンス)の理論に従えば、将来発生するであろうFree Cash Flow(フリーキャッシュフロー)の積算を、WACC(加重平均資本コスト)で割り引いて求めるのが基本だ。そして、フリーキャッシュフローは、Net Income(正味利益)にInterest(利子)とDepreciation(減価償却)とWorking Capital(運転資金)のΔを足し、これからCAPEXを差し引いて計算する。言い換えれば、各オプションがこれらの各要素に与えるであろう影響を考慮しながら、より会社の価値を高めるオプションはどちらかを決定しなければならない。

やはりファイナンスは理論として頼りになるなあ~と感じていたところ、フランス人のFlorianがある有名な言葉を紹介してくれた。シカゴ大学の有名な経済学者が言った言葉らしい。

 ■ Don't buy when you can rent. (レンタルできるなら買うな)

 ■ Don't rent when you can borrow. (借りられるならレンタルするな)

 ■ Don't borrow when you can steal. (盗めるなら借りるな)

 ■ Don't steal when you can be given. (もらえるなら盗むな)

倫理的な問題とか、道徳的な問題はおいておいて、なんか妙に納得感のある言葉だった。コストを支払わず、リスクもとらず、同時に、自分にとっての価値は増加させることができる。とても合理的な行動指針だと思う。

(写真はハワイのアロハ航空。)