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宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

航空会社マネジメント

2007年05月23日 | MBA
 
今週のAerospace MBAでは、Airline Management(航空会社マネジメント)の授業が行われている。授業を担当してくれるのは、Core Module(コア・モジュール)で経営戦略を担当してくれたアイスランド出身のSveinn教授だ。本当にこの学校の教授陣は国際色豊かだなあ~とつくづく思ってしまう。

Svienn教授の授業はいつもどおりケーススタディ中心だ。しかも、ただ単にケースを読んできてディスカッションするだけではなく、チーム毎にコンサルタント、企業経営者、クオリティチームの3つの異なる役割を与えられ、それぞれの視点でケースに取り組む。

一番変わっているのは、クオリティチームの存在だろう。このチームは、前日に当然ケースの予習をしてこなければならないものの、当日はディスカッションには一切参加しない。その代わり、コンサルタントチーム、経営者チームのディスカッションの様子を細かく観察し、議論の進め方や、問題解決の手法、チームワーク、コミュニケーション、各種ツールの用い方など、MBAの学生が常に向上させなければならないスキルに対して、各チームごとに改善提案をするのが仕事だ。

実際、一番難しいのがこのクオリティチームの役割で、自分達のクラスメートの作業の進め方を評価し、時には辛い批評も加えなければならない大変な作業なのだ。評価が甘すぎてもクラスメートのためにならないし、かといって、厳しすぎてもクラスの雰囲気を悪くしてしまうだけだ。この間の微妙なバランス感覚が非常に難しい。

実際のビジネスの現場では、マネージャーの大きな役割の一つとして、スタッフの評価という仕事がある。Sveinn教授によれば、自分が評価しなければならないスタッフに対して、いかに正確に問題点を指摘し、いかにモチベーションを下げることなくアドバイスを与えるかの訓練でもあるそうだ。確かに、人事評価の訓練でも似たようなシミュレーションをすることがある。理に適ったケーススタディの進め方だと僕は思う。

そして、今日のケースはエミレーツ航空。アラブ首長国連邦のアブダビを本拠地とする航空会社で、豊富な資金力と安い労働コストを背景に、世界シェアをどんどん伸ばしている航空会社だ。

エミレーツ航空のような小さな国の航空会社の場合、世界で戦うためにはハブ空港化するしかない。もちろん、ビジネス目的や観光目的でアブダビを訪問する人も中にはいるだろうけれど、乗客の半分以上は乗り継ぎ客だ。すなわち、アジア-ヨーロッパ間、オセアニア-ヨーロッパ間など、超長距離路線の中継基地としての競争優位性を築くことが、世界の航空市場における生き残りの鍵となる。シンガポールのシンガポール航空や香港のキャセイ・パシフィック航空なども同じ戦略で世界と戦っている。

僕がフランスに来る際にも、エールフランス航空の直行便で東京からパリへとフライトするか、エミレーツ航空のアブダビ経由でパリへと飛ぶかの2つの選択肢があった。結果として、僕は前者を選んだのだけれど、今日エミレーツ航空のケースを勉強して、ますますこの会社に興味を持つようになった。21世紀の世界の空の主役を張るだけの可能性が、このエミレーツ航空にはあるのだ。

まだ帰りの飛行機のことなんて何も考えていないのだけど、もしチケット代金が安ければ、エミレーツ航空のアブダビ経由で帰ってもいいかも!と思ったのでした。

(写真はエミレーツ航空とアブダビ)
 

ビジネスプラン完成

2007年05月22日 | MBA
 
MCTP(Multi Cultural Team Project)で挑戦した僕達のビジネスプランがついに完成した。本文はビジネス戦略の結論のみを中心に30ページ程度に抑え、分析そのものや分析のバックデータ、さらに、経営者(僕たち)のプロフィールなどは全てAppendixとして巻末に掲載した。全50ページにもわたる力作だ。

本格的にビジネスプラン執筆に取り組んだのは、僕にとってこれが始めての経験だ。今回の一連の作業を通して、ビジネスプランの作成に必要なコンテンツ、書き方のフォーマット、魅力的にみせるポイント、陥りやすいミスなど、非常に多くのことを学ぶことができたと思う。

やはり、『ビジネスプランの書き方』という本を読んだだけでは、決して見えてこない部分が多かったと思う。本当にビジネスプランの作成能力を身に付けたかったら、自分のアタマをフルに使ってアイデアを絞り、何度何度も仲間と議論を戦わせながら戦略とロジックの質を高め、納得できるレベルにまでビジネスプランを一度書き上げてみるしか方法はない。今は心の底からそう思う。本当に貴重な経験をすることができた。

今回の作業の中で僕達のチームが特にこだわったのは、Investor(投資家)が”聞きたいこと”に焦点を当てるということ。僕達がアピールしたいポイントではなく、あくまで投資家の興味を中心に据え、ビジネスプランを構成したつもりだ。ビジネスプラン自体のCustomer(顧客)はあくまで投資家であって、彼らを中心に据えて全てを考えることが成功への近道になる。僕達はそう信じて行動した。

今回のビジネスプランが僕の第1作目なので、荒削りな部分もあるだろうし、プロの経営者が読んだらどんどんツッコミを入れたくなる箇所がたくさんあるだろうと思う。そういった貴重なフィードバックを受けてビジネスプラン作成能力を向上させていくことも大切なので、今回顧客となってくれたヨーロッパの宇宙航空企業の方々の許可をとった上で、なんと僕達のビジネスプランを公に公開することにした。

まだ時期ははっきり決まってないのだけど、許可が下り次第、PDFファイルでダウンロードできるようにしたいと思います。僕達のビジネスプランに興味のある方は、お楽しみに!
 
(写真は僕達のビジネスプラン。カラー両面印刷でプロフェッショナル仕様。)
 

MCTPプレゼン-2

2007年05月21日 | MBA
 
今回僕はMarket(マーケット)分析とMarketing Plan(マーケティングプラン)立案の2つを主に担当しているので、マーケットに関する分析を発表した約20分後には、今度は“How can we reach customers?”(どうやって顧客の元へと到達するか?)について説明しなければならない。それがマーケティングプランのエッセンスだ。実はこっちのほうが大変で、直接収入に関わるメインの部分でもあるだけに、聴衆に納得感と共感をしっかりと得てもらえるようなプレゼンをしなければならない。

僕はマーケティングのコア戦略とともに、実際に初期段階に想定する3つのアクションに関して、その内容、目的、予算、想定される結果などについて、できるだけグラフや図を使って分かり易く説明しようと心がけた。僕達が伝えたいことではなくて、投資家が聞きたいと思うことは何かに的を絞ったプレゼンにしたつもりだ。最後は、“How much do we get?”(では、いくら儲かるのか?)と質問を投げかけて、Finance Analysis(財務分析)を担当するチームメイトへと繋いだ。自分の中ではほぼ100点に近い出来だったと思う。

発表も質疑応答も全て終わった瞬間、ビジネススクールの教授陣や今回顧客となって僕達のプロジェクトを支援してくれた宇宙航空企業の方々の笑顔が目に入ってきた。そして、横にいるチームメイト達も、達成感と充実感に満ちた最高の笑顔をしていた。本当にこのチームメイト達と頑張ってきてよかったと思う。

今思い起こせば本当に短いようで長かったし、ツライようでかなり楽しかった。MBAの授業と平行して進めなければならないのは大変だったけど、僕達のチームは『常時滞空型風力発電ビジネス』という、世界で全く前例のない新ビジネスに果敢にチャレンジするほど前向きなチームだった。『今は大変だけど、もし成功したらこれはすごいことになるっ!』、そんな気持ちを心の奥底に持って様々な障害を協力して乗り越えてきたと思う。本当にいいチームだった。

最後に、僕達は知らされていなかったのだけど、フランス人チームメイトのJacquesが自宅から奥さんに黙って持ってきたというシャンパンを皆で空け、MCTPプロジェクトの達成を祝って盛大に乾杯した。

世界中で一番おいしい、最高の一杯だった!

(写真は僕達のプレゼンの一部。こんな感じで48機の発電機を上空に飛ばす計画。)
 

MCTPプレゼン-1

2007年05月20日 | MBA
 
ついに今日がMCTP(Multi Cultural Team Project)のプレゼン発表の日。昨年12月にチームを組んでからの約半年間、全く文化も考え方も異なるクラスメートと協力して一つのビジネスの立ち上げを考え続けてきた。その集大成が今日だ。

僕達のチーム発表は、午後4時30分から午後6時までの約1時間半。この1時間半の間にチームメイト6人で今回取り組んできた『常時滞空型風力発電型ビジネス』のビジネスプランを発表し、質疑応答に的確に答えなければならない。

1時間半という時間は長いように思えるかも知れないけれど、6人のチームメイトで割ると、一人当たりたったの15分だ。今の僕のプレゼン基準では、それほど長くはない。当然、チームワークやプレゼンのクリエイティブさも評価の対象になるので、直前までチームメイトと演出&リハーサルを繰り返し続けた。

そして、僕達の順番がやってきた。リスナーの側には、MBAディレクターであるJacques、今回の僕達の顧客であるヨーロッパ宇宙航空企業2社の方々、そして、ESCトゥールーズの教授陣が審査員として最前列に座っている。貴重な時間を割いてわざわざ僕達のプレゼンを聞きにきてくださったことに感謝。Merci!

さらに嬉しかったのは、仲のよかった経営戦略の教授がわざわざ時間を割いてプレゼンを見学しに来てくれたことだ。自分は審査員には選ばれていないものの、このチームは何かをしでかしそうで興味があったとのこと。今の僕達にはその期待に応える自信も力も十分ある。半年間のチームワークで、本当にそう思えるようになった。

ついに出番がやってきた。僕の前に発表したチームメイトからの“Where are we?”(我々は一体どこにいるのか?)という質問に答える形で、僕はヨーロッパ、特に、フランスにおける風力発電ビジネスのMarket Overview(市場概況)とSegmentation(セグメンテーション)、Competitors(競合)、Market Key Characteristics(市場の特徴)などについて説明をした。そして、僕のプレゼンの最後に“What do we deliver?”(その市場に我々は何をもたらすのか?)と質問を聴衆に投げかけ、僕の次にProduct & Service(製品とサービス)を説明するチームメイトへにバトンタッチした。

ここまでが僕の担当したMCTPプレゼンの前半部分。後半は明日のブログで。

お楽しみに!
 
(写真はSky Wind Power社の常時滞空型風力発電装置)
 

Green O.N.E.

2007年05月18日 | MBA
 
僕達のMCTP(Multi Cultural Team Project)チームの会社名がついに決まった。常時滞空型風力発電ビジネスを展開するその会社の名は、『Green O.N.E.』(グリーン・ワン)!

最後の最後まで自分達の会社の名前を決めなかったのには訳があって、一つには会社の名前はビジネスプランの作成に大した価値をもたらさないだろうというもの。もちろん、会社のブランディングという意味では会社の名前が大きな価値をもたらすのも事実なのだけど、少なくともまだビジネスをスタートさえしていない今の段階で会社名を熱く議論することは、単なる楽しいお遊びにしかならかない。

もう一つは、会社名なんて個人の趣味みたいな部分が少しあって、議論し始めたら楽しくて収集がつかないだろうというもの。限られた時間の中で協力して成果を出さなければならないプロジェクトでは、結果としての価値の創造に結びつくような活動に重点的に資源を投入しなければならない。でなければ、期限内に顧客の要求するレベルで彼らを満足させることなんて到底不可能だ。会社の名前は絶対に最後にしようということで、チーム内で始めから合意していたのだ。

しかし、ビジネスプランの分析と執筆がほぼ99%完了した段階になって、ようやく僕達もそろそろ会社名を考えよう!という雰囲気になった。そして、皆で候補をリストアップして議論し始めたのだけど、予想通りこの作業は楽しくて仕方がない。当然、個人の趣味や好みがぶつかり合って合意に至ろうという気配さえない。

僕が提案したのは、『Power Flyer』(パワーフライヤー)と『Skite』(スカイト)の2つだ。パワーフライヤーは、常に上空を飛び続けて僕達に電力を供給し続けてくれるフェニックス(不死鳥)のイメージから思いついた。僕達ビジネスのエッセンスであるPower(電力)とFlyer(飛行体)とのコンビネーションだし、悪くない。

Skite(スカイト)のほうは、既に気付いた人もいると思うけど、インターネット通話のスカイプから連想して作った言葉だ。空に舞うKite(カイト:凧)のように優雅に電力を発電する会社であって、将来的には世界中の人々にクリーンなエネルギーを提供できる会社になりたい、そんな想いを込めて考えた。もちろん、半分はシャレだ。

そして、チーム内で議論に議論を重ねた結果、意外にも僕の提案したこの2作品は最終選考まで残ることになった。そして、他の2候補である『Demetor』(デメター)とGreen O.N.E.(グリーン・ワン)とを合わせた4つの候補の中から、皆が納得できる会社名を選ぼうということになった。

それからさらに1時間ほどチーム内で議論したのだけど、予想した通り会社名は一向に決まる気配がない。Demetor(デメター)はギリシア神話に登場する豊穣の神らしいのだけど、そんなのヨーロッパ人にしか分からないかもしれないし、第一ぱっと発音した感じでクリーンエネルギーを扱う会社だと分からない。僕はこの名前には個人的に反対した。

Green O.N.E.(グリーン・ワン)は響きもいいし、クリーンエネルギーのイメージを聞き手に思い起こさせる。しかし、ヨーロッパでは場所によってはグリーンはゲイの象徴らしく、また、僕達がビジネスの最初の候補地として選んだフランスのブリターニュ地方には独特のアクセントがあって、この英語の単語は発音しにくいかもしれないという意見もあった。

そんな感じで議論がずっと続いて決まらないので、僕は思い切ってある提案をチームにすることにした。『あみだくじ』だ。議論しても結論を見ないので、もう神様に決めてもらうしかないのだ。

ということで、チーム全員に『あみだくじ』のやり方を説明し、納得してもらった上で実行。結果として、『Green O.N.E.』(グリーン・ワン)が神様によって選ばれたのでした。

(写真は僕達の会社Green O.N.E.社のロゴマーク)
 

ロケット同盟(その3)

2007年05月16日 | MBA
 
この2日間のブログで日本のH-2AロケットとヨーロッパのArian 5ロケットの戦略的アライアンスについて書いてきたのだけど、3日目の今日は僕なりの分析の結論について。3日間も読むのに付き合ってくださった方、どうもありがとうございます。

H-2AとArian 5、この2つのロケットの関係はとてもバランスのよい相互補完関係にある。静止トランスファー軌道への打上能力、価格、それらが一部を除いて重なっておらず、お互いの持っていない部分を互いに補い合うような関係なのだ。

戦略的アライアンスがこの相互補完関係にある場合、そのアライアンスはうまくいく可能性が高い。互いの利益が相反せず、むしろ、協力して利益を最大化する方向にインセンティブが働くからだ。

当然、H-2AとArian 5の戦略的アライアンスが今後もうまく進展してくれることを願っているのだけど、僕個人として心配な点が一つある。それは、日本が開発する次期ロケットH-2Bの存在だ。このH-2Bロケットが、H-2Aを運用する三菱重工業とArian 5を運用するAriane Space社との間の良好なバランス関係を崩すキッカケになりかねないと僕は予測している。

その一番の理由は、国家としてのStrategic Collision(戦略の衝突)の可能性だ。H-2Bロケットの打上能力は、現時点の想定でArian 5ロケットがカバーする領域に、Arian 5ロケットよりも低価格で殴り込むようなイメージになる。一企業としての三菱重工業はH-2Aロケットからの利益最大化を考えればよいが、日本という国家の視点からは、H-2AもH-2Bもどちらも国際市場で競争優位に立ってもらわなければならない。パートナーであるAriane Space社のArian 5ロケットに配慮して、H-2Bロケットの国際打上市場への進出が危ぶまれるようでは困るのだ。

こういった戦略的アライアンスにおける戦略の衝突は、実際に宇宙航空産業の様々な場面で目にすることができる。例えば、長期間のアライアンス維持に成功している航空機エンジンメーカーのCFM International社でさえ、親会社である米GE Aero Engine社の意向によって、自由な営業活動が阻害されるといった事例などだ。

CFM社が自社の利益を最大化するためにエアバス社に航空機エンジンを売れば売るほど、親会社であるGE Aero Engine社がボーイング社に売ることのできる航空機エンジンの数が相対的に減る。そのため、CFM社の経営方針策定にあたって、親会社であるGE Aero Engine社ともう一つの親会社である仏Snecma社の利害が衝突し、100%望ましいといえるビジネス戦略を選択できないのだ。

よって、結論として、三菱重工業とAriane Space社は、これら上位レベルでのStrategic Collision(戦略の衝突)に十分配慮しながら、戦略的アライアンスを維持していく必要がある。そのためには、互いのパートナーだけでなく、それぞれのロケットを開発した宇宙航空研究開発機構(JAXA)やヨーロッパ宇宙機関(ESA)の最新動向をも継続的にモニタリングする必要がある。

さらに、日本とフランスの両国の文化と宇宙航空産業に精通した有能なマネージャー候補を採用し、戦略的アライアンスのインターフェースとしてマネジメント業務にに従事させることが重要だ。そのためには、Aerospace MBAで学ぶ唯一の日本人を採用するのが一番の近道だと思われる。以上!

ということで、最後にクラスの“笑い”をとって僕のプレゼンは無事終了したのでした。どこまで本気か分からないけど、僕のプレゼンについてMBAディレクターのJacquesからは、“Excellent! I’m so impressed!”と最高のお褒めの言葉を頂いたのでした。

(写真は日本のH-2Bロケット)
 
 

ロケット同盟(その2)

2007年05月15日 | MBA
 
昨日はH-2AロケットとAriane 5ロケットのアライアンスに関する導入部分の話を書いたのだけど、今日はそれに対して僕がどんなマネジメントの視点から分析を加えたかについて。やや独自の考えで走っている部分があるので、あくまで個人的な意見として受け取ってください。

Strategic Alliance(戦略的アライアンス)とは、2社か又はそれ以上の企業体が、競争優位の確立や顧客へのさらなる価値の提供といった共通の目的のために、相互に協力してビジネスを展開していく活動と定義できる。これは、僕の通うAerospace MBAで経営戦略を教えてくれたSveinn教授の言葉なので、僕のオリジナルではない。

もし僕なりに“戦略的アライアンス”の本質を一言で表すとしたら、それはいつも言っている『競争のための協力』ということになる。ただ単に協力すること自体が目的なのではなくて、戦って勝つという目的のためにあえて協力をする、それが僕の考える戦略的アライアンスの本質だ。

この戦略的アライアンス、結ぶのはそれほど困難ではないものの(もちろん難しいもののあるけど)、うまく維持することのほうがはるかに大変な作業であることが多い。特に国境を超えた日本とヨーロッパの提携となれば、言語の違いがある上に、文化の違いを克服しなければならない。誰かが言っていたように、結婚するのは簡単だけど、結婚生活を維持するのはより大変という感覚に似ているかもしれない。

実際、戦略的アライアンスの成功率は30%~40%と極めて低い。そして、戦略と呼ばれるものの失敗の約90%が実行段階における失敗であるとおり、戦略的アライアンスもその実行段階で失敗することが多い。すなわち、戦略的アライアンスの実行面をどうやってうまくマネジメントするか、これが重要な鍵になる。そして、僕のプレゼンのキーワードも「いかにして戦略的アライアンスをうまくマネジメントするか」だ。

僕の考えでは、戦略的アライアンスのマネジメントには、以下の6つの重要な鍵がある。

1.初期段階にまず信頼関係を構築すること
2.文化の違いを認識すること
3.アライアンスのインターフェースに細心の注意を払い、異文化マネジメントの訓練を受けた有能なマネージャーを配置すること
4.常にパートナーの最新の状態をモニタリングすること
5.子会社同士のアライアンスの場合、パートナーの親会社の意向に注意を払うこと
6.コミュニケーション、コミュニケーション、コミュニケーション

もちろん、これらは戦略的アライアンスを成功させるコツのようなものにすぎないのだけど、分かっていても大体のマネージャーが上記の6つのポイントで戦略的アライアンスのマネジメントに失敗している。なので、他者の失敗から学んだ教訓のようなものだと思ってほしい。

特に大事なのは、最初の信頼の構築と最後のコミュニケーション。一番簡単にできそうで、誰もがおろそかにしてしまう落とし穴だ。

戦略的アライアンスを締結する人や結婚を控えている人は、ぜひ参考にしてください。

明日はロケット同盟(その3)ということで、僕の出した最終的な結論を書きたいと思います。
 
(写真はAriane 5ロケット)
 

ロケット同盟(その1)

2007年05月14日 | MBA
 
Aerospace MBAが始まってから何度プレゼン発表をしたか分からないのだけど、今日やっと終わったIndividual Presentation(個人発表)は、個人として話す長さで言えば、これまでの中で最長の30分間のプレゼンだった。短いように聞こえるかもしれないけど、母国語でない英語で30分間一人でしゃべり続けて、なおかつ質疑応答に英語で的確に答えるのは結構エネルギーのいることだ。

個人発表では日時が一人一人に学校側から指定されて、Aerospace MBAのDirector(ディレクター)であるJacques Tournaut教授とプレゼンテーション講師のBaja氏の前で一人舞台を演じなければならない。プレゼンのテーマはビジネスマネジメントに関する限り自由で、自分の興味のある分野をテーマに選んで発表することができる。

僕が今回発表に選んだテーマは、日本のH-ⅡAロケットとヨーロッパのAriane 5ロケットのAlliance(アライアンス同盟)に関するもの。題して、“How to manage strategic alliance between H-2A and Ariane 5”(H-2AとAriane5に関する戦略的アライアンスのマネジメント手法について)だ。せっかくフランスのMBAに留学しているのだから、何か日本とフランスとの架け橋となるようなテーマを追求してみたかった。

H-2AロケットとAriane 5ロケットは、2003年7月にLaunch Service Alliance(打上サービスアライアンス)というロケットの打上に関するアライアンスを締結している。実際には、アメリカのBoeing Launch Services(ボーイングローンチサービス)も加わって、国際的にロケット打上サービスを提供する3社間のアライアンスとなったのだけど、この提携はいわゆるバックアップ・アライアンスと呼ばれるものだった。

バックアップ・アライアンスというのは、3社のうちのいずれかのロケットが打上げに失敗し、事故原因の調査のために当面の間は次の打上げができないという事態になった場合に、顧客である人工衛星オペレーターは他の2社のロケットを使って人工衛星を打ち上げられますよ、という感じの協力関係だ。

人工衛星を運用するオペレーターにとって、打上げの遅れはサービスの遅れにつながり、結果的に会社の利益に多大な影響を及ぼす。そのため、ロケットの打上げ失敗による自社ビジネスへの影響を最小限に抑えるために、バックアップ体制の整っているロケットはとても魅力的なのだ。言い換えれば、バックアップ体制のしっかり整っているロケットは、ビジネスマーケットでより競争力を獲得することができる。

そして、2007年4月、日本のH-2Aロケットを運用する三菱重工業は、Ariane 5ロケットを運用するAriane Space(アリアンスペース)社との間で、さらなる関係の強化につながるアライアンスを締結した。それが、Joint Proposal Agreement(共同提案契約)だ。

Joint Proposal Agreementは、ロケット打上市場でのマーケティング活動や人工衛星オペレーターへのロケット打上提案を共同して行うのが特徴だ。これまでは、両社は打上のバックアップ体制という面では協力をしていたものの、ロケットの売り込みに関しては独自の戦略と体制で営業活動を展開していた。

と、ここまでが僕のプレゼンの導入部分。ただ状況を解説するだけならMBAとしての価値はないので、ここにManagement(経営)の視点で分析と提案を盛り込まなければならない。

僕がどんな分析をして、どんな結論にたどり着いたか。続きは明日以降のブログで。

お楽しみに!
 

空港検査官

2007年05月13日 | MBA
 
航空輸送のSafety(安全性)を確保する上で重要な役割を果たしているのが、空港でのScreening(検査)だ。飛行機に乗る度に長蛇の列に並ばされ、何も悪いことをしていないのなぜか靴を脱いだり、ベルトを外したりすることを要求される、あのあまり気持ちのいい思いをしない時間帯のことだ。

今日の授業は、この空港における荷物検査について。講師としてスイスのチューリッヒ大学からわざわざやってきてくれたSchwaninger教授は、この分野の研究で世界の第一人者だ。心理学者兼コンピューターサイエンティストという異色の肩書の持ち主で、世界中の空港の安全性を高めるための研究を行っている。

そもそも、空港における荷物検査を研究対象とする研究者が、この世に存在すること自体に僕は驚いた。あの笑顔のあまりないサービスのどこをどう研究するのだろうと思ったのだけど、教授の話を聞けば聞くほどこれはとても奥の深い分野だということが理解できた。

そして、一番興味深かったのが、Schwaninger教授が中心になって開発したという、空港検査官用のトレーニングコースだ。日々忙しい空港検査官が業務の合間をぬって検査のレベルを高められるよう、一ヶ月に20分程度のトレーニングで十分効果が上がるように設計されている。

トレーニングはコンピューターベースで行われるのだけど、授業の中で僕達も少しだけ挑戦することになった。トレーニングの内容を簡単に説明すると、まずX線で荷物の中を透視した画像が画面に映し出される。僕たちはこの画像をじっと見て、4秒以内にこの荷物が「安全」か「問題あり」かを見極めなければならない。さらに荷物に「問題がある」と判断した場合、どの物体にどんな問題があるのかを当てなければならない、というものだ。

どんな問題があるかまで推察しなければならないのには、ちゃんとした理由がある。爆発物だったら危険だからだ。ナイフやピストルなら荷物を開いたくらいでは直接の被害は発生しないかもしれないが、もし爆発物だったらチェックのために荷物を開けた瞬間にドカンということだってあり得る。何が問題で、それがなぜ問題なのかまで見極めることを要求されるあたりは、少しMBAと似ているかもしれない。

さて、トレーニングに話を戻すと、最初は明らかにピストルの形をした物体が写っているので、素人の僕でも「これは危険」と判断できた。ピストルなので、荷物をあけて直接チェックしてもドカンと爆発することはない。

しかし、正解を重ねるごとに徐々に画像の難易度が上がっていって、同じピストルでも角度が変わって全くピストルの形をしていなかったり、あるいは、他の荷物の中にまぎれて発見するのがほぼ不可能に近い状態だったりと、手を変え品を変えて僕達の視覚と脳にチャレンジしてくる。

形で判断できるものはいいが、爆発物のように火薬と配線とバッテリーだけでその存在を見極めなければならないものになると、もう僕のような素人にはお手上げだ。これが電化製品の配線なのか、それとも、本当に爆発物の配線なのかを4秒以内に見分けるなんてムリだ。本物の検査官は、爆発物の存在を画像の中のかすかな色の違いで瞬時に察知するのだそうだ。

空港の検査官の人達は、毎日このような仕事を100%に近い正確性で遂行しなければならない。忍耐力と集中力の両方が同時に要求される、とてもタフな仕事だと思う。彼ら空港検査官の日々の努力と、そして、Schwaninger教授のような航空輸送サービスの安全性を高めるために何ができるかを日々考え続ける研究者がいるからこそ、僕達は安心して飛行機に乗れるのだと思う。

心の底から感謝しよう。Merci!
 

ローコスト航空の安全性

2007年05月12日 | MBA
 
昨日は航空機の安全性について書いたのだけど、今日はもう一歩先に踏み込んでLow Cost Airline(ローコスト航空会社)の安全性について。アメリカのサウスウェスト航空やヨーロッパのライアン航空やEasyJet航空などがその代表的な航空会社だ。

ローコスト航空会社の一番の魅力は、何と言ってもチケットの安さだ。日本の航空チケットと比べると、激安と言ってもいいくらいの値段で売られている。例えば、ライアン航空のチケットは1セントからスタートすることもある。とにかく、想像を絶する安さなのだ

もちろん、全ての座席が激安価格というわけではないのだけど、航空機のチケットを激安で提供できるのには、それなりに理由がある。ローコスト航空の徹底したコスト削減努力だ。乗客を安全かつ時間どおりに運ぶこと以外、彼らは全てのサービスを必要のないものと見なして省くか、あるいは有料で提供しているのだ。

もちろん、パイロットの給与やキャビンクルーの給与もかなり低く抑えるているし、採用人数も余分な数まで想定して採ることはない。とにかく、フライトに必要なもの以外は全てムダとみなし、本当に最低限のコストとリソースで航空会社を経営しているのだ。

そう聞くと、そんなにコストやリソースを切り詰めてSafety(安全性)は大丈夫?と聞きたくなるのが普通だと思う。実際、料金が安いからもっと利用したいけれども、目的地までちゃんと事故もなく運んでくれるのか不安だから決して利用しないという人も多い。そんな不安に応えてくれたのが今日の授業だった。

結論から言うと、ローコスト航空会社の安全性は、通常の大規模航空会社の安全性よりも高い。1996年に米バリュージェット航空が大規模な死傷事故を起こして以降は、ローコスト航空会社による大規模な航空機事故は発生していない。少なくともヨーロッパに関しては、死者が発生するような大規模な事故は、ライアン航空もEasyJet航空も過去に全く起こしていない。すなわち、統計上では既存の大手航空会社よりもローコスト航空会社のほうが安全性が高いのだ。

米San Jose University(サンノゼ大学)の研究によれば、ローコスト航空会社の安全性が高い秘訣は、大きく分けて3つあるという。1つは、ローコスト航空会社特有のシンプルなビジネスモデルだ。組織内にもヒエラルキーがないので意思決定が早く、かつ、日々のオペレーションでも複雑なことはせず、ちょっと訓練を重ねれば誰でも安定してこなせるような仕事の進め方をする。当然、複雑なオペレーションを求められる大手の航空会社に比べてミスの発生確率は低くなる。

そして、2つめは単一機種の全社的な使用だ。ボーイング737やエアバスA320などの全く同じ会社の全く機体のみを全社的用いることによって、パイロットやクルーの習熟度を短期間に急上昇させ、ミスの発生する確率を低く抑えている。操縦する飛行機が全く同じタイプの飛行機なので、不具合情報の共有やパイロット間の情報交換もスムーズに行うことができる。

3つめは、最新ハイテク機種の短期集中型の使用だ。ローコスト航空会社では、最新型のハイテク航空機のみを主にリース契約で導入し、少しでも古くなったらすぐに貸主に返すといったオペレーションを繰り返している。例えば、EasyJet航空が保有する全ての航空機の平均継続利用年数は、たったの2.2年でしかない。一番新しい一番安全な航空機の、一番最初の一番故障が発生しにくい時期だけを借りて運行し、大きなメンテナンスが必要な時期にさしかかった古い航空機はほとんど使用しないのだ。ちなみに、古くなった飛行機は、他の大手航空会社に転売されて運行されていたりするのから面白い。

もちろん、実際にローコスト航空会社の航空機に一度乗ってみないことには本当のところは分からない。しかし、統計上では、既存の大手航空会社のほうが、ローコスト航空会社よりも、事故に遭う確率が圧倒的に高いのだ。

次に航空会社を選ぶときの参考にしてみてください。

(写真はEasyJet航空)