■カーの創作年譜を見てみると、1945年で一つの区切りがあるように思えるんだ。
★それまではフェル博士ものとHM卿ものを各1作ずつは書いていたものの、
1946年は「青銅ランプの呪」だけ。その後はたしかに創作意欲が落ちたかのように見えますね。
■さらに確実なラインが1954年に見える。
★1作も発表していない年ですね。
■その10年の間にフェル博士ものは3作しか書いていない。
しかも戦前作とくらべると、重くて暗くて地味なんだな。ミステリとしてもキレが悪い。
★それは個人の感想としても、どうしちゃったのか、という感じはありますね。
■ルーティンワークであるHM卿ものも、出来の差が激しい。
★「時計の中の骸骨」「わらう後家」は佳作だとしても、あとは……、
■HM卿ものの最終作「騎士の盃」は私小説だよな。
★えっ、そうなんですか。
■孫の教育に悩むおじいちゃんはカー本人で、あとは家族をモデルに書いているんじゃないか。
★HM卿も出てくるんですよ。
■作者とその被創造者が一緒に登場するんだから、カー流のメタフィクションだろう。
「三つの棺」の密室講義でのフェル博士の台詞を「メタ、メタ」と喜んでいるのなら、
こっちの作品をもそう定義するべきじゃないのかねえ。
★あれはそうじゃないんですか。
■違うよ。あれはカーの言い訳だよ。
★言い訳?
■「密室講義」は読者に真相から目を逸らせようとする、1章まるごと使ったミスディレクションなんだ。
それをレギュラー探偵に喋らせるというズルイ手を使っている上に、講義としてとても面白いので、
真に受ける人間もいるかも、という恐れをカーは想定したのだろう。
『ここは小説の中の人物が語っているから真に受けるな』という作者のメッセージ、または言い訳なんだ。
★ややこしいですね。
■肝心のパターン(事件の真相)についてフェル博士が言及しないのは卑怯だろう、
という評論家や読者から抗議を受けたときに、
「ほら、フェル博士(と作者)はここで小説の中だから真に受けるな、と
警告してますよ」と言い訳をしておいた、ということだと思うね。
★評判を気にするというか、クイーンだったら、そんな仕込みはしませんよね。
■奇妙な言葉を手がかりとして晒しておく、という興趣なんじゃないかなあ。
★ああ、戦後のフェル博士ものには、
戦前作にあったそういう「自信」とか「興趣」が感じられない気がします。
■評判を気にするといえば、歴史ものの巻末にあった
「好事家のノート」も学者や歴史研究家からの指摘や非難を防ぐ役割もあったんじゃないか。
ちゃんと史実にのっとって書いていますよ、みたいな。
★意外に小心者!
■「Devil Kinsmere」を30年後に『深夜の密使』として改稿したときの理由が、
言葉使いや時代考証がでたらめだったから、と書いてあったので、
若い頃から歴史好きだったわけでもなさそうだね。
(F)フェル博士 (M)HM卿 (H)歴史もの (N)ノンシリーズ
1944年
Till Death Do Us Part 『死が二人をわかつまで』『毒殺魔』(F)
He Wouldn't Kill Patience 『爬虫類館の殺人』(M)
1945年
The Curse of the Bronze Lamp 『青銅ランプの呪』(M)
1946年
He Who Whispers 『囁く影』(F)
My Late Wives 『青ひげの花嫁』『別れた妻たち』(M)
1947年
The Sleeping Sphinx 『眠れるスフィンクス』(F)
1948年
The Skeleton in the Clock 『時計の中の骸骨』(M)
1949年
Below Suspicion 『疑惑の影』(F)
A Graveyard to Let 『墓場貸します』(M)
1950年
Night at the Mocking Widow 『魔女が笑う夜』『わらう後家』(M)
The Bride of Newgate 『ニューゲイトの花嫁』(H)
1951年
The Devil in Velvet 『ビロードの悪魔』(H)
1952年
Behind the Crimson Blind 『赤い鎧戸のかげで』(M)
The Nine Wrong Answers 『九つの答』(N)
1953年
The Cavalier's Cup 『騎士の盃』(M)
1954年
なし
1955年
Captain Cut-Throat 『喉切り隊長』(H)
1956年
Fear Is the Same 『恐怖は同じ』 - ディクスン名義(H)
Patrick Butler for the Defence 『バトラー弁護に立つ』(F)
1957年
Fire, Burn! 『火よ燃えろ!』(H)
1958年
The Dead Man's Knock 『死者のノック』(F)
1959年
Scandal at High Chimneys 『ハイチムニー荘の醜聞』(H)
1960年
In Spite of Thunder 『雷鳴の中でも』(F)
★それまではフェル博士ものとHM卿ものを各1作ずつは書いていたものの、
1946年は「青銅ランプの呪」だけ。その後はたしかに創作意欲が落ちたかのように見えますね。
■さらに確実なラインが1954年に見える。
★1作も発表していない年ですね。
■その10年の間にフェル博士ものは3作しか書いていない。
しかも戦前作とくらべると、重くて暗くて地味なんだな。ミステリとしてもキレが悪い。
★それは個人の感想としても、どうしちゃったのか、という感じはありますね。
■ルーティンワークであるHM卿ものも、出来の差が激しい。
★「時計の中の骸骨」「わらう後家」は佳作だとしても、あとは……、
■HM卿ものの最終作「騎士の盃」は私小説だよな。
★えっ、そうなんですか。
■孫の教育に悩むおじいちゃんはカー本人で、あとは家族をモデルに書いているんじゃないか。
★HM卿も出てくるんですよ。
■作者とその被創造者が一緒に登場するんだから、カー流のメタフィクションだろう。
「三つの棺」の密室講義でのフェル博士の台詞を「メタ、メタ」と喜んでいるのなら、
こっちの作品をもそう定義するべきじゃないのかねえ。
★あれはそうじゃないんですか。
■違うよ。あれはカーの言い訳だよ。
★言い訳?
■「密室講義」は読者に真相から目を逸らせようとする、1章まるごと使ったミスディレクションなんだ。
それをレギュラー探偵に喋らせるというズルイ手を使っている上に、講義としてとても面白いので、
真に受ける人間もいるかも、という恐れをカーは想定したのだろう。
『ここは小説の中の人物が語っているから真に受けるな』という作者のメッセージ、または言い訳なんだ。
★ややこしいですね。
■肝心のパターン(事件の真相)についてフェル博士が言及しないのは卑怯だろう、
という評論家や読者から抗議を受けたときに、
「ほら、フェル博士(と作者)はここで小説の中だから真に受けるな、と
警告してますよ」と言い訳をしておいた、ということだと思うね。
★評判を気にするというか、クイーンだったら、そんな仕込みはしませんよね。
■奇妙な言葉を手がかりとして晒しておく、という興趣なんじゃないかなあ。
★ああ、戦後のフェル博士ものには、
戦前作にあったそういう「自信」とか「興趣」が感じられない気がします。
■評判を気にするといえば、歴史ものの巻末にあった
「好事家のノート」も学者や歴史研究家からの指摘や非難を防ぐ役割もあったんじゃないか。
ちゃんと史実にのっとって書いていますよ、みたいな。
★意外に小心者!
■「Devil Kinsmere」を30年後に『深夜の密使』として改稿したときの理由が、
言葉使いや時代考証がでたらめだったから、と書いてあったので、
若い頃から歴史好きだったわけでもなさそうだね。
(F)フェル博士 (M)HM卿 (H)歴史もの (N)ノンシリーズ
1944年
Till Death Do Us Part 『死が二人をわかつまで』『毒殺魔』(F)
He Wouldn't Kill Patience 『爬虫類館の殺人』(M)
1945年
The Curse of the Bronze Lamp 『青銅ランプの呪』(M)
1946年
He Who Whispers 『囁く影』(F)
My Late Wives 『青ひげの花嫁』『別れた妻たち』(M)
1947年
The Sleeping Sphinx 『眠れるスフィンクス』(F)
1948年
The Skeleton in the Clock 『時計の中の骸骨』(M)
1949年
Below Suspicion 『疑惑の影』(F)
A Graveyard to Let 『墓場貸します』(M)
1950年
Night at the Mocking Widow 『魔女が笑う夜』『わらう後家』(M)
The Bride of Newgate 『ニューゲイトの花嫁』(H)
1951年
The Devil in Velvet 『ビロードの悪魔』(H)
1952年
Behind the Crimson Blind 『赤い鎧戸のかげで』(M)
The Nine Wrong Answers 『九つの答』(N)
1953年
The Cavalier's Cup 『騎士の盃』(M)
1954年
なし
1955年
Captain Cut-Throat 『喉切り隊長』(H)
1956年
Fear Is the Same 『恐怖は同じ』 - ディクスン名義(H)
Patrick Butler for the Defence 『バトラー弁護に立つ』(F)
1957年
Fire, Burn! 『火よ燃えろ!』(H)
1958年
The Dead Man's Knock 『死者のノック』(F)
1959年
Scandal at High Chimneys 『ハイチムニー荘の醜聞』(H)
1960年
In Spite of Thunder 『雷鳴の中でも』(F)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます