(1977/ハーバート・ロス監督/シャーリー・マクレーン、アン・バンクロフト、トム・スケリット、レスリー・ブラウン、ミハイル・バリシニコフ)
アン・バンクロフトが亡くなったということで、レンタル店に行ってみた。主役級の作品は「奇跡の人」と「卒業」とコレしかなく、前二作は何度か観ているので、この「愛と喝采の日々」を再見することにした。前回はTVの吹き替えで観たと思う。終盤の二大女優の文字通りの火花散る競演が面白かったが、他はあんまり印象に残ってなかった。
監督はハーバート・ロス。デビュー作「チップス先生さようなら(1969)」で注目された、いわゆる“都会派”の作品が多い人で、元舞台俳優~ダンサー~振付師という経歴の持ち主でもあった。この作品もバレエを扱った話で、上映時間の3分の1以上はバレエの練習や舞台のシーンだったと思う。バレエに興味のない人にはキツイかも知れない。私自身も、ちょっと退(ひ)いてしまった所もある。
脚本と製作(ロスと共同)に関わったのがアーサー・ローレンツ。ローレンツといえば「旅情」の原作者として認知していたが、今回ネットで調べると、「ウエスト・サイド物語(1961)」「追憶(1973)」も彼の作品であり、その他ヒッチコックの「ロープ(1948)」、F・サガン原作の「悲しみよこんにちは(1957)」、バーグマンとユル・ブリンナーが共演した「追想(1956)」の脚本も書いていた。
ストーリーは、シャーリー・マクレーンとトム・スケリットの夫婦が住むオクラホマの街に、アン・バンクロフトの所属するバレエ団が公演に来たところから始まる。
かつて同じバレエ団にいたシャーリーとアンだが、シャーリーは既に退団、結婚して3人の子持ちとなっている。若い頃には、ある演目の主役の座を巡って競い合った事もあるが、その時に、当時の恋人で今はベター・ハーフとなっているトムの赤ん坊を身ごもっていた為、シャーリーは身を退き、主役を射止めたアンの方は、第一線のプリマ・バレリーナとして現役を続けていた。
シャーリーとトムは地元でバレエ教室を運営していて、長女と末っ子の長男もバレエを習っていた。自宅にバレエ団の懐かしい人々を招待して久々の邂逅を喜び合うが、そのパーティーで、シャーリーの長女(レスリー・ブラウン)のバレエの才能に気付いたアンは、入団を勧める。
後日、トムと下の二人の子供たちを残して、シャーリーとレスリーはバレエ団のあるニューヨークへ行くことになるのだが・・。
▼(ネタバレ注意)
一人では不安だからとお母さんがついて行くわけだが、その後はレスリーと男性ダンサー(バリシニコフ)との恋も描かれる。この長女のベッドインの報告はあっけらかんとしていて、聞いたお母さんも『あら、そうなの』みたいな受け答えなので少しあきれてしまう。
娘がバレエや恋に忙しくなってきた為、暇になったお母さんは、古い男友達と一夜を共にしたりする。ここは間接的な描き方だったが、この一件から、娘は母親を少し避けるようになる。
更に、主役をやるようになった娘にアンが衣装をプレゼントしたりするのも、何故か娘を獲られるようでイヤな気分になるシャーリーであった。長女の名付け親はアンであった。
▲(解除)
原題は【THE TURNING POINT】。シャーリーにとっては退団がそうであったが、映画ではアンにも“TURNING POINT=岐路”がやって来る。年齢的に主役ができなくなっていたのだ。
終盤、二人にわだかまっていたシャーリーの退団時にまつわる思いや、現在まで引きずっていた感情が一気に爆発する。女性ならではの感情ではないかと思うが、私にも分かったような分かったつもりにならざるを得ないようなシーンだった。脚本も演出も男性なんだから、もう少し観てみなければいかんですな(反省)。
そして、その時改めて二人の友情が新たな結びつきを見せる。二人の関係の“TURNING POINT=転換点”であった。
バレエについてはよく分からないが、有名なバリシニコフの踊りですから、ご存じの方にはたまらない事でしょう。素人の私も、最後のレスリー・ブラウンの踊りは美しいなあと見惚れました。中盤、二日酔いの彼女がフラフラになりながら踊るところも、ハラハラさせられて面白かったです。
アン・バンクロフトについては、堅実な演技と言えばいいのでしょうか。「卒業」の“ミセス・ロビンソン”の方が、心理描写も複雑で人間くさかったですね。演技のことよりも、彼女が年齢よりも老けた印象になる女性であることに改めて気付きました。「卒業」の時が35、6歳なのに40代の貫禄と色気を出していたように、40代後半のこの作品では、時々もっと年取った感じのシーンがありました。
アンとシャーリーはこの作品で、アカデミー賞の主演女優賞にダブルノミネートされたが、「アニー・ホール」のダイアン・キートンにさらわれた。ロスもこの作品と「グッバイガール」で監督賞にダブルノミネートされたが、コチラも「アニー・ホール」のウディ・アレンにさらわれた。その他、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞(ロバート・サーティース)もノミネートされたが、無冠に終わった。
アンと三つ違いのシャーリーには「愛と追憶の日々(1983)」という紛らわしい邦題の作品があるが、これは彼女のオスカー受賞作でありました。
ビデオ返却前に2度目の鑑賞。たま~にありますな、2度目の方が面白い映画。コレもソレでした。
ラストの二人の中年女性の凝りの晴れる経緯をしっかりと確認したくて観たのですが、それまでの話も落ち着いて見れたせいか、よく錬れた本だなあと改めて感心しました。最後のケンカと仲直りに至る親友同士の心の動きが、よ~く分かりましたです。夫婦、親子、恋人同士の情感も良く出ていました。
バレエのシーンも、今回はそれを見ているシャーリーやアン、そして家族や舞台関係者の気持ちになって見れたので、全然苦にならなかった。
▼(再び、ネタバレです)
NYには、長女だけでなく末っ子の僕ちゃんもついて行ってました。あんまり出てこなかったので、勘違いしてました。
また、長女の性体験の報告については、『あら、そうなの』ではなく、ちゃんとビックリしてましたね。ただ、その後アレコレと詮索するような事はせず、修羅場にはならなかったということです。
“TURNING POINT”について言えば、シャーリーの長女がNYに行く前に<これは、自分にとって今後の人生の分かれ道だからよく考えたい>なんて事を言ってました。確かに、彼女にとっても分岐点だった。
そして、アンについてもバレエの事以外に“TURNING POINT”がありました。未婚の彼女にも家庭のある男性との大人の付き合いがあったようで、NYに帰った後、楽屋に彼が訪ねてくるんだが、それが別れの挨拶になってしまったのだ。
▲(解除)
書き忘れていましたが、シャーリーの旦那さんを演じたトムは「エイリアン」の船長です。今回は、優しい優しいハズバンドを気持ちよさそうにやってます。
アン・バンクロフトが亡くなったということで、レンタル店に行ってみた。主役級の作品は「奇跡の人」と「卒業」とコレしかなく、前二作は何度か観ているので、この「愛と喝采の日々」を再見することにした。前回はTVの吹き替えで観たと思う。終盤の二大女優の文字通りの火花散る競演が面白かったが、他はあんまり印象に残ってなかった。
監督はハーバート・ロス。デビュー作「チップス先生さようなら(1969)」で注目された、いわゆる“都会派”の作品が多い人で、元舞台俳優~ダンサー~振付師という経歴の持ち主でもあった。この作品もバレエを扱った話で、上映時間の3分の1以上はバレエの練習や舞台のシーンだったと思う。バレエに興味のない人にはキツイかも知れない。私自身も、ちょっと退(ひ)いてしまった所もある。
脚本と製作(ロスと共同)に関わったのがアーサー・ローレンツ。ローレンツといえば「旅情」の原作者として認知していたが、今回ネットで調べると、「ウエスト・サイド物語(1961)」「追憶(1973)」も彼の作品であり、その他ヒッチコックの「ロープ(1948)」、F・サガン原作の「悲しみよこんにちは(1957)」、バーグマンとユル・ブリンナーが共演した「追想(1956)」の脚本も書いていた。
ストーリーは、シャーリー・マクレーンとトム・スケリットの夫婦が住むオクラホマの街に、アン・バンクロフトの所属するバレエ団が公演に来たところから始まる。
かつて同じバレエ団にいたシャーリーとアンだが、シャーリーは既に退団、結婚して3人の子持ちとなっている。若い頃には、ある演目の主役の座を巡って競い合った事もあるが、その時に、当時の恋人で今はベター・ハーフとなっているトムの赤ん坊を身ごもっていた為、シャーリーは身を退き、主役を射止めたアンの方は、第一線のプリマ・バレリーナとして現役を続けていた。
シャーリーとトムは地元でバレエ教室を運営していて、長女と末っ子の長男もバレエを習っていた。自宅にバレエ団の懐かしい人々を招待して久々の邂逅を喜び合うが、そのパーティーで、シャーリーの長女(レスリー・ブラウン)のバレエの才能に気付いたアンは、入団を勧める。
後日、トムと下の二人の子供たちを残して、シャーリーとレスリーはバレエ団のあるニューヨークへ行くことになるのだが・・。
▼(ネタバレ注意)
一人では不安だからとお母さんがついて行くわけだが、その後はレスリーと男性ダンサー(バリシニコフ)との恋も描かれる。この長女のベッドインの報告はあっけらかんとしていて、聞いたお母さんも『あら、そうなの』みたいな受け答えなので少しあきれてしまう。
娘がバレエや恋に忙しくなってきた為、暇になったお母さんは、古い男友達と一夜を共にしたりする。ここは間接的な描き方だったが、この一件から、娘は母親を少し避けるようになる。
更に、主役をやるようになった娘にアンが衣装をプレゼントしたりするのも、何故か娘を獲られるようでイヤな気分になるシャーリーであった。長女の名付け親はアンであった。
▲(解除)
原題は【THE TURNING POINT】。シャーリーにとっては退団がそうであったが、映画ではアンにも“TURNING POINT=岐路”がやって来る。年齢的に主役ができなくなっていたのだ。
終盤、二人にわだかまっていたシャーリーの退団時にまつわる思いや、現在まで引きずっていた感情が一気に爆発する。女性ならではの感情ではないかと思うが、私にも分かったような分かったつもりにならざるを得ないようなシーンだった。脚本も演出も男性なんだから、もう少し観てみなければいかんですな(反省)。
そして、その時改めて二人の友情が新たな結びつきを見せる。二人の関係の“TURNING POINT=転換点”であった。
バレエについてはよく分からないが、有名なバリシニコフの踊りですから、ご存じの方にはたまらない事でしょう。素人の私も、最後のレスリー・ブラウンの踊りは美しいなあと見惚れました。中盤、二日酔いの彼女がフラフラになりながら踊るところも、ハラハラさせられて面白かったです。
アン・バンクロフトについては、堅実な演技と言えばいいのでしょうか。「卒業」の“ミセス・ロビンソン”の方が、心理描写も複雑で人間くさかったですね。演技のことよりも、彼女が年齢よりも老けた印象になる女性であることに改めて気付きました。「卒業」の時が35、6歳なのに40代の貫禄と色気を出していたように、40代後半のこの作品では、時々もっと年取った感じのシーンがありました。
アンとシャーリーはこの作品で、アカデミー賞の主演女優賞にダブルノミネートされたが、「アニー・ホール」のダイアン・キートンにさらわれた。ロスもこの作品と「グッバイガール」で監督賞にダブルノミネートされたが、コチラも「アニー・ホール」のウディ・アレンにさらわれた。その他、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞(ロバート・サーティース)もノミネートされたが、無冠に終わった。
アンと三つ違いのシャーリーには「愛と追憶の日々(1983)」という紛らわしい邦題の作品があるが、これは彼女のオスカー受賞作でありました。
ビデオ返却前に2度目の鑑賞。たま~にありますな、2度目の方が面白い映画。コレもソレでした。
ラストの二人の中年女性の凝りの晴れる経緯をしっかりと確認したくて観たのですが、それまでの話も落ち着いて見れたせいか、よく錬れた本だなあと改めて感心しました。最後のケンカと仲直りに至る親友同士の心の動きが、よ~く分かりましたです。夫婦、親子、恋人同士の情感も良く出ていました。
バレエのシーンも、今回はそれを見ているシャーリーやアン、そして家族や舞台関係者の気持ちになって見れたので、全然苦にならなかった。
▼(再び、ネタバレです)
NYには、長女だけでなく末っ子の僕ちゃんもついて行ってました。あんまり出てこなかったので、勘違いしてました。
また、長女の性体験の報告については、『あら、そうなの』ではなく、ちゃんとビックリしてましたね。ただ、その後アレコレと詮索するような事はせず、修羅場にはならなかったということです。
“TURNING POINT”について言えば、シャーリーの長女がNYに行く前に<これは、自分にとって今後の人生の分かれ道だからよく考えたい>なんて事を言ってました。確かに、彼女にとっても分岐点だった。
そして、アンについてもバレエの事以外に“TURNING POINT”がありました。未婚の彼女にも家庭のある男性との大人の付き合いがあったようで、NYに帰った後、楽屋に彼が訪ねてくるんだが、それが別れの挨拶になってしまったのだ。
▲(解除)
書き忘れていましたが、シャーリーの旦那さんを演じたトムは「エイリアン」の船長です。今回は、優しい優しいハズバンドを気持ちよさそうにやってます。
[追記:06.14 Mon]
・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて、バレーファンなら】
>「アニー・ホール」
もう3、4回観てますけど、いつもちっとも面白くなくて・・。
僕も「愛と喝采の日々」に1票ですね。
>「愛と追憶の日々」
そう、同じくシャーリー主演で紛らわしい邦題なのでした。
思うに、「愛とXXの~」というタイトルは本作から増えたのではないでしょうか。
「愛と哀しみのボレロ」「愛と哀しみの果て」「愛と栄光への日々」「愛と宿命の泉」「愛と青春の旅立ち」・・・80年代の有名な作品だけでこれだけあります。
タイトルに重きを置かない西洋人と違って、日本人は一つ流行ると似た邦題を考え出すという悪い癖(?)がありますよね。
十年くらい「君」「僕」が凄かった。やっと落ち着いてきました(笑)。
>末っ子の僕ちゃん
そうそう。
彼もバレエ・ダンサー志願ですからね。それで妹娘は全く興味がないの(笑)。
>『あら、そうなの』
当時の日本人ほどは騒がなかったというところでしょうね。
>「アニー・ホール」
アメリカでは相当高く買われていましたからねえ。NY批評家賞なんかも総なめだった。僕はアレンの中ではそれより後の作品の方が好きだから、それならロスに栄冠を与えてほしかったなあ、と思います。