テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

スティング

2006-01-08 | サスペンス・ミステリー
(1973/ジョージ・ロイ・ヒル監督/ロバート・レッドフォード、ポール・ニューマン、ロバート・ショウ、チャールズ・ダーニング、アイリーン・ブレナン、レイ・ウォルストン/129分)


 「明日に向って撃て!」でファンになったジョージ・ロイ・ヒル監督が、またもP・ニューマンとレッドフォードを使って、今度は30年代のアウトローを描くというので当時話題になり、ワクワクして待った作品だ。映画雑誌の予告記事に出ていたレッドフォードは、ストライプ柄のスーツにハンチング帽を少し斜に被り、なんと格好良かったことか!
 レッドフォードはこの後、「華麗なるギャツビー(1974)」「華麗なるヒコーキ野郎(1975)」と、似たような年代の映画に出てレトロ・ブームらしきモノを起こしたような記憶がある・・・多分。

 原題の“STING”とは『苦しめる、傷つける』という意味で、『だます、引っかける』という意味もあると当時の映画雑誌の解説にはあった。周到に練られた脚本(デヴィッド・S・ウォード)は、二重三重に観客を騙し、少なくとも2回は観たくなる映画です。但し、この騙しには1点だけ気に入らない所があって、今回数十年ぶりにその辺をもう一度確認しましたが、やっぱり気になりました。これは後ほど【ネタバレ注意】の中で書くことにします。

*

 1936年のイリノイ州。大恐慌後のゴタゴタから抜け出ていないシカゴの下町で、ジョニー・フッカー(レッドフォード)は、二人の仲間と詐欺をやって暮らしていた。その日も“すり替え”をやって手に入れたお金は1万ドルを超える大金。フッカーは有頂天になりルーレットで大方擦ってしまうが、これを機会に引退するという仲間の一人、黒人のルーサーは何者かに殺されてしまう。
 昼間若い男を騙して手に入れたお金、実はそれはNY裏社会の大物ドイル・ロネガン(ショー)配下のシカゴの組織が、ナンバーズで稼いだ売上金だったのだ。ルーサーを殺したのもロネガンが差し向けた殺し屋で、フッカーも命辛々町を抜け出す。フッカーは、ルーサーが亡くなる前に教えてくれた大物賭博師ヘンリー・ゴンドーフ(ニューマン)を訪ねていくことにした。

 ゴンドーフは、遊技場などを経営する情婦(ブレナン)の元で、失敗した大仕事の後のほとぼりをさましていた。彼はルーサーから事前にフッカーのことは聞いていた。その後のルーサーの事件も新聞で知っており、フッカーと共にルーサーの弔い合戦を誓う。
 初めてあった時は二日酔いの冴えないオッサンだったが、ロネガン潰しの作戦準備を始める頃には、キリッとしまったオヤジになったゴンドーフ。フッカーにスーツを新調してやり、更にはルーサーの復讐に賛同した大勢の仲間を集める。ロネガンについて慎重に調べ、今回は“有線(wire)”を使うことにした。
 “有線”とは、有線放送を使った場外馬券売場を舞台にした大仕掛けの詐欺。まずはその前にフッカーとゴンドーフは、NYからシカゴに来る途中の列車で、賭けポーカーをするというロネガンを軽く“仕掛ける(hook)”のだった。(続きはビデオでどうぞ)

 カモにされるロネガンと刑事以外の人間は、全て何かしら劇中劇のような設定の人ばかりの話で、何回観ても何処から何処までが映画の演技なのか、劇中劇の演技なのか分からないシーンもある。役者さんって、こういう役は面白くてたまらんでしょうなぁ。ま、真剣に見たってどうとでもとれる部分もあり、騙されるままに騙される、そんな気分で観るのが一番でしょう。

 二重三重になっているのは“騙し”だけではなくて、スリリングな展開の設定にもソレは見られる。フッカーはいつもロネガンの殺し屋に狙われているし、詐欺師の売上をピンハネしようとしている刑事に偽札を掴ませたので刑事にも追われている。更に、ロネガン騙しの計画は『フッカーに殺し屋が迫ってきたら中止だ。』とゴンドーフが言っていたので、止めたくないフッカーは殺し屋や刑事の件をゴンドーフには言わない。ロネガン騙しの重要な役であるフッカーが怪我でもしたら当然中止だ。
 この映画の成功の最大の要因はこの脚本にあるけど、それを映像化した監督の手腕もオスカーにふさわしいものでしたな。

 レトロムード一杯の街並やファッション、スコット・ジョプリンが弾くラグピアノ『The Entertainer』。そして、騙したり騙されたり、殺し屋も出てくるスリリングな展開に、ニヤっとしてしまいそうになる洒落た会話。お色気は稀薄ですが、楽しい楽しい正に娯楽映画の傑作であります。

▼(ネタバレ注意)
 これから先は本当に最期のお楽しみとなるネタをばらすことになるので、未見の方は飛ばして下さいね。

 数十年前に観た時も、『ン?アレッ?』と思ったのが、終盤のFBIが絡むシーン。
 FBIはゴンドーフを現行犯で逮捕しようと、フッカーにロネガンの件の詐欺の実行日を聞こうとする。詐欺は現行犯でないと捕まえられないからだ。フッカーはシラを切ろうとするが、ルーサーの未亡人まで巻き込もうというFBIの脅迫に負けて、ロネガン騙しを妨げないのを条件に、実行日時を連絡することを約束する。
 FBIは実は偽物でゴンドーフの仲間。これはフッカーを追いかけている刑事(ダーニング)を欺き、更にはロネガンを最後に閉め出す為の策略なんだが、映画ではその事は最後まで明かさない。
 映画では、FBIがゴンドーフを捕まえようとしていることを彼に言えないフッカーが、詰めの決行日の前夜、悩んでいるように描いている。つまり、FBIが本物であるとフッカーが思っているように描いているのだ。しかしながら、最後はフッカーは偽のFBIを知っていたようになっている。
 という事は、あの前夜のフッカーの無口になった訳はFBIの事では無かったということになる。ここが、昔も今回もどう捉えて良いか分からないシーンなんですよ。
 フッカーは、途中からFBIが偽物だと分かったと解釈することもできるんですが・・・ちょっと、曖昧ですな。

 フッカーを追っている殺し屋の件。これは騙されても文句は言いませんが、あれも2回目以降は殺し屋の頭の中をアレコレ考えながら観てしまうシーンですな。
▲(解除)

 本作は1973年のアカデミー賞で、作品賞監督賞脚本賞衣裳デザイン賞(エディス・ヘッド)など7部門を受賞していて、主演男優賞(レッドフォード)、撮影賞(ロバート・サーティース)にもノミネートされた。
 映画サイトでは、レッドフォ-ドよりニューマンの渋さを褒め称える文章をよく見かけます。私は、封切時はレッドフォードの溌剌とした演技の方が気に入ってましたが、今回は(年のせいでしょうか)ニューマンの方が好きになりましたな。

 さて、これはカテゴリーが迷う作品です。「allcinema online」で<コメディ、犯罪>となっていますが、結構ハラハラするのでサスペンスにしましょうか。

 尚、83年に「スティング2」というのが作られていて、脚本のS・ウォード以外は全て違うスタッフ、キャストの映画とのこと。ビデオでしか見れない映画ですが、割と面白いらしいです。

・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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16 コメント

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ちょうどタイミング! (anupam)
2006-01-10 23:27:15
ちょうどもう1度見ようと思っていた矢先にアップされましたな~いつも何だってこんな風にタイミングいいんですかね~~



面白いな~



粋な映画とはこのことですね。ポスターも大好きでした!
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まいど~ (十瑠)
2006-01-11 07:43:03
手品のようなカード捌き。その手元を写していたカメラをそのまま上へパンさせると、ポール・ニューマンだった。

ありゃ、どうやったんでしょうかねえ。

やっぱ、練習したんでしょうねぇ。



anupamさん、記事待ってま~す。
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TB&コメントありがとうございました (micchii)
2006-01-28 13:16:51
この脚本はほんとに見事でしたよね。

ご指摘のFBIのくだりは、自分は、途中から気づいたと思っていましたが、言われてみれば確かにいまいち微妙ですね。



『テキサスの五人の仲間』、双葉さんの例の500本で存在を知ってからずっと気になっていて、でもたぶんレンタルされてませんよね。

それで、先日ついにBSで放送されたのに、録画忘れました(泣)果たしていつ観れることやら・・・。

ということで、十瑠さんの記事も観るまでは読まないようにしています。

お薦め映画、次は「衝撃のラスト!」を募集しますので、『テキサスの五人の仲間』も投稿に加えさせていただきますね。

最後に、勝手ながらお気に入りブログのリストに追加させていただきました。宜しくお願い致します。
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いらっしゃいませ (十瑠)
2006-01-28 16:53:22
FBIの件、私の独りよがりかと思ってましたが、御納得しただき安心しました。

「テキサス・・・」は以前は吹き替え版で観たと思います。おもろいです。
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ロイ・ヒル監督の狙い (ボブ)
2006-05-08 11:06:34
フッカーがFBIを偽者と知っていたのは、決戦当日に歯に偽血液の詰め物をしているところでもあきらかです。前夜に悩んでいたように見えるのは、ジョージ・ロイ・ヒル監督が観客にフッカーがゴンドーフを売る、ということで悩んでいたと思わせるのがラストに繋がる伏線のひとつであるのと同時に、実際は本当にこれ以上はないかもしれない大仕事をやる前の緊張感の中での苦悩を描いていたのだと思わせることが狙いだったと思いますね。フッカーは今までの自分の生き様、はたまたルーサーの仇をとったあとのこれからの生き方に苦悩をしていたのだとうことなのでしょう。今まで仕事の取り分はしっかりと取ってきたフッカーが最後の大仕事をやり終えたあと、何も取らないで去っていくシーンがその象徴のように思えます。
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注:ネタバレなので、未見の方は読まないでね! (十瑠)
2006-05-08 13:40:41
>フッカーがFBIを偽者と知っていたのは、決戦当日に歯に偽血液の詰め物をしているところでもあきらかです。



それは、誰の目にもあきらかです。



>観客にフッカーがゴンドーフを売る、ということで悩んでいたと思わせる



これは、監督の思惑通りでしょう。



>実際は本当にこれ以上はないかもしれない大仕事をやる前の緊張感の中での苦悩を描いていたのだと思わせることが狙いだった・・・



これはボブさんの推測ですよね。



ま、この辺は勝手に想像するしかないんですが、私は、そういう所が気に入らないと言っているわけですよ。
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ジョージ・ロイ・ヒル (ボブ)
2006-05-12 18:55:56
ジョージ・ロイ・ヒル監督の映画には共通する描写や進め方があり、これを良しとするか否かは好みの問題だろうと思います。十瑠さんがおっしゃるように、見る方によって気にいらなければそれは仕方ないことですね。私は全てひっくるめてよく出来た映画だと感心しています。では。
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再度、ネタバレ注意です (十瑠)
2006-05-13 21:05:23
ボブさん。コメントありがとうございます。



本記事中に書いていますように、この映画は大好きでありますし、気になっている1点だけでそれが変わるものではありません。好きだからこそ、気になっているわけです。

殺し屋の方は最後で種明かしがされているだけに、どうしてこのFBIの件は放置しているのか・・・。フッカーはいつFBIについて気が付いたのか・・・。



昔は、最初から知っていたんだとも考えられると思ってました。ロイ=ヒル監督は、わざと曖昧にして観客の想像に任せておこうとしたのじゃないかと。

どこかにコレの種明かしは残してないんですかねぇ。
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観る度に騙されてしまいます… (ぶーすか)
2006-11-10 20:37:30
「スティング2」があるとは知りませんでした。どんな作品か気になりますねー!
P・ニューマンとレッドフォード、私はやはりP・ニューマンの方に傾いてしまいます。深みのあるオヤジですねー。
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こちらは、ニューマン (十瑠)
2006-11-10 21:03:55
今年初めに、満を持して観直した記事でした。
コチラは、封切時と違って、ニューマンの方が気になって観てました。

見終わると、さてこの後騙されたことに気付いたロネガンから、彼らは逃げおおせるのか、なんて事も気になりましたね。

2は未だに観てませんです。
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嵐の前の静けさ (宵乃)
2011-06-14 14:28:20
という感じの前夜の描写はお気に入りだったんですけど、確かに言われてみればFBIの件は曖昧ですね~。というか、流れを頭の中で組み立てようとしても、いまだにわかってないところが細々あるかも・・・。
次に観る機会があったら、今度こそ頭フル回転で観たいと思います。

騙されて気持い良い映画といえばこれですけど、騙したほうはもっと気持ちよかったんでしょうね♪
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何度観ても (十瑠)
2011-06-14 16:07:40
面白いので、先日の放送の前後に録画していたDVDを再鑑賞しました。
FBIの件は考えないようにし、まさに「嵐の前の静けさ」、苦悩するフッカー、という監督の狙いを素直に受け止めて観ていました。
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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2015-12-26 11:37:41
エイプリル・フールに記事にするのに良い作品かもしれませんねえ。

>FBI
ボブさんとのやり取りでは、十瑠さんの大人の対応はさすがです。

人は、好きな作品に対しては、「あばたもえくぼ」状態になってしまいがちですが、好きだからこそ欠点が気になるというスタンスが素晴らしい。

当方の記事に書いたように、恐らくどこかでレッドフォードが気付いたか、誰かに教えられたのでしょうが、本編中説明がないため、観客が想像するしかない部分でしたよね。
 昨今の作品なら、事後にフラッシュバックで説明するでしょうが、そうすると現状の本作が持っている切れ味がなくなってしまいかねないという問題が出て、なかなか上手く行きません。

しかし、辻褄が合わないという程とも思えず、やはり楽しいと言うしかない作品でしたね。
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ボブさんのコメントは (十瑠)
2015-12-26 16:22:23
思いっきりネタバレだったので、削除することも考えたやに記憶しております。
今となっては、僕の疑問を詳しく説明するのにちょうど良かったです。

>事後にフラッシュバックで説明する

成程。そういう風になりそうですね。
やっぱ、殺し屋のサラッとしたネタ晴らしみたいなのがいいですねぇ
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Unknown (まっきー)
2021-08-24 01:05:56
十瑠さま、はじめまして。
BSとCSにてたまたまロバート.レッドフォード出演作を続けて見る機会があり、突如レッドフォード祭り開催中のなか、こちらのブログにたどり着きました。
(アクターズ・スタジオのインタビュー記事、じっくり読ませていただきました!ありがとうございます)

さて、私も何十回と観ている大好きな本作「スティング」ですが、十瑠さまはじめ皆さまの感想が楽しいですね。
で、私の解釈なのですが、FBIのシークェンスは全て執拗にフッカーを追うスナイダー刑事を排除するためだけに追加されたモノ。

映画の流れだと、最終章の一つ前【The Shut Out】にてフッカーがマンホールに逃げ込み殺し屋をかわし、なんとか下宿に戻るとスナイダーに捕まるという流れなので、「いつの間に???」的な解釈が生まれてしまいがちですが(製作スタッフ的には狙い通り!)、実はゴンドーフが「刑事をなんとかしないとな」と口にするのは二つ前の章【The Tale】のラストなので、追加シナリオに対する打ち合わせ時間は十分にあったと思われる。

つまり、スナイダーに〈FBIポーク特別捜査官からゴンドーフ逮捕の手伝いを依頼され、渋々了承するフッカーを見せる〉のが目的なので、下宿のドア前で彼に捕まるところからフッカーは演技していたと考えるのが、シンプルで自然なのではないでしょうか?
(しかしながら、スナイダーひとりを排除するために、【The Wire】の章からポークはじめカンカン帽の手下たち、FBIセットにはデスクはもちろん地図や無線機器など揃える抜かりなさが素晴らしい!)

粋で素敵なシーンしかない映画ですが、私が一番すきなのは、フッカーが護衛に守られ無事ゴンドーフの元に戻って来た際の、表情だけで会話するシーン。ニューマンもレッドフォードも最高にいい表情をしていると思います!

来月末にはBSプレミアムにて放送予定の「スティング」。たくさんの方がコンゲーム映画の最高峰に触れる機会があるといいなぁと思います。
長々とお邪魔いたしました。
返信する
まっきーさん (十瑠)
2021-08-26 11:49:19
コメントありがとうございます。
大好きな映画ですが、流石に細かいところまでは覚えていませんし、再見する時間も無くてお答えできません。
あしからず。

>アクターズ・スタジオのインタビュー記事、じっくり読ませていただきました!

自分でも驚くくらい、スラスラと書けて、知らない内に3頁にもなった記事です。喜んでいただけたようで嬉しいです。
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