テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

安城家の舞踏會

2016-02-13 | ドラマ
(1947/吉村公三郎 監督/原節子、滝沢修、森雅之、逢初夢子、神田隆、津島恵子、清水将夫、殿山泰司、空あけみ/89分)


 だいぶ昔の話ですが、来日したウィリアム・ワイラーを取材した淀川長治さんにワイラーはこう聞いたそうな。『ミスター・ヨシムラは元気にやっているか?』
 ヨシムラとはこの映画の監督、吉村公三郎のことで、吉村は1911年生まれだからワイラーより九つ程若いが、ワイラーが一目置いていたんだろうと思ったし、この淀川さんの思い出話で初めて名前を覚えたのでした。レンタルにもなかなか見かけなかったけれど、今回数十年越しに念願の代表作の一つを観ることができました。主演の原節子さんの追悼鑑賞でもあります。

*

 昭和22年の新憲法により華族制度が廃止され、それまでの借金のかたに屋敷を手放さざるを得なくなった名門華族、安城家の人々の悲哀を描いた作品です。吉村監督の原作小説があるようですが、脚本を書いた新藤兼人は<チェーホフの『桜の園』をベースに執筆した>らしいです。
 主演の滝沢修は演劇界の重鎮ですから「桜の園」もやっていたでしょうし、この映画も入りやすかったでしょうね。

 さて、その滝沢は安城家の当主忠彦の役。
 執事のように働いている殿山泰司が『殿様』と声を掛けていますから、いわゆる大名華族だったのでしょう。絵画が趣味でパリに留学の経験もある。
 しかし、華族廃止のショックは隠せず、屋敷に付いている抵当権の債権者にもかつての関係を慮って貰いたいと虫のいい考えしか持てない男であります。

 その債権者が新川というヤミ会社の社長で、演じるのは清水将夫。滝沢と同じ劇団民芸の主要メンバーですね。

 安城家には三人の子供がいて、と言ってももう皆立派な成人ですが、長男正彦には森雅之、長女の昭子が逢初夢子、そして一家の行く末を案じて表に裏に回って遣り繰りしている次女の敦子が原節子です。

 オープニングが居間に集まっている一家が最後の思い出にと舞踏会を開こうかと相談しているシーンで、昭子はもう一度華やかな夢を見たいと言っているけど、敦子はそんな思い出はこれからの人生に何の役にも立たないと一人反対している。
 忠彦は弟(つまり敦子たちの叔父)に債権者に掛け合ってもらっていてもうすぐ“良い結果”がもたらされると思っているが、敦子はかつて屋敷お抱えの運転手をしていた遠山が今は運送会社を起こして成功しているので彼に相談しようと言っている。

 遠山を演じているのが神田隆。
 実は遠山は長女の昭子に恋心を持っていて、彼女がかつて結婚して家を出た時にいたたまれずに退職したのでした。その後、昭子が離縁して出戻った後、何かと顔を出すようになり、昭子は疎ましく思っている。

 冒頭のシーンではその遠山も訪ねて来て敦子の依頼である借金の返済を肩代わりして屋敷を買いとることを忠彦に話すんですが、忠彦はかつての使用人に馬鹿にされたと思い、遠山は出直すことになる。

 さて長男の正彦はというと、敦子の心配を余所にのらりくらりと生きている男で、どこまで覚悟があるのかは分からないが、働いて生きていく事だって自分にも出来るだろうと思っているらしい。さらに正彦は新川の娘と仮婚約のような間柄にも関わらず屋敷の小間使い菊(空あけみ)とも肉体関係があり、菊は菊で正彦が自分を捨ててしまいそうで気になっている。

 と、こんな具合に序盤から人間関係がスリリングに語られて大いに期待が高まる映画でありました。

 中盤からいよいよ舞踏会が始まり、序盤で示された人間関係の行く先が徐々に明らかになっていくんですね。但し、後半に入ってシーンの繋がりが編集的にぎくしゃくした感じになるし、上手く収束されたようには見えないエピソードもあり、残念でした。
 僕の時代感覚が不足しているのもあるでしょうけどね。
 そんなわけで、お勧め度は前半が★四つから五つ、後半が★二つから三つくらいか。

 古い作品故、youtubeでも全編(↓)観れるようです。

 それにしても、舞踏会の客人達は皆さん貴族という設定でしょうが、佇まいがどうも・・・(全然セレブに見えないんですけど)。






・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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2 コメント

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風刺劇として観ました (宵乃)
2016-02-14 12:00:15
安城家の人々がけっこう滑稽に描かれてましたよね。当時の庶民たちは、華族の没落をいい気味だと思って観ていたのかなぁと思ったりしました。
後半のぎくしゃく感は覚えてませんが、ラストのダンスはとても印象に残ってます。
原節子さんと滝沢修さんのステップが本当に美しかったですね~。
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宵乃さん (十瑠)
2016-02-14 14:14:50
う~ン。
今の人たちから見れば確かに滑稽に見えるけど、作り手はどちらかというと悲劇的に描いているように僕には見えましたネ。
悲劇は喜劇に通じるのでウディ・アレンならしっかりとコメディにできたでしょうけど、脚本が新藤兼人ですし、コメディとしての面白さは無かったような。個人的にはそこが物足りない所であり、或いは僕の時代感覚が不足しているのかなぁと思ったところです。

>ラストのダンスはとても印象に残ってます。

終盤は大仰な展開が多くて、このダンスシーンも勿体ぶった風に感じてしまって眠くなってしまいました。
宵乃さんのように感じるのが正解なんでしょうけど。
日を改めて観ると違うかも。
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