テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ジャッカルの日

2015-04-29 | サスペンス・ミステリー
(1973/フレッド・ジンネマン監督/エドワード・フォックス、ミシェル・ロンズデール、デルフィーヌ・セイリグ、オルガ・ジョルジュ=ピコ、ミシェル・オークレール/142分)


 基本的に今ブログに載っける映画は★★★以上を期待して選んでいるわけですが、今回は満点を狙って再見映画を数十年ぶりに観ました。1973年といえば「スティング」や「ペーパー・ムーン」、「アメリカの夜」、「エクソシスト」・・などなど。そして「ジャッカルの日」。実に傑作揃いでありますなぁ。

*

 1962年8月。アルジェリアの独立を認めた、時の仏大統領ド・ゴールに反撥した右翼過激派連合は暗殺を企てるが失敗。首謀者の元軍人は捕まり死刑を執行される。オーストリアに逃げ延びた残党はド・ゴール暗殺を外国人のプロの殺し屋に依頼することにした。殺し屋の暗号名は「ジャッカル」。
 銀行強盗を繰り返しながらも、一向に目立ったテロ行為に移らない残党の幹部連中に不審なものを感じた官憲は、残党の一人を捕まえて拷問の末にプロを使った暗殺計画の存在を知る。殺し屋とは誰か? またその暗殺の決行日は・・・?【原題:THE DAY OF THE JACKAL】

 当時大ベストセラーとなったフレデリック・フォーサイスのスリラー小説が原作で、現実にはド・ゴールは暗殺されていないのでジャッカルの計画は失敗するに決まっているんですが、それでも2時間20分を飽きさせないサスペンスでした。

 沈着冷静な殺し屋ジャッカルを演じたのは英国俳優のエドワード・フォックス。芸能一家の出ですが、まだそれ程有名とは言えず、その事が却って不気味なスナイパーの印象を与えていましたね。
 計画も実行もすべて一人でやるというジャッカル。フォックスのクールで端正な顔立ちがストイックな殺し屋にお似合い。図書館に籠もり過去の新聞記事からド・ゴールの動きを分析したり、使用する武器について設計してその道の裏稼業の職人に製作を依頼する。そして偽旅券や偽パスポートも二重、三重の予備策を揃える。資金の受け取りはスイスの銀行、偽造書類や武器の調達はイタリアのプロに。前半はそんなジャッカルの用意周到な事前準備が丁寧に描かれていて、初見の人には何のことやら分からない部分もあると思いますが、そういう意味でも二度美味しい(もう一度観たくなる)映画ではないかと思いますね。
 特注した銃の試し撃ちのシーンは初見時から印象深かったんですが、ブルース・ウィリスでリメイクした「ジャッカル (1997)」もこのシーンだけは記憶に残ってますね。

 一方、フランス警察でジャッカル担当を命じられたのがルベル警視。扮したのは「黒衣の花嫁 (1968)」などのミシェル・ロンズデール。そういえばアイヴォリーの「日の名残り (1993)」にも出演しているようで、アレではエドワード・フォックスの弟ジェームズと共演していたんですねぇ。
 一見冴えない風貌のルベルですが、その自信無さげな表情に反してやることはきっちりやるというのが段々と観客に分かってくるのがよろしいです。国籍も判らない殺し屋を探すために関連国の捜査陣と連絡を取りつつ、捜査の進展状況を内務大臣及び側近との会議につぶさに報告する。ジャッカルの動きが見え始めてからは、自らも最前線に赴く。ジャッカルと一夜を過ごしたマダムを尋問する時は笑わない刑事コロンボみたいでした。

 さて、脚本はそんなジャッカルの動きとフランス政府を含めた捜査陣の状況を交互に見せるスタイルで、それらのエピソードの積み重ねでジワジワとサスペンスを盛り上げておりました。特に面白いのは終盤。8月25日のパリ解放記念日の式典で大統領がパレードに出席する時がジャッカルの狙いだと読んだ捜査当局は厳重な警備を準備するんですが、沿道に街の人々が集まって来るショットや四方の建物の窓から見物しているショット、警備陣の緊迫した様子のショットの編集が、まさにドキュメンタリーフィルムのよう。それが結構長く続くにも関わらずジャッカルは一向に姿を見せない。まだかまだかと観客が思っているところに意外な格好でジャッカルが登場するんですね。このじれったいけれども、彼奴が出てくるまでは決して待つのを諦めないぞと思わせる間の巧さ。この映画の優秀場面の一つじゃないでしょうかね。
 1973年のアカデミー賞では編集賞(Ralph Kemplen)にノミネートされたそうです。





 その他の出演陣では、ジャッカルに都合よく利用される資産家マダムを演じたデルフィーヌ・セイリグ(↑)と、冒頭で銃殺刑に処せられる右翼連合のトップの元婚約者ドニーズを演じたオルガ・ジョルジュ=ピコが印象的でした。
 ドニーズは大統領官邸の役人に色香を使って接触、ジャッカル捜査の進展具合を聞き出す役目でした。女スパイですな。この時代の映画は俳優でも女優でもすぐにスッポンポンにさせられますが、オルガさんも大胆でした。

 英国アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞(ケネス・ロス)、助演男優賞(ロンズデール)、助演女優賞(セイリグ)にノミネート、編集賞を受賞したそうです。
 尚、フランス人やイギリス人、イタリア人にデンマーク人も出てくる映画ですが、どなたも英語をおしゃべりになっています。ま、しゃあないかな。





・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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4 コメント

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vivajijiさん (十瑠)
2015-04-30 16:13:19
まずは御嬢さんのご結婚おめでとうございます♪
が、そちらのコメントは後ほどという事で。

>軟派の「針の眼」

ケン・フォレット原作。
随分前から宿題となっていますが、軟派でしたか。

>女性絡みシーン忘却の彼方

デルフィーヌさん忘れていましたが、登場した時にさーっと顛末までほぼ思い出しました。
何が何でも画像を残そうと思いましたです
返信する
宵乃さん (十瑠)
2015-04-30 16:05:49
>ウィリス版ではジャック・ブラックとかぼちゃでしたっけ。

記憶に残っていると書きながら詳細はボーっとしてまして、なんかパソコンも使ったりして残虐なシーンだった印象が。

>殺し屋といったらゴルゴ13かジャッカルですよね(笑)

あとリー・マーヴィンとかジャック・パランスとか・・・あっ、これは俳優か?!(笑)
返信する
硬派の本作。 (vivajiji)
2015-04-30 15:50:52
軟派の「針の眼」(81年)。^^;

本作はひたすら冷徹なE・フォックスと
老練刑事ロンズデールしか覚えて
いなくて女性絡みシーン忘却の彼方、
しかし、名作であります。

小品ですが「針の眼」は、人妻を演じたケイト・
ネリガンがあのサザーランドを完全に食って
おります。機会がございましたら、ぜひ。
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Unknown (宵乃)
2015-04-30 13:50:47
初見がTVカット版だったのもあって、再見でも楽しめた作品でした。
ストイックで警察の手をするりと逃れていくサマは痺れますよね。自分で銃を設計するところや、スイカで試し撃ちのくだりも、これが殺し屋というものだ!という感じで。
ウィリス版ではジャック・ブラックとかぼちゃでしたっけ。こっちを先に見たので私もこのシーンは印象に残ってます。
殺し屋といったらゴルゴ13かジャッカルですよね(笑)
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