(2001/ダニス・タノヴィッチ監督/ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ)
ビデオジャケットに印刷された『2001年度アカデミー外国語映画賞受賞』、ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦の話という紹介文に惹かれて見てみた。これは、非常によくできた反戦映画の秀作です。
ボスニアの小隊が夜のうちに前線に移動していくが、セルビア陣地に近づきすぎ、夜が明けると同時に発見され一斉射撃を受ける。ほとんどの兵士が殺される中、チキは辛うじて両陣営の中間地帯にある塹壕の中に逃げ込む。
この中間地帯には人間がいないので"ノー・マンズ・ランド"なのだ。
セルビア軍は先程の銃撃の結果を確認するために二人の兵士を塹壕に向かわせる。新兵のニノとベテラン兵士。塹壕に着いたベテラン兵士は、ボスニア人の死体に地雷を仕掛ける。ジャンピング型と名付けられたそれは、死体の下にセットし、死体を持ち上げると爆発するという仕掛け。チキは銃を持って隠れていたが、発見されそうになり逆に二人に発砲する。老兵士は死に、ニノは負傷する。俯瞰でみればニノが有利なのだが、塹壕の中ではチキが制圧権を握っている。更に、地雷を仕掛けられていたボスニア兵、その死体と思われていた"モノ"が実は生きていて目を覚ましてしまうから状況は複雑になる。
地雷源となっていない二人のボスニア人とセルビア人は、その時々で攻勢に廻ったり守勢に廻ったりしながら、また、仲良くなるかと思えば反目して、銃を撃ったりナイフを振りかざしたりする。地雷源になってしまった男は、意識はハッキリしているものの身体を動かすことが出来ず、生理現象の処置にも窮する。この辺りのシチュエーションが、見ようによっては面白可笑しい。ブラック・コメディであり戦争映画なのだ。
1993年の話で、すでに国連軍が駐留しており、ボスニア、ゼルビア両軍の要請を受けて、"ノー・マンズ・ランド"の偵察に行こうとする。この国連軍の描き方も、皮肉っぽい。偵察の先頭に立っているフランス軍人のように、真剣にPKO活動をしようとする者がいれば、事なかれ主義に徹して、面倒なことから逃げようとする上官もいる。この国連軍の上官は、クリントンを意識して描かれたのだろうか、妙に色っぽい秘書が付いていたりいる。
湾岸戦争以後なので、各国のマスコミも国連軍を追って取材にくる。最前線の情報を得ようとする辣腕女性ジャーナリストのねばり強い交渉のなかで、先の国連軍上官のいい加減さが浮かんでくるが、このジャーナリストの上司の言動の描き方にも皮肉が混じっている。
戦争の馬鹿馬鹿しさをコミカルに描いた作品には、朝鮮戦争を題材にしたロバート・アルトマンの『M★A★S★H マッシュ』(1970)や、第二次世界大戦の『キャッチ22』(1970)というマイク・ニコルズ作品がある。どちらにも自虐的なオカシサがあったが、『ノー・マンズ・ランド』は等身大の人間が描かれているからそんな余裕はない。地雷源の男の立場を想像してみるがいい。映画では、切迫感を感じさせない表情で色々な話をしている。その事が、かえってチキとニノが争いを始めた時に利いてくるのだ。状況の恐ろしさを感じるのに。
塹壕の中でのチキとニノの喧嘩は、時に酒場の口喧嘩のようでちょっと笑ってしまいそうになる。しかしこれが現実なのだ、とボスニア人監督ダニス・タノヴィッチは言っているようだ。戦争ってなんだ!人と人の争いって何なんだ!この馬鹿馬鹿しさが分からんのか!と怒っている作者の声が聞こえてきそうなラスト・シーンでありました。
ビデオジャケットに印刷された『2001年度アカデミー外国語映画賞受賞』、ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦の話という紹介文に惹かれて見てみた。これは、非常によくできた反戦映画の秀作です。
ボスニアの小隊が夜のうちに前線に移動していくが、セルビア陣地に近づきすぎ、夜が明けると同時に発見され一斉射撃を受ける。ほとんどの兵士が殺される中、チキは辛うじて両陣営の中間地帯にある塹壕の中に逃げ込む。
この中間地帯には人間がいないので"ノー・マンズ・ランド"なのだ。
セルビア軍は先程の銃撃の結果を確認するために二人の兵士を塹壕に向かわせる。新兵のニノとベテラン兵士。塹壕に着いたベテラン兵士は、ボスニア人の死体に地雷を仕掛ける。ジャンピング型と名付けられたそれは、死体の下にセットし、死体を持ち上げると爆発するという仕掛け。チキは銃を持って隠れていたが、発見されそうになり逆に二人に発砲する。老兵士は死に、ニノは負傷する。俯瞰でみればニノが有利なのだが、塹壕の中ではチキが制圧権を握っている。更に、地雷を仕掛けられていたボスニア兵、その死体と思われていた"モノ"が実は生きていて目を覚ましてしまうから状況は複雑になる。
地雷源となっていない二人のボスニア人とセルビア人は、その時々で攻勢に廻ったり守勢に廻ったりしながら、また、仲良くなるかと思えば反目して、銃を撃ったりナイフを振りかざしたりする。地雷源になってしまった男は、意識はハッキリしているものの身体を動かすことが出来ず、生理現象の処置にも窮する。この辺りのシチュエーションが、見ようによっては面白可笑しい。ブラック・コメディであり戦争映画なのだ。
1993年の話で、すでに国連軍が駐留しており、ボスニア、ゼルビア両軍の要請を受けて、"ノー・マンズ・ランド"の偵察に行こうとする。この国連軍の描き方も、皮肉っぽい。偵察の先頭に立っているフランス軍人のように、真剣にPKO活動をしようとする者がいれば、事なかれ主義に徹して、面倒なことから逃げようとする上官もいる。この国連軍の上官は、クリントンを意識して描かれたのだろうか、妙に色っぽい秘書が付いていたりいる。
湾岸戦争以後なので、各国のマスコミも国連軍を追って取材にくる。最前線の情報を得ようとする辣腕女性ジャーナリストのねばり強い交渉のなかで、先の国連軍上官のいい加減さが浮かんでくるが、このジャーナリストの上司の言動の描き方にも皮肉が混じっている。
戦争の馬鹿馬鹿しさをコミカルに描いた作品には、朝鮮戦争を題材にしたロバート・アルトマンの『M★A★S★H マッシュ』(1970)や、第二次世界大戦の『キャッチ22』(1970)というマイク・ニコルズ作品がある。どちらにも自虐的なオカシサがあったが、『ノー・マンズ・ランド』は等身大の人間が描かれているからそんな余裕はない。地雷源の男の立場を想像してみるがいい。映画では、切迫感を感じさせない表情で色々な話をしている。その事が、かえってチキとニノが争いを始めた時に利いてくるのだ。状況の恐ろしさを感じるのに。
塹壕の中でのチキとニノの喧嘩は、時に酒場の口喧嘩のようでちょっと笑ってしまいそうになる。しかしこれが現実なのだ、とボスニア人監督ダニス・タノヴィッチは言っているようだ。戦争ってなんだ!人と人の争いって何なんだ!この馬鹿馬鹿しさが分からんのか!と怒っている作者の声が聞こえてきそうなラスト・シーンでありました。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
後日、再見出来るように早速DVDに落とそうと思ってます。
笑えなかったけど、同じ知人がいるとわかって笑いあうシーンを後から思い返して悔し涙のようなものがじわじわと・・・。終盤の地雷の男の涙が、戦争がもたらす虚しさを物語ってましたね。
そうですね。年に1個出るかでないかという85点でした。
タノヴィッチの二作目は「セプテンバー11」の短編ですね。観ていました。短編なので記憶が飛んでおりました。やはり内戦がらみだったような?
見たかったんですが、田舎町にはロードショーされなかったし、TV放映も実施されたのかさえ記憶がありません。
タノビッチさん、この後2つほど作っているようですが・・・。
しかし、タノヴィッチさん、この後作品を作っているのかな。
映画作家としての評価はやはり多くの作品を発表しないと決められません。
ミュージカル映画に「素晴らしき戦争」という埋もれた傑作がありますけど、そんな皮肉でも言いたくなる内容でしたね。
いつも、楽しく記事を読ませていただいています。音楽関係や、TVの記事にも思いがけない発見がありますよ。
この映画も2年前に観たのですが、ラストシーンは未だに忘れられんです。
ブランコ・ジュリッチについては、何も知らないと言ってよい方です。役者だけでなく脚本、演出もするんですか。今後気をつけて見るようにしますね。
久しぶりに「ブランコジュリッチ」で検索かけたら
案外沢山の方が『ノーマンズランド』をご覧になって、感想を書いておられるので安心して、
尚且つ勇気付けられました。
この映画、涙を忘れて観ました。
これからも沢山の映画を観て一杯感想を
したためて下さいね。
そうですね。ちょっと遅れて観たんで、この映画がどれだけ話題になったのか知りませんが、オスカーを獲ったのはよいことだと思います。
「M★A★S★H マッシュ」も又観たい映画です。
また、お邪魔します。
ロバート・アルトマン監督の
「M★A★S★H マッシュ」も好きな映画です。
でも「ノー・マンズ・ランド」の方がラストの衝撃、
メッセージ性は強いですよね。