テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

スケアクロウ

2009-05-07 | ドラマ
(1973/ジェリー・シャッツバーグ監督/ジーン・ハックマン(=マックス)、アル・パチーノ(=“ライオン”)、ドロシー・トリスタン(=コーリー)、リチャード・リンチ(=ライリー)、アン・ウェッジワース(=フレンチー)、ペネロープ・アレン(=アニー)、アイリーン・ブレナン/113分)


 「真夜中のカーボーイ (1969)」を彷彿とさせると評判になった映画で、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞した。双葉さんの評価も☆☆☆☆(80点)とすこぶる良かったのだが、当方はあんまり感激しなかった。今回、NHK-BS放送により約35年ぶりに再見。評価はあまり変わらなかった。

 「真夜中のカーボーイ」との類似点は、世間のはみ出し者の男二人の出会いと友情の物語だという所。「真夜中のカーボーイ」は、イギリス人監督ジョン・シュレシンジャーの冷徹な目が、孤独なテキサス青年の大都会への挑戦と挫折をシニカルに描いたが、「スケアクロウ」は幼い頃から妹と助け合って生きてきた喧嘩っ早い男マックスが、心優しい青年“ライオン”との出会いとふれ合いによって、人との付き合い方を学んでいく姿を描いた。外観は似ているけど、テーマは違うような気がするんですよね。
 「真夜中のカーボーイ」程には強い印象が残らないのは、主人公の葛藤が弱いのとドラマ構成がゆるいせいではないでしょうか。

*

 偶然にも、カリフォルニアの人気(ひとけ)のない道路で同じようにヒッチハイクを始める二人の男、マックスと“ライオン”。マックスは6年間の刑務所暮らしを終えて出てきたところで、“ライオン”は5年ぶりに船乗り生活をやめて陸地に戻ってきたところだった。
 幼い頃からの過酷な生活から他人を信用しなくなっているマックスだったが、彼のライターが点かなくなった時に、最後のマッチをかしてくれた“ライオン”の優しさに、彼だけは信用しようと思う。そして二人は一緒にヒッチハイクをするようになる。
 マックスには、開業資金を貯めているピッツバーグで洗車店をやろうという計画があり、“ライオン”にパートナーとして一緒に店をやらないかと誘う。“ライオン”も承諾する。
 “ライオン”は、本名フランシス・ライオネル・デルブキ。この後、マックスが彼に付けたあだ名だった。
 “ライオン”には5年前にデトロイトに置いてきた彼女と、その時彼女のお腹にいて今は5歳になっているであろう幼子に逢うという目的があった。出来るだけの仕送りはしてきたが、黙って家を出てきたことには引け目を感じていて、とりあえず子供の顔だけでも見たいと思っていた。
 二人は、ホーボーのように列車を乗り継ぎ、またヒッチハイクをし、旅を続けるのだが・・・。

 旅のトラブルは決まってマックスの世間に対する刺々しい接し方が産む喧嘩。その度に“ライオン”はユーモアで乗り切ろうとするが、“ライオン”の影響により、終盤では、レストランで始まりかけた喧嘩をマックス自ら笑いに変えるシーンがあり、彼の成長が描かれている。
 ロード・ムーヴィーであり、途中で日銭を稼ぐために仕事をしたり、乗せてくれた車の人々とのエピソードなどもあるが、中身が少し薄い印象も残る。

 監督はファッション誌のカメラマンをしていたというジェリー・シャッツバーグ。当時はフェイ・ダナウェイの彼氏だった人で、デビュー作「ルーという女 (1969)」ではダナウェイを主演とし、2作目の「哀しみの街かど (1971)」ではアル・パチーノと組んだ。
 カメラは「さすらいのカウボーイ (1971)」などのヴィルモス・ジグモンド。アメリカン・ニューシネマの終盤から出てきた人ですね。

 「スティング」などのアイリーン・ブレナンが、中盤に威勢のいい酒場の客として登場します。まるで、カレン・ブラックのようなヌード付きのちょい役でした。



▼(ネタバレ注意)
 旅の途中には、デンバーでマックスは最愛の妹コーリーと再会し、彼女のパートナー、“フレンチー”と熱々になる。マックスのトラブルには女も絡んでおり、ここでも“フレンチー”繋がりで酒場で男と喧嘩、再び刑務所に入ることになる。

 デンバーの更正刑務所に入った時、マックスはそれがライオンのせいのように怒っているんですが、あれは何故なんでしょうねぇ?
 “フレンチー”に色目を使った他の男と喧嘩したのはマックスだし、“ライオン”には落ち度は無いと思うんだけど・・。ここ話の繋がりが?でした。

 それと、デンバーには妹コーリーも“フレンチー”も居るのに彼女達が面会に来た気配はなく、出所後も再会するシーンがない。何かが抜けてる感じがしました。

 マックスはベッドで寝る時に枕の下に靴を敷いていて、“ライオン”や一緒に寝た女性に不思議に思われるが、最後のシーンでその理由が明らかになる。奇癖ではなく、彼の生活の知恵でした。

 デトロイトでの“ライオン”の元カノ、というか実質元妻とのやりとりが秀逸。
 元妻の家を目の前にしながら、“ライオン”はまず電話をかける。息子か娘か判らないが、子供の声が聴けると思ったのだ。ところが、子供が受話器を取ろうとした寸前に元妻アニーが電話に出る。アニーは“ライオン”に恨み言を言い、最後には子供は8ヶ月で死産したと嘘をつく。水子は洗礼を受けることもなく地獄に堕ちたと。
 彼女の精一杯の復讐だが、公衆電話で聞いていた“ライオン”はショックのあまり電話を切り、プレゼントに用意していた可愛い電気スタンドも置き忘れる。
 マックスには、アニーは再婚していて子供が混乱するから逢わないと笑って話す“ライオン”。この後、公園で見知らぬ子供たちと遊ぶ“ライオン”に思いも寄らぬ変化が起こり、マックスは途方に暮れる・・・。

 「真夜中のカーボーイ」では、ジョーはまたしても独りになっちゃったけど、マックスには妹もいるし、“ライオン”も死んだ訳ではないから、何かと精神的な支えにはなるでしょう。その点、「真夜中の・・」程の落ち込みは避けられましたね。
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・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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2 コメント

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ゲイ (十瑠)
2009-05-09 09:31:27
「真夜中のカーボーイ」の主人公二人はノーマルなんですが、ゲイのお客も出て来たりして、NYの苦悩というか、そういう世相が赤裸々に反映されていたのは確かですね。

>深みの違いはそういった個人の苦悩からも来ていたのかな?

「スケアクロウ」にもゲイの囚人が出てきて、ライオンに暴力を働きますが、コチラはただの悪役でして、そう言われると、ゲイに関する描き方には深みの違いが・・・^^
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真夜中のカーボーイは・・ (anupam)
2009-05-08 23:24:05
未見なんです。

ジョン・シュレンジャーは彼自身ゲイで、その苦悩が作品に色濃く出ていたみたいですよね。普通の男性と普通に夫婦のように暮らす生活に憧れていたそうです。

深みの違いはそういった個人の苦悩からも来ていたのかな?

「スケアクロウ」では、十瑠さんが書いていらしたように、それまで後生大事に持っていたプレゼントを公衆電話に置いて去るシーンが印象に強く残りましたね。
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