テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

やわらかい手

2015-10-18 | ドラマ
(2007/サム・ガルバルスキ監督/マリアンヌ・フェイスフル(=マギー)、ミキ・マノイロヴィッチ(=ミキ)、ケヴィン・ビショップ(=トム)、シヴォーン・ヒューレット(=サラ)、ドルカ・グリルシュ(=ルイーザ)、ジェニー・アガター(=ジェーン)、コーリー・バーク(=オリー)/103分)


 ブログtopのYouTube Selectionに以前トレーラーを載っけた時に、絶対に観ようと思っていたので、少し前にレンタルショップで中古DVDを見つけ購入。大体予想した通りの雰囲気と面白さだった。

*

 ロンドン近郊の田舎町のアパートに住むマギーは夫を7年前に亡くして一人暮らし。一人息子のトムもすぐ隣のアパートに妻のサラと暮らしていたが、今この家族は大きな心配事を抱えていた。トムとサラの一人息子オリーが難病を発症し、長期入院中なのだ。病院の費用もだが、治療法が見つかっていない幼いオリーの行く末が一家に暗い影を落としていた。
 マギーも毎日のように病院に行くが、サラは夫が何かと義母と一緒に行動するのが気に食わなかった。
 そんなある日、病院からオリーの病気の最新の治療法がメルボルンで発表されたと聞かされる。後日、オリーの治療受け入れがOKとなるも、治療費は不要だがオーストラリアへの渡航費用等は個人負担となると聞かされ愕然とする。トムだけでなく、マギーも貯金をはたき、家も売却し、もう借金の当てもなかったからだ。町の支援も貰っていたが、これ以上は言い出せなかった。
 オリーの体調は日に日に悪化しており、あと6週間以内に渡航する必要があると言われた。
 愛する孫のために金策に走るマギー。銀行では担保も無いのでローンは組めないと言われ、ハローワークに行ってもあなたに紹介できる仕事は無いと帰される。途方に暮れてロンドンの街角を歩くマギーの目に「接客係募集、高給」の貼り紙が。ついフラフラとそのお店の中に入っていくマギーだったが、その地下にある店はケバケバしい内装の性風俗の店だった。

 孫の為に風俗嬢になるお祖母ちゃん。とはいっても勿論売春婦ではなく、タイトルが示す通り“やわらかい手”で男を逝かす、所謂手コキ専門の風俗嬢というわけだ。
 マギーは、お店はそういう類であっても貼り紙にあった募集は雑用的な接客係かと期待していたが、オーナーのミキに内容を聞かされ、やはり出来ないと帰っていく。ただ、ミキにあんたの手は滑らかでこの仕事に向いている、週に600ポンド以上は稼げるだろうと言われ、一晩迷った挙句に再び店を訪ねることになる。
 ミキの予想通りマギーの手は評判となり、もっと稼げるようにとミキはマギーの部屋に源氏名をつけた看板を付ける。マギーの源氏名はイリーナ。看板は【IRINA PALM=原題】。

 暇つぶしの時間を共有していたカード遊び仲間の近所の友人達に電車で出勤する所を見られて何処に行ったのか聞かれるが、マギーは言えないとだけ答える。
 やがてマギーは、トム達の渡航費用6000ポンドをミキから借り受けてトムに渡す。息子は母親が如何にしてそんな大金を調達できたのかを尋ねるが、やはりマギーは答えない。答えられないのだ、恥ずかしいし、息子の反応も予想ができないから。
 何か犯罪的な事を仕出かしてはいまいかと、こっそりとマギーの後をつけるトム。そして、ついに息子は風俗店の中に入っていく母を見つけるのだが・・・。





 親子関係とか、嫁と姑の関係とか見どころはあるけれど、ポイントは老婦人が人生のやり直しを決心する過程の面白さでしょうかね。
 マザコンの息子は最後まで殆ど変わらなかったけれど、嫁が理解してくれた所で、マギーは息子から離れることにしたんでしょうな。
 出だしからBGMからして暗いムードですが、時折英国らしいブラックユーモアもありまして(大体、あんな所で、あんな事で僅か数分の快楽に身をゆだねる男達の姿からして可笑しいやらみっともないやらなのですが)、マギーとミキの関係の変化も微笑ましく見れて、一見の価値ありです。

*

(↓Twitter on 十瑠 から[一部修正アリ])
「やわらかい手」を観る。中古DVD。最初についてくる新作DVD情報のtopが「あの胸にもういちど」だった。なにこれ?そうか、50年前のあの映画がDVDになったっていう情報か。貫禄のおばあさんにレザースーツの美女の面影が重なってくるじゃないか。可愛いか~♪
[10月13日]

「やわらかい手」。観てて思い出した映画が一つ。ウルグアイの映画「ウィスキー」。セリフじゃなくて表情と映像、そして短いショットの積み重ねで見せる所が似てると思う。それと、シーンの切り替えにブラックアウトを使うのはジャームッシュを参考にしたか?
[10月14日]

「やわらかい手」2回目を観る。ブラックアウトは日がかわる所で使っていた。手持ちカメラも所々使っていて、それは主人公の息子のトムがマギーが働く店に乗り込んで彼女を探すシーンとか、序盤で金策に迷いながら街を歩いているマギーの姿を追うショットとか。
[10月16日 以下同じ]

本作が長編2作目という監督のサム・ガルバルスキよりは、セザール賞で撮影賞3回ノミネートのクリストフ・ボーカルヌの手腕の方が大きいかもしれない。

「やわらかい手」にはジェニー・アガターが出ているのは予告編で分かっていた。改めて大昔に見た「美しき冒険旅行」のスチール写真を見てみたけど、40年前の彼女はやっぱ十代だから可憐さがあって、つい遠い目になっちゃうよね。「美しき冒険旅行」は名カメラマンニコラス・ローグの監督作品だった。


▼(ネタバレ注意)
 ストーリーは概ね予想通りだったけど、終盤でちょっとした秘密が明かされて、その変化球が面白かった。

 ジェニー・アガター扮するジェーンは、終盤でマギーから“仕事”について告白され、その後マギーに冷たくなる。いつもマギーが買い物をする小さな店で会った時にも「健全な友達を見つけたわ」と絶縁宣言をする。
 すると、マギーが言い放つ。
 それは、ジェーンがかつてマギーの夫トレヴァーと不倫していた事をトレヴァーが死ぬ間際に告白していた事。
 『あなた、お尻ぺんぺんが好きなんだってネ』
▲(解除)





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

コメント (4)    この記事についてブログを書く
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4 コメント

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柔らかさ (十瑠)
2015-10-23 09:41:41
だけではないと思いますが・・・
それにしても、少し前に誰とも知れない別の“ペ○ス”が入れられた、壁に開けられた穴に、生身のソレを・・・あっしにゃぁでけまへん。

>だんだんと堂々としてくるヒロインばあちゃん

壁に絵を飾ったり、ボトルのローションを化粧瓶(?)に入れ替えたり。開き直って、少しでも居心地のいい場所にしたい気持ちは分かりますな。
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良かったよね (anupam)
2015-10-22 23:53:36
これは好きな1本ですねー

手の柔らかさでそんなにも違いがあるんかと思ったが・・

最初に接客対応するシーン、結構笑えたかも。

だんだんと堂々としてくるヒロインばあちゃんが良かったな。
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業界用語? (十瑠)
2015-10-18 16:59:50
テニス肘は、そうかな?と思うことが若い頃にはありましたが、さすがに”ペ○ス肘”にはなった事ありましぇん(^^;)
あの仕組みが“日本式”と紹介された事、ちょっと恥ずかしいかも。

>楽しそうにおしゃべりする様子

興味津々に聞いているおばさんたちの様子も楽しそうでしたね。
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好きな作品です (宵乃)
2015-10-18 13:35:28
諦めずに頑張るおばあちゃん、可愛いかったです。「あの胸にもういちど」のヒロインだったと知った時は、ホント驚きました。
業界用語?を使って楽しそうにおしゃべりする様子は、冒頭の彼女とは違って生き生きしてますよね。
十瑠さんも書かれている、元友人との決別シーンも痺れました♪
ウルグアイとかアルゼンチンとか、あまり見かけない製作国の作品って独特の味わいがあって好きです。
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