テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ズーム&ドリー(映画技法用語)

2012-10-19 | 十瑠の見方
 ズームについては、以前デビッド・リーンの「旅情(1955)」の1シーンの動画を参考に書きましたが、今回も同じ「旅情」から別の動画のズーム及びドリーショットのシーンを観ながら書いてみました。

 今回のシーンは、前回のシーンの数日後くらいの設定だったと思います。前回での初対面の後、骨董屋さんで再会して少し言葉を交わした後ではなかったでしょうか。

 イタリア、ベニス。ハンサムな骨董屋の主人レナート(ロッサノ・ブラッツィ)と逢ったアメリカのオールドミス、ジェーン(キャサリン・ヘプバーン)が、もう一度その男に逢いたくなってサンマルコ広場のカフェにやって来る。初めて会った時はあわてて帰ってしまったけれど、今度は気軽に話が出来るかもしれないから。
 もしや彼がいないかしらとソワソワと周りを気にしながら、先日と似たような場所のテーブルに座り、コーヒーを注文する。大勢の観光客で賑やかしい広場では、人々が談笑しながら行き来していたが、彼の姿はなかった。

 そんなに上手く再会出来るわけはないわよねぇと、ジェーンのドキドキしていた心臓が落ち着いた頃、カメラはスーッと手前に引いていき、広場の向こう端まで写るようになる。と、そこへレナートがおもむろに登場するわけです。但し、ここはワンカットで撮られているのでこの時点でのレナートはロングの画面の端っこに小さく写っているだけ。ですから観る方もこれからの展開が気になって集中できるんですね。



(Katharine Hepburn (Summertime, 1955): a lost opportunity... )


 レナートがジェーンに気付かぬまま近づいてきたところで、一度カットが変わります。その時、何気なくジェーンは後ろを振り向いていて、正面に向き直ったところで、チラと眼の片隅を横切ったのが彼ではないかと二度見するわけです。で、二人はお互いを確認して、挨拶を交わします。
 ジェーンとしては待ってましたとばかりの気持ちなんですが、実は、コーヒーが来た頃にテーブルに付いていたもう一つの椅子の端をテーブルに立てかけていたんですね。これは、先客がいますよ、空席ではないですよという意味なんでしょうか、その椅子を見たレナートは、失礼、とばかりに立ち去ってしまうんです。

 あわてたジェーンの、悲しそうな顔をカメラは捉えながらスーッと手前に引いていきます。このカメラは去っていくレナートの背中なんでしょうか。
 ズームアップは観客の集中力を高める効果がありますが、ズームアウト(及びドリーアウト)は、緊張感を緩めるだけではない様々な効果をもたらす気がしますね。

 

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4 コメント

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技法と内容とをリンクして語る (十瑠)
2016-02-14 12:23:52
かつての評論家というのはこういう事をよくやられていたような気がするんですが、最近はどうなんでしょ?

>最近の作品はこういう気にさせる作品が少ないデス。

な~る。
対象物が少ないのもあるのかも。
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椅子 (オカピー)
2016-02-13 20:44:04
TBはとりあえず映画評本編だけにしておきますね。

技法と内容とをリンクして語るのはなかなか難しいですが、さすが十瑠さんといったところ。
この作品はそういう気を起こさせますよね。
最近の作品はこういう気にさせる作品が少ないデス。

>ジェーンはレナートの為に取って置いたつもりが、最悪の勘違い
全く同意です。
こういう誤解をされて動揺するのがオールドミスの悲しさですかね。
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伏線らしきものは・・ (十瑠)
2012-10-20 20:49:56
なかったと思います。
このシーンを見た範囲でそういう意味だろうと考えました。

ジェーンはレナートの為に取って置いたつもりが、最悪の勘違いをされたのではないでしょうか。咄嗟のことで彼女も言い訳が出来なかった。イタリア語も不得手だし。
というシーンだろうと思ってます。
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心理描写 (kiyotayoki)
2012-10-20 18:27:39
主人公の心理を見事に映像で表しているシーンですね♪
さすが名作といわれる映画は、ちょっとしたシーンにも様々な技法や手法が駆使されているんですね。

なるほど、椅子をテーブルに倒すのは、そういう意味があるんですか。
これって、前に、イタリア男に言い寄られて困ったみたいな伏線があったんでしょうか???
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