新津由衣2ndアルバム『傑作』を高音質試聴するイベント『傑作会』に参加した。普段は生活音が溢れる空間の中、スピーカーで音楽を聴いている。この試聴で良かったのは、由衣さんのピアノが打楽器のような迫力と臨場感で聴けたことだ。
プロデューサー石崎光さんとのアフター・トークでは、制作過程を垣間見れた。今回の『傑作』を手にした時、音を聴く前に先ず歌詞カードをじっくり読んだ。今までになく“はっ”とする表現・描写が多いと感じていたが、その後曲を聴いて、これが今の彼女のありのままのエッセイなのだとすぐに実感出来た。
今日のハイライトは、やはり生歌ミニライブだ。マイクを使わないで聞けた“語り歌”。“だからぼくは”と“IDEA”の生歌は、中音域が豊で、温かくしなやかだった。どこか懐かしい、音楽室で先生が歌った時のような響きを思い出した。同時に彼女は小さな会場の中を、“ワルツ”を踊るように自然に自由に舞っていた。時に“タップ”を踏みながら、それはまるでマイムを演じているかのように。もう“華麗に素敵な”しか言葉が見つからない。
そして、用紙やレイアウトまでもが個性溢れる、手書きの歌詞カードとミニブック『Kessaku Times』のプレゼントは嬉しすぎ。
対談のなかで“新津由衣とRYTHEMの新津由衣は、両方ともひとりの同じ新津由衣で、別けて活動してるつもりはいない”と本人は語った。いつか『傑作』の妄想が膨らみ、イメージが出来上がって、ソロ・ツアーが発表されるまで、この先も“ゆい時間”をゆっくり待つことにしよう。新作をリリースしました、アルバム・プロモーション・ツアーをやります、なんて流れで多くのミュージシャンが“よくやる”ことを、簡単にはやらない彼女のスタンスがほんとにいい。
終演後、メンテナンスや維持がとても大変な、『傑作』のブックレットにもクレジットされている、産業機械遺産級のキーボード“Chamberlin”のことを石崎さんに伺った。現存しているだけでも奇跡的なこの楽器。入手した経緯(なんと、ザ・バンドのリック・ダンコが所有していたものだそう)や、『傑作』ではいたるところで使用したと教えてくださった。メロトロン同様、コードを弾こうものなら負荷がかかって音が揺らいでしまったりするような曲者を惜しげもなく使うなんて。しかも音源テープは当時のままのオリジナルとのこと。驚きでしかない。制作現場を見てみたくなった。和声コーラスやストリングス、フルートといった、ビートルズやイエス、キング・クリムゾン、ジェネシスのような王道の音使いでないとすると、『傑作』ではどの曲でどんな音が使われたのか?謎が深まってしまった。それを想像しながら聴くのも楽しいかも。
由衣さんともお話ししたかったけど、皆さんに囲まれていたので諦めて家路へ。
ともかく、今回の『傑作会』はとても楽しいファンクラブ・イベントだった。
これはなんと、ジェリー・ルイスが“Chamberlin”のデモ演奏をする動画です。