検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

山の歴史―林業従事者の意識 連載小説58

2012年07月24日 | 第2部-小説
 階段を降りながら、松本は「この村の繁栄は入会地が山の大部分を占めたことが大きいんですよ」といった。
「それは、どうして」
「小林多喜二の蟹工船をご存知でしょうか」
「ええ」
 将太は、小説・蟹工船の話が出るのに驚いたが面白いと思った。
「あの小説は低い賃金に工員が立ち上がる話。労働の搾取、資本が問題になりますがこの占部で一揆や騒動が起こった記録はありません」
「それは珍しいですね」
「そうでしょ。たいがいの地方では一揆や騒動が起こっています」
「なぜ、起こらなかった」
「江戸時代のことは省くとして、山林労働が不当に安いことはなかったからです」
「なるほど」

 林業従事者は「雇われている」という感覚を持つ人間は少ない。「働いている」という感覚の者が多いという。山林所有者も「山の面倒を見てもらっている」感覚でいるのが多数だという。だから資本家と労働者の階級的な意識が生まれなかったようだ。
 特に、山の仕事は危険できつい。他の仕事と比べて熟練も要す。そうした特殊性から山の労働は、他の労働と比較して恵まれた条件、すなわち高めで決められていた。そしてそれは町の他の職種の労賃を決める基準になったという。

 「川上から川下」という言葉がある。木についていえば育林・造林から製材、普請まで、すそ野業種は広い。占部は平野の少ないが山林は広大だ。歴代首長は山を生かすことに活路を定めた。
 杉、カラマツ、ヒノキを植え、百目柿(枯露柿)、栃を奨励し、コウゾウも植えた。そうしたなかで大変な発見をした。

 杉を間伐すると太陽の日はまたたくまに下草を繁茂させる。それは山の養分を吸い取るから、定期的に下草刈をしなければいけない。その労働は造林経費にのしかかる。この問題解決にアスナロを使うことを考えたのだ。
 成長の遅いアスナロは葉を扇のように広げて陽をさえぎり、下草の発生を抑えた。おかげで下草刈の費用が少なくなった。
 そして占部は産地間の価格競争で低い価格で落札されながらも利幅は、他所よりあった。だがその植林技術はチェンソーなど林業の機械化の中で、非効率として排除された。

「昔の人の方が、山をよく知っていたのかも知れませんね」
 今、間伐をしない山林、間伐してもそのまま放置した山が増えている。細い、弱弱しい木は根の張りが浅い。少しの雨で土砂崩れが起きる。災害に強い山にするため紅葉樹と混成した植林が大切だといわれている。アスナロを利用した林業もテーマになっていいのではないかと将太は思った。


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