夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

2024年 アメリカの内乱と没落(2)

2024-02-03 16:28:19 | 社会


再度のトランプ権威主義政権
 英紙ガーディアンのインタビューで、前回大統領選民主党候補として善戦した左派のバーニー・サンダースは、トランプが再度大統領になれば「それは民主主義の終わりだ」と言う。‘It will be the end of democracy’: Bernie Sanders on what happens if Trump wins – and how to stop him
「彼には個人的な恨みがたくさんあり、4度の起訴を経験し屈辱を味わった。それを、敵にそれをぶつけるつもりだ。」「彼は民主主義を着実に弱体化させ、若者や有色人種の投票を困難にし、政治的反対勢力を弱体化させ、少数派や移民に対する怒りを煽ることになるだろう。 」
 
 トランプは米国第一主義を掲げるが、それは大型法人減税や規制緩和による企業優遇策であり、TPPから離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)を改訂して、アメリカに有利な USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)などに示されているように保護貿易主義を推進する通商政策で衰退した産業の繁栄を目指すというものだ。それに、アメリカナショナリズム的発想から強硬な移民排除の政策が付け加わる。
 また、トランプは「力による平和」を掲げており、同盟国の軍事費増大を要求するだけでなく、アメリカ自身もミサイル防衛網強化など、軍事力増強を目指している。当然、それは軍事産業の利益を増大させる。
 問題は、その政策をポピュリズムを駆使し、強硬に推進しようとすることである。例えばそれは、政権から独立した組織である中央銀行に露骨に介入し、米連邦準備制度理事会(FRB)の前イエレン議長の政策運営に不満を持ち、再任せず、2018年に現在のパウエル議長を指名したことでも明らかである。しかも、そのパウエル議長に対しても大幅な金融緩和の実施を要請し、圧力を強めていったのである。
 そして再登場のトランプ政権は、怒り狂ったように抵抗する連邦職員を排除し、超法規的手法でますます強権的に政策を推し進めるだろう。まさに、サンダースの言うように「民主主義の終わり」である。

対抗する側の反撃、そして内乱へ
 2017年から2020年のトランプ政権で、経済はトランプが言うほどは好転しなかった。経済成長率では、オバマ政権で2.5%、コロナ前のトランプ政権で3%ほどである。現実のトランプを支持する白人労働者層の生活はまったく向上していないのである。
 それはトランプが再度登場しても同じことだ。この経済が好転しない理由を、民主党が半分程度議席がある議会や連邦機関のせいだと、トランプは以前よりまして大声で叫ぶだろう。それに呼応してトランプ支持者は、再度議事堂を襲撃するかもしれない。司法がそれを糾弾すれば、裁判所も襲撃するだろう。連邦機関も襲撃の対象とするかもしれない。
 取り締まる側の警察にもトランプ支持者がいて、彼らが有利になるような行動をとった疑惑が、前回の襲撃事件でも指摘されている。要するに治安部隊にもトランプ支持者がいて、そこでも分断があり、内部対立が起こることが予想される。
 
 アメリカにも極右や極左集団は存在する。極右はトランプ支持者に大勢いるが、極左は「アンティ・ファ」、つまりファシストと見なす勢力に実力で対抗しようとする集団が存在する。「実力」とは、通常は対立するデモ隊どおしの衝突なのだが、銃保持者がそこらじゅうにいるアメリカでは、デモ隊間で銃撃戦もあり得る。それは極左・極左間にとどまらず、トランプ派と反トランプ派で衝突は起きる。
 アメリカの庶民階層の経済的困窮はます一方だが、それを救済する役目の社会福祉も、トランプ政権の「オバマケア」の撤廃などで見られるように全般的に社会福祉政策は後退する。ただでさえ貧弱な社会福祉を、軍事費の増加がさらに福祉予算を圧迫する。それらは社会混乱の要因であり、それに対してトランプ政権を非難する抗議行動も頻発するだろう。当然、それにもトランプ支持者は反発し、トランプ派と反トランプ派で衝突は止むことはないはずだ。
 さらに、「壁の建設」に象徴される厳しい国境管理や、不法移民の摘発の強化 で移民と移民を支持する団体の暴動も起こり得る。
 トランプの再大統領選勝利でトランプとその支持者のやりたい放題はさらに強まり、それに対する反トランプ派も黙ってはいられない。トランプ派の中絶禁止、同性愛者など性的マイノリティに対する保守的な抑圧など、反トランプ派には我慢がならない事柄が山ほどある。その対立は大きな衝突を引き起こし、銃撃戦などの大混乱に至るだろう。まさに、内乱の始まりである。


アメリカの没落
 以前のトランプ政権による大型減税や軍事費を中心とする財政支出の増加 と輸入超過で「双子の赤字」は大幅に拡大 した。貿易赤字は、2016年44810億ドルから、2019年には5770億ドルまで増加し、連邦政府債務は、トランプ政権下で5兆6,000億ドル増加した。
 BRICSを始め、国際貿易にドルを使用しない動きは世界的に強まっている中で、「双子の赤字」はドルの信用力(信認)をさらに低下させる構造的なリスクでもある。それは、基軸通貨としてのドルの地位を揺るがすリスクにも繋がる。アメリカの経済的繁栄は基軸通貨としてドルが支えている。基軸通貨としてのドルが、その地位を滑り落ちれば、超大国としてのアメリカ経済も崩壊するのは間違いない。

アメリカの孤立
 イスラエルとパレスチナの戦争は激しさを増しているが、トランプは、イスラエルの首都をエルサレムと認定したが、エルサレムは、イスラム教の聖地でもあることから、それまでのアメリカの政権はアラブ側の反発や世界の動向を考慮し、決してそれを認めることはしなかった。このことからも、トランプはバイデン政権以上に徹底したイスラエル寄りなのは明らかである。2024年11月の大統領選までこの戦争が続けば、トランプはイスラエルをさらに全面支援する姿勢を現すだろう。
 2023年12月12日の国連総会で、この戦争の停戦案にイスラエルと並んで主要国で唯一反対したアメリカは、世界からの孤立を露わにした。イスラエルの暴虐に目をつぶるどこらか、イスラエルに武器弾薬を供給し続けるバイデン政権に世界は厳しい反応を示している。それ以上にイスラエル寄りのトランプ政権は、西側同盟国からも非難されるだろう。
 かつて「親米」だったサウジアラビアなどのGCC湾岸協力理事会諸国は、最近は中国に接近しており、イスラエル問題で一段とアメリカ離れを起こしている。トランプ政権が再登場すれば、アメリカ離れは決定的なものとなるだろう。言い換えれば、アラブ諸国全体が反米色に溢れることになるのである。
 また、イスラエルへの対応と正反対にウクライナへの軍事支援には消極的なトランプは、支援継続に固執するEU諸国からは、既に警戒されている。
 トランプ政権は、地球温暖化を改善するパリ協定を離脱し、エネルギー政策も地球環境など無視し、シェールオイルなど原油生産に力を入れた。トランプにとっては「アメリカン・ファースト」で、世界がどうなろうとアメリカさえ良ければいいのである。しかし、その姿勢は、同盟国である他の西側先進国の方向性を真っ向から否定するものだ。
 このように西側同盟国からもトランプのアメリカは孤立することになるのである。

 アメリカに反旗を翻すBRICS、グローバルサウスは西側諸国全体の経済規模を既に超えている。アメリカはGDPで世界一だが、工業生産額では中国に抜かれている。アメリカは、民生には役に立たない軍事生産額とカネを右から左に動かすことの金融経済の指標で群を抜いているだけである。BRICS、グローバルサウスに加えて西側同盟国からも孤立すれば、アメリカ社会は大混乱となる。ひとたび製品輸入が混乱すれば、アメリカ国民の生活は極度の困窮に陥るからである。
 そして、何よりも最悪なのは、アメリカの「力」を過信し、「何をするか分からない」トランプは、対中国との戦争に活路を見出すかもしれない。その時は、世界はアメリカの道連れになって、奈落の底に落ちていくのである。

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