夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「ウクライナ長期戦争 結局、ロシアとウクライナは壊滅し、西側は凋落の一途をたどる」

2023-06-23 10:51:53 | 社会


 6月になって、西側から強力な兵器の支援を受けているウクライナ軍は反転攻勢を開始した。ゼレンスキーは、6月10日に攻勢が始まったと明言し、国防副大臣は12日、ウクライナ軍が7つの村、数平方キロメートルをロシアから奪還したと発表した。しかし、ウクライナへの最大軍事支援国のアメリカのブリンケン国務長官が12日に、「ウクライナの反撃の行方を語るのは時期尚早」と発言したように、戦況がウクライナ側に有利となったとは言えず、ロシア・ウクライナ双方とも一進一退の攻防を繰り返しているに過ぎない。
 英国BBCは「ウクライナの攻撃が成功するには何が必要か?」という記事を挙げているが、そこには西側専門家の標準的な戦況への見方が載っている。
 結局、この記事は「この戦争で最終的に誰が勝利する可能性が高いのかをより明確に把握するまでには、数週間、あるいは数か月かかるかもしれない。」と結んでいる。また、最も戦争の状況を正確に把握する立場にあるアメリカの統合参謀本部議長のマーク・ミリーは、15日に「非常に困難な戦いだ。(最終的なウクライナが優位に立つには)の相当の時間と犠牲が強いられるだろう」と述べた。 
 要するにこれらのことは、ロシア、ウクライナ双方が、どんなに自軍の優勢さを宣伝しようと、事実は、戦争は泥沼に陥っており、長期にわたる殺害と破壊が続くということを裏付けている。
 10年戦争に突入
 ゼレンスキーと西側は、反転攻勢が順調にはウクライナ側は優勢に進んでいるわけではないことを認めながらも、最終的にはロシア軍より優る西側の強大な軍事支援によって、総力でロシア軍を排撃できると確信しているようだ。6月21日に、西側はロンドンでクライナ復興への支援を協議する国際会議を開催したが、それもウクライナの勝利を確信していることの現れだろう。確かに、単純な軍事力の比較では、西側の軍事力はロシアを圧倒しているので、「最終的」には排撃できる可能性は高い。しかし、ロシアはプーチンが言うように、この戦争はロシアの国家としての存亡がかかっていると見ており、ロシア側も国家の存亡をかけて戦う姿勢を崩さないだろう。したがって、西側の言うロシアを敗北させることとは、リトアニア首相が公言したように、第二次大戦大戦時のドイツ並みに壊滅させるということにしかならない。それには、かつてはアメリカに次ぐ軍事大国だったロシアを屈服させる極めて長い道のりがある。
 いずれにしても、ロシア・ウクライナ双方とも数万人から数十万人の死者を出し、双方とも明らかな勝利、あるいは明らかな敗北がない限り、もはや辞めるわけにはいかない状況に追い込まれている。それらを考えれば、この長期の戦争は、もはや1年、2年という単位ではなく、恐らくは10年という期間にわたって継続することになるのは間違いなさそうだ。

ロシアとウクライナは壊滅
 ウクライナ領土での長期の戦争が、ウクライナ人の膨大な死傷者と国土の壊滅的破壊を招くのは、誰が考えても明らかだ。さらには、反転攻勢でロシア支配地域をウクライナ軍が侵攻すれば、西側メディアでは無視されている親ロシアのウクライナ市民も、ロシア軍がブッチャで市民を虐殺したように、ウクライナ側の復讐心から大量に虐殺されるだろう。クリミア半島に至っては、2000年以降の何回かの意識調査で、親ロシア住民が80%以上もいることが分かっており、大虐殺かロシアへの大量難民化が生じることになる。
 当然のように、ロシアも膨大な死傷者を生むことになるが、それだけでは済まない。既に、ウクライナの特殊部隊は、ロシア領土内を攻撃しているが、さらにロシア領土内に対する攻撃は激しくなる。ウクライナへの攻撃は、ロシア領土内から行われているので、ウクライナ軍はロシア領内を攻撃しない限り、ウクライナ領土からロシア軍を排斥できないからである。
 最悪の想定は、勿論、NATOとロシアの直接戦争であり、ロシアの核使用とそれに対するNATOの核報復である。それに至らず戦争が終わるとしても、ロシアの攻撃能力の無力化は避けられない。その意味するところは、ロシアは軍事力、経済、市民生活等すべて壊滅するということである。
 
西側の凋落、「先進国」の返上
 西側、つまりNATO諸国と日本、オーストラリア、カナダは、ロシアへの支援と同時に、中国との戦争にも備えるため、軍事力の拡大に猛進し始めている。これによって、西側諸国は軍事予算が増加し、さらに、ウクライナへの復興支援という経済支出が合わさり、財政支出が膨れ上がるのは当然の成り行きである。日本では、どうやって「防衛費」を捻出するかが問題となっているが、これは西側各国すべてに共通し、いずれ最大の財政支出である福祉予算を削減せざるを得ないのは目に見えている。今のところ、各国政権は福祉予算の削減を主張していないが、福祉予算の削減などと言えば支持率を失うので、それを言い出せないだけである。
 福祉予算を削減しなければ、財政支出は際限なく増加し、財政規律は乱れ、西側諸国は経済学で言う「信用」を失う。それは西側諸国が先導してきた後期資本主義システムの崩壊という歴史的「惨事」を引き起こすかもしれない。恐らくは、その「惨事」より、西側諸国の支配政権は福祉予算の削減を選択するだろう。
 福祉予算の削減は、長年築き上げてきた西側諸国の高福祉国家が崩れることを意味する。西側メディアに所得格差の拡大という言葉で表現される経済的不平等は、西側諸国でも著しいが、その低所得層を救済する高福祉構造によって、ある程度の生活レベルは維持されている。世界中で相対的には社会構造として調和のとれた社会であり続けるのは、第二次大戦以降、高福祉社会を構築してきたからである。しかし、その高福祉が崩壊すれば、低所得層の生活は立ち行かなくなり、犯罪は増加し、社会的不満と混乱がいっそう高まることになる。社会的混乱は、反中・ロの軍事志向とナショナリズムが加わり、フィンランドで長期の中道左派政権が崩壊し、右派政権が発足したように、政治的な右傾化とそれに反発する少数勢力の極左化が起こり、政治的にも混乱は避けられない。
 西側諸国の世界に占めるGDP比率は低下する一方で、例えば、G7諸国の総GDPは、1994年に世界の67.1%を占めていたが、2014年には45.9%に下がり、年々低下率は加速している。社会的混乱は、この経済規模の相対的低下をも促進させる。
 西側諸国が「先進国」と表現されるのは、経済の大きさと高度福祉社会による社会の安定からである。対ロシアの長期戦争は、確実にその二つを失うことになる。この戦争の終わる頃、もはや西側諸国は「先進国」を返上しなければならないだろう。この長期戦争は、西側諸国の長年の夢である「ロシアの壊滅」を達成できるが、自らの凋落という代償をも負うのである。
 

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