夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

現実を無視し、ますますウクライナを自滅の道に追いやるNATO

2024-07-28 08:44:36 | 社会

ウクライナの破壊された街で使えそうなものを集め、その残骸を入れた袋を引きずる男性(AFP)

 7月、NATOは、ワシントンでの創立75周年の首脳会議で、ウクライナへの継続した軍事支援を約束し、ウクライナのNATO加盟は「不可逆な道」だと宣言した。
 それらのことに関し、アメリカ政治ニュースサイトPoliticoには、「NATOの偽りの約束はウクライナの誤った期待を助長する」という記事が掲載されている。投稿者は、アメリカのシンクタンクであるクインシー研究所のクリストファー・マッカリオン、ベンジャミン・H・フリードマン 等である。
 NATO諸国の軍事支援があるものの、現実の戦争は、ロシア軍が攻勢を強め、ウクライナは破壊されていく一方なのである。ウクライナ側は、散発的にクリミア半島やロシア領内の主に軍事施設を攻撃しているが、ロシア軍の攻勢を食い止めることには繋がっていない。

絶対に踏み込めない一線
 NATOは、ウクライナが勝利するための強力な兵器の供給を口にしているが、ロシア領内の深部への攻撃は、認めていない。軍事支援は、あくまでもロシアの進攻を止めるためのものであり、ロシアを破壊するためではない、という建前のせいであり、ロシア政府が、ロシア領への攻撃をNATOが支援していると判断すれば、それを止めるためにNATO諸国を直接攻撃をしてくることを恐れているためである。現に、度々プーチンはそれを警告している。
 ウクライナの提供された長距離ミサイルで、許される範囲内のウクライナ国境近くのロシア軍を攻撃しても、ロシア軍は、ウクライナから離れた軍事施設から攻撃すればいいのであって、ロシア軍の攻撃を止めることはできない。国境を越えてくる歩兵部隊を攻撃できるというが、それを攻撃するのはミサイルである。ロシア軍は、爆撃戦闘機から滑空ミサイル等で攻撃してくるため、空軍に防御されたミサイル施設が必要で、ウクライナ空軍にはその能力はない。
F16等の新鋭空軍機も供与されつつあるが、空軍機どうしの戦闘は、高速のため国境をまたぐが、それはロシア領内での戦闘を意味し、当然、その使用は、慎重にならざるを得ない。端的に言えば、ロシア領内での空中戦は、その残骸はロシア領内に落下し、ロシア側の住民の多大な被害を招く。そうなればロシア側は、NATOがロシア領攻撃に加担したとして、NATOとの直接戦闘の危機は大幅に増大する。ロシアと直接交戦は避けることが至上課題のNATO諸国の支援には、絶対に踏み込めない一線が存在するのである。
「ウクライナの支援者と自認するアナリストたちは、核戦争にエスカレートする可能性は低いため、西側諸国は『核脅迫』に屈してはならないとしばしば主張する。しかし、『核脅迫』の正確な名称は『核抑止力』であり、それは災害が起こるという確信を必要とせず、起こるかもしれないという恐怖のみを必要とする。これらの評論家たちは、ロシアを抑止する能力が、ロシアに抑止されるという重荷から私たちを解放すると信じているようだ。衝突のリスクが相互に関係していることを理解せずにチキン・ゲームをするのと同じ」なのである。

NATO諸国の兵器製造能力は、既に限界
 NATOはウクライナが必要な兵器弾薬を供与すると言うが、現在のNATO諸国の兵器製造能力は、既に限界に近い。実際に起きているような消耗戦は想定されていないので、例えば、砲弾の製造企業は多くなく、フル稼働しても供給は追いつかない。兵器弾薬をさらに大量に製造するためには、軍事産業自体を巨大化し、必要な量を製造させなければならない。させねばならない。それは当然のように、さらなる軍事費の増加が必要となり、その方針を全面に出せば政権は選挙で勝てるはずはなく、現在でも起きている政治的急変を引き起こす。それに対し、ロシアは既に戦時経済体制を構築している。NATO諸国が強力な兵器を供給すれば、それに応じて、ロシアも強力な兵器を投入できる政治経済体制が構築されている。勿論、それは西側が権威主義体制と言うように、プーチン政権の強権的性格が可能にしている。だから、プーチンは余裕の笑顔を度々見せるのである。

兵員不足は解決できない
 さらには、例え、ウクライナが必要とする軍事力を供給できたとしても、ウクライナには戦う兵士が不足している。英BBCが、その状況を伝えている。
 そこには、徴兵を忌避するウクライナ人男性を、否が応でも引きずって軍隊に入隊させるウクライナの徴兵部隊の様子が描かれている。「5月に施行された新法では、25歳から60歳までのすべての男性に、召集に備えて電子データベースに自分の詳細を記録することを義務付けている。兵役を望まない男性を潜伏させるケースが増えているので、徴兵担当官は登録を逃れる者を捜索している」という。「『盗賊』にたとえられる徴兵官に「捕まる」のが怖い 」と徴兵忌避者は言う。お国のために戦え、と言われても、そこには確実に死か重症が待っている。軽傷を負っても、傷が治れば何度でも徴兵されるからである。土台、お国のために喜んで死ぬ、と言う者は、多いはずはない。

「ウクライナのNATO加盟」は絵空事
 NATO首脳は、ウクライナのNATO加盟は「不可逆な道」だと言うが、この「ウクライナのNATO加盟」自体が、ロシア側の絶対に容認できないことであり、ロシアの反発を引き起こす最大の要因なのである。それは「ロシアが2021年12月に提出した条約草案や、2022年3月と4月に行われたイスタンブール交渉と同様に、いかなる解決策も必然的にウクライナがNATOに加盟しないことを条件としている。」そのことは、NATO首脳も暗に理解していることであり、NATO加盟への時期や方法といった具体的な道筋をまったく言及していないことにも表れている。
 ロイター(7月17日)によれば、元大統領のメドベージェフは、「ウクライナのNATO加盟は、ロシアへの宣戦布告」だと言ったが、そのためにロシアは戦争をしているのであり、「ロシアにウクライナの加盟を阻止するために紛争を長引かせる動機を与えることに」しか繋がらない。

 プーチンはさえ失脚すれば(恐らく、ゼレンスキーの失脚の方が早いだろう)、ロシアは侵攻をやめるなどと考えるのも、現実を完全に無視している。独立系のメディアの世論調査でも、「ロシアは勝たねばならない」というはロシアは国民は70%から80%にのぼる。メドベージェフ元大統領のように、プーチンより強硬な政治指導者は数多い。
 もし本当に、軍事力でロシアの進攻を止めると考えるならば、ロシアの軍事経済体制をも破壊しなければならない。それは、第二次世界大戦での日本やドイツのように、国土を完全に破壊するということである。勿論、その時は、核戦争になり、ロシアも西側も完全に壊滅する。

 結局のところ、NATO諸国は、「(ウクライナに)偽りの希望を与え、和平の可能性を低くし、戦争をより危険なものにしたのだ。別の種類の、現実主義に満ちた首脳会談であれば、ウクライナは自らが定義してきた勝利という壮大な意味では勝利できないこと、そしてNATOはウクライナを守らないことを認めただろう。」 

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