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根源的な感情と関係するもの

 建築家の磯崎新さんは、日本人はキッチュな造形を好む感覚を持っているといいます。もともと日本人の感覚では、驚嘆した時にでる「めずらしい」「見たことがない」「おやっと思う」ことが「美しい」ということでした。これは驚嘆したときにビューティフルというようないい方をする英語の感覚ともかなり似ている*01といいます。どちらも人間の感情や反応から出た言葉ですが、キッチュなものには、「見る者」が見たこともない異様なものや「意外な組み合わせ」「ありえない組み合わせ」、あるいは、「見る者」にとって異文化に属するものや、時代を隔てたりしているものなども含まれています。それらのものに接した時の人々の反応は、いずれも環境世界の具体的な経験に直結した「根源的な感情」と密接に関係しているといっていいでしょう。
 
人類誕生の時から受け継がれてきた「世界に存在し、反応する」ために必要な根源的な感情。それは現実の環境世界の中で、生き物たちが自身の直面する事態の意味を理解し、それに対処するために「判断することなき合理的考慮」すなわち「感情」を必要としたことから生まれてきたものでした。その感情をもって環境世界に存在し、反応し、自分で考え、行動する究極の存在が人間です。人間は、環境世界に「意味」を見いだすだけではなく、自分自身の〈内部〉に「意味」-すなわち「意志」を見いだす唯一の存在といっていいでしょう。しかしこの〈内部〉に「意味」を見いだす高次のレベルの振る舞いも、より下層に位置する「根源的感情」という振る舞いのレベルを包摂する関係にあるのです。高次のレベルが機能するかどうかにかかわりなく、低次のレベルは働き続けているのです。
 
哲学者の渡邊二郎さんは、「美しい」ものは、主観的な「意識現象」や「表象」を越えて、客観的な現実のなかから、立ち現れ、私たちを虜(とりこ)にする*02といいます。すなわち「美しいこと・美」とは、一般に「良いこと」「快いこと」であり、人間のもつ根源的な、すなわちより下層レベルの振る舞いである「感情」と密接に関係しているのです。キッチュなものもこの「根源的な感情」と密接に関係しているのです。


生き物たちに共通の「根源的感情」
*01:「しるし」の百科/荒俣宏/1994.10.15 河出書房新社
*02:渡邊二郎著作集-芸術と美/渡邊二郎/筑摩書房 2011.02.15

 

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