和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

紹介は不要。

2013-09-27 | 短文紹介
平川祐弘氏を、肩書きなど関係なくして、
どなたかに紹介しようとするなら、
これかもしれないなあ、と私が思う箇所。

「美智子さまが皇后になられてからの御歌集『瀬音』は平成9年、箱入布製で出た。・・・『瀬音』は不朽の歌集である。・・・私は昭和・平成の御代をこの皇室とともに生きたことを嬉しく思う。『平川君はそのようなことを公然と言うからA新聞やI書店に睨まれるのだ。君はインテリ失格者とみなされている』。世故(せこ)にたけた友人がそう注意してくれたが、私は世の小インテリからどう思われようと構わない。自分は自己の感情に忠実に正直に語りたい。そのような言論の自由のある日本に生きることを私は国民の一人として『生けるしるしあり』と有難く感じている。」(「書物の声歴史の声」p114~115)


ところで、平川氏が語る外国の図書館は、
その視点がおもしろいので二箇所を引用。


「それにしても遠来の学者を先ず図書館へ案内するのは心憎い。トロント大学へ招かれた時も図書館へ案内されほとほと感心した。カナダでトロントとヴァンクーヴァーに日本関係書物は揃っていると聞かされていたが、私の著作もずらりと揃っており、多少気恥ずかしかった。というのは私が長く勤めた東大にも平川の書物はこれほど揃ってはいなかったからである。東大では佐伯彰一元比較文学主任の本も完全には揃っていない。図書購入責任者の助手の中には西洋の『原書』を揃えるのが自分の使命だと思い込んでいる度し難い人もいる。そんな事があって以来、私は日本の他大学で講演に招かれる時『講演に先立つ平川の紹介は不要、その代わりに図書館に平川の書物を揃えておいてくれ』ということにしている。」(p99「書物の声歴史の声」)

うん。せいぜい、私の本棚には、私でも買えるくらいは(笑)、平川祐弘氏の著作を揃えようと思っております。

図書館についてでは
平川祐弘著「開国の作法」(東京大学出版会)に
「大学町・大学図書館・大学出版局」と題して小文があり、アメリカの図書館の背景が、簡潔に要約されております(そこも引用したいのですが、長くなるので省略)。その小文のなかに、大学の紀要に関連して、谷沢永一氏の名前が登場しておりました。
そこを引用。

「・・・・そのこともあって谷沢永一教授はかつて『諸君』誌上に痛烈な紀要批判を展開した。私は谷沢氏のような歯に衣きせぬ人の発言を痛快に思ったが、それでも異論があった。氏が悪しざまに評した論文の一点が、私には逆に結構なものに思われたからである。評者の意見は時にそのようにわかれる。それだから紀要は多少費用がかかろうともやはり出した方がいいのである。谷沢氏の大学紀要はお金の無駄遣いという意見に私はくみしない。」(p99)

「世界には出版社が各地方都市に分散しているイタリアのような国と、大出版社がことごとく首都に集っているフランスのような国とがある。日本は大出版社がほとんど東京に集っている国である。人文書院が京都にあることを除けば、名の聞えた大出版社は地方にないといっても過言ではない。印刷製本会社も大手はことごとく東京近辺にある。このような日本の状況下では地方大学に勤める人はどうしても中央で認められるのが遅くなる。真に見識のある出版人であるなら、地方大学の紀要などにも目を通して、その中から秀れた論文を拾い出し、その著者に声を掛けることに生き甲斐を見いだすであろうが、そんな編集者がいまの日本にいるとはとても思われない。」(p99~100)

ちなみに、
平川祐弘著「書物の声歴史の声」(弦書房)には、
「紀要」ではないのですが、「学部報」について、
こんな箇所があります。

「68年、大学紛争が起こると、こうした時こそ大学側の考えを伝えるべきなのに、と助手の私は思ったが『学部側のみが見解を述べ、学生側に反対意見を述べる場を与えないのは不公平だ』という強硬意見が一部の教師から出、『学部報』も発行中止となった。69年7月、授業再開とともに『学部報』も自動的に再開され、私がその号に「『反大勢』の読書」という刺激的な記事を書いた。『反体制』などと学生が騒いだのも所詮時代の流行ではなかったか。『相手を反動呼ばわりすることによって自己の進歩性を証する免罪符を得ようとする傾向は性格の弱い人にしばしば見られるが、一種の怯懦(きょうだ)ではあるまいか。・・・少なくとも性急な判決を下す前に証拠書類だけは読んでおきたい。いつの年にも反時代の気骨のある少数の学生や教師や助手がいると私は信じている』。
その『学部報』で72年、私の司会で『坂の上の雲』について日本史の鳥海靖、比較文学の芳賀徹、西洋史の木村尚三郎、哲学の井上忠とで座談会をした。この企画は評判だったが、参加者が司馬史観に好意的だったことが唯物史観の教授には苦々しかったらしい。新左翼の菊地昌典助教授が『東大で「坂の上の雲」礼讃の座談会とは何事だ』といい、大岡昇平が『あなたが頭にくるのもわかる』などと『月刊エコノミスト』で対談した。・・・」(p88)

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