ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔14 七五の読後〕 【「本当のこと」を伝えない日本の新聞】  マーティン・ファクラー

2014年03月05日 | 〔 14 七五の読後 〕


【「本当のこと」を伝えない日本の新聞 】 マーティン・ファクラー 双葉新書

リタイアして十分すぎる歳月が流れた。
このタイトル名にはこの業界の窓際で暮らしていたもあって拘った。
だが読んでみたら面白かった。
ファクラーは日本留学も体験しているNYタイムズの東京支局長。
日本語ペラペラ。

特に第1章の「青い目の3.11取材記」が異彩を放つ。

青い眼が感じた日本の新聞界の奇妙さ、不思議さ、保守的体質さをチクチクと書いてある。

日本には日本的風土があり、アメリカ的ではない日本的慣習もある。
その風土のなかで育った新聞の歴史もある。
宮武外骨をひくまでもなく、近くには西山事件もあった。
青い眼の記者のようにバッサリ斬る論理には賛成できない面もあるが一貫して日本記者クラブの体質を批判している点には頷くことが多かった。
以下、雑記メモ。

● 3.11 衛星携帯でニュース送り

東京とニューヨークとの時間差は14時間。
3・11 午後二時四十六分の東日本大震災発生時はNYでは11日午前一時三十分。
首都大混乱の渦中にファクラー外人記者がいた。

● あるはずのない場所にある漁船
3月12日 am6:00 東京を出発して茨城大洗に着いたのが午後3:00:
取材開始。漁船が丘に乗り上げていた。
ありえない。

宇都宮から会津若松ルートで仙台へ向かう。


● 仙台は真っ暗闇の不気味
13日夜の仙台。
灯りは仙台駅前と市役所だけ。異様な暗さを体感。
シートベルトつけたままの遺体があちこちに。
日本の報道機関はこうした凄惨な現場写真は流さない。

● 首下は水に浸かっていた町長
南三陸の町長。
17000人の町で1万人が行方不明。
戦時戦地の光景さながら。町の孤立。

南三陸町で予測された津波の高さは、6m。
三階建ての防災対策庁舎の屋上に上がれば、安全なはずだった。
だが、実際に南三陸町に押し寄せた津波は、15mを越えていた。

● 死者数を一ケタ単位で確認し
邦人記者が死者を確認する。
その数字よりもっと伝えるべきストーリーがある筈だと現地のファクラー外人記者は違和感を覚える。
だが、数字は何よりも雄弁にものごとを語る場合も多い。

福島原発事故は刻一刻。
3月14日 3号機 水素爆発
  15日 2号機で爆発音 4号機も爆発

● 飯館は北西40キロ地点
20-30キロは避難地域指定。
40キロは自主避難地域。
「飯館」は居住者自分が判断する地域だった。
だがこの地はIAEAの避難基準数値の2倍の1㎡ 200万ベクトルの数値検出していた。

● ユーチューブ使った町長「SOS」
紙の新聞を手にできない世界中の人々がユーチューブで日本・南相馬の現状を知った。
南相馬は原発事故現場から北に25キロ地点。
桜井勝延市長が自ら情報を発信して訴えた支援。
英語の字幕つきがついている。
住民が食料やガソリン不足で大震災の「兵糧攻め」に遭っているなどと訴えた。

この相馬市記者クラブには、普段は大勢詰めている日本人記者はだれもいなかった、とファクラー記者。
全員避難の模様。

市民から「ユーチューブ」という手段があることを教えられた町長は食糧もガソリンも全く不足している市民の現状を日本語で訴えた。

やがてこの映像に英語字幕が重なった。
南相馬市長からの「SOS」の表題。
この呼びかけが、米国を初めとして世界中で大きな反響を呼ぶ。

一方、このファクラー記者はこの南相馬の状況を本社に送り、NYタイムズ1面を飾った。
タイムズ → 日本のテレビ → 日本の新聞と日本のほうが後追い報道となった。
ネットメディアの力が証明された。



● 町長と職員も津波で消えた町
地図から大槌町を探して取材に入る。
南三陸が話題になると記者がその方面にドット押しかける。
大槌町取材の記者はいない。

● ファクラーはAP会社に電話稿
被災20キロではネット繋がらず、ファクラーは大震災緊急時を考えAP社に電話草稿を送っている。
APからニュース配信をして日本の大震災を広めようとしているわけで、日本では先ず考えられない。
新聞記者が共同や時事の配信会社に電話草稿して記事を送るということは利敵行為と同じに受取る感覚がある。
その点、米の記者にはその門戸が開いているようだ。

AP通信は、米国内の放送局や新聞社の協同組合。各社はAP通信を通して記事を配信すると同時にAP通信から記事の配信を受ける。アメリカ国外の新聞社や放送局はAP通信の加入者であり、協同組合のメンバーではないのでAPの記事配信に対して料金を支払っている。



● WATCH DOGである米報道
Watch dog は「番犬」。
だが日本人が受ける「番犬」ニュアンスとはだいぶ違う。
国家権力の不正を見つければペンを武器に噛みつく。

番犬は国家権力への監視者であることが米記者たちの共通認識であり、こうした点から日本の記者クラブの在り方に強い違和感をかんじるファクラー記者の眼。

確かに「ウオーターゲート事件」で見せた米新聞社間の連携に目を見張ったことを覚えている。

● 10日経ち拡散予測を公表し
福島第1原発事故で放射性物質の拡散を予測するSPEEDIの情報が10日経って公表された。この非公開に浪江町・馬場町長は「殺人と同じだ」と怒りの抗議。

The withholding of information , he said was akin to "murder"

政府による情報の隠蔽は殺人と同じだと
国民のパニックを懸念したからと時の細野首相補佐官。

浪江町では、多くの住民が放射線量が高い北西方向に避難して被ばく、何度も避難先の変更を余儀なくされ、79人が死亡。

● 60日経てメルトダウン認め
東電が1号機のメルトダウンを認めたのは5月12日。
当初から原子炉燃料棒の損傷の疑いなどでグレーにしていた。
あの頃、NHKなどの報道解説も歯切れが悪く、新聞報道も東電、政府発表に対して検証する記事が少なかったと思うがどうだろうか。
メルトダウン認知まで2ヶ月という空白は重い。
「推測される」「可能性が高い」という表現はプレスリリースをそのまま報道する際の官僚用語。
噛みつく姿勢、検証する角度が大事ということか。

● 情報を独り占めする記者クラブ
記者クラブの詰所には新聞加盟社以外は入れない。
ファクラー記者は日本の記者クラブの情報寡占化に強い疑いの目を向けている。
在日の外人記者やフリーランスの記者などクラブに入る余地はない。
いわば村八分だ。
日銀総裁など枢要な人物の記者会見にはクラブ幹事社の許可がいる。

お隣の韓国では03年に記者クラブを廃止している。
ネットと既存メディアの軋轢が表面化するに及んで決断したようだ。




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