少年の目を通して戦争の実体を描く
舞台は第二次大戦下の上海。スティーブン・スピルバーグ監督が、両親とはぐれ、日本軍の捕虜収容所でたくましく生きていく英国人少年ジム(クリスチャン・ベール)の目を通して戦時下の実体を描きました。
原作はJ・G・バラードの半自伝的な長編小説。『太陽の帝国』とはイギリスに代わって上海を占領した日本のことを表しています。
この当時のスピルバーグは、評論家と観客の双方からSFやファンタジー専門の監督と見なされていましたが、『カラーパープル』(85)とこの映画で面目を一新しました。
この映画には、UFOも宇宙人もインディ・ジョーンズのようなヒーローも、あるいは奇跡も一切登場しません。ここで描かれるのは戦時下という極限状態だけなのです。
ゼロ戦のパイロットに憧れ、初めは冒険をしているような感覚を抱いていたジムが、徐々に精神的に追い詰められていく姿が胸に迫ります。
ラストでジムは流浪の果てに両親と再会しますが、彼の目つきはもはや普通ではありません。それは、例えば戦争で精神を病んでしまった兵士たちの目とそっくりでした。
戦争が人間をどれだけ大きく変え、歪めてしまうものなのかということを感じさせられて、思わずゾッとするシーンです。そのせいでしょうか、最近のベールを見ると「ちゃんと大きくなって良かったなあ」などと思ってしまうのです。
ジムが透き通るような声で歌うイギリスのウェールズ地方に伝わる子守歌「SUO GAN」が耳に残ります。ファーストシーン、終盤の重要なシーン、そしてラストシーンでも流れますが、それぞれが全く違う意味を持った曲として見る者の心に響きます。この映画のテーマ曲ともいえる曲です。
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