MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『月』

2024-05-17 22:30:58 | goo映画レビュー

原題:『月』
監督:石井裕也
脚本:石井裕也
撮影:鎌苅洋一
出演:宮沢りえ/磯村勇斗/長井恵理/大塚ヒロタ/笠原秀幸/板谷由夏/モロ師岡/鶴見辰吾/原日出子/高畑淳子/二階堂ふみ/オダギリジョー
2023年/日本 

ただ生きて行くことの困難について

 時代設定は2016年5月頃で、主人公の堂島洋子は有名な小説家だったのだが、スランプに陥り重度障害者施設で職員として働き始める。洋子の夫の昌平は趣味として映像を制作しているのであるが、プロとして認められることがないままマンションの管理人として働き始める。
 洋子は1974年7月26日生まれなのだが、同じ年月日に生まれた女性を担当することになるものの、彼女は誰ともコミュニケーションを取ることができず、暗い一人部屋に閉じ込められているような状態だった。
 そのように人とコミュニケーションができない人を「粛清」しようと企んでいるのが「さとくん」と呼ばれている職員である。さとくんの彼女は聾唖者なので、障害者を一掃しようと目論んでいるわけではなく、あくまでも意志の疎通が取れない重度障害者がターゲットである。
 昌平の作品がフランスの小さな映画祭で賞を獲ったと洋子と喜んでいるシーンと、さとくんが次々と施設の障害者を殺していくシーンがクロスカッティング(並行モンタージュ)で描かれているのが印象的である。結局、生きている限り誰でも何らかの役割を果たすことが求められており、ただ生きているだけでは認められないのが世間なのだから、さとくんの主張は否定しにくいのである。
 洋子でさえ新しい小説を完成させられたから自己嫌悪から逃れられたのであり、さとくんのようにいつまでも自己嫌悪から逃れられないのであるならば、自分と「似た」ような重度障害者を殺したくなる心理は理解せざるを得ない。さとくんに重度障害者を殺す権利や義務など無いはずなのだが、施設職員という肩書きが彼の言動を正当化させてしまっている嫌いはある。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/otocoto/entertainment/otocoto-otocoto_113759


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