MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

記録よりも記憶の風潮について

2018-05-31 00:09:38 | Weblog

 2018年5月27日付毎日新聞の「『18歳成人』に思う」というコラムで、作家の下重暁子が「『幼児化』の風潮 改めて」というタイトルで寄稿している。一部、引用してみる。

「時代はますます親離れ、子離れができなくなっています。私が子どもの頃、高校の入学式に親が来るなんて恥ずかしいものでした。今や大学の入学式や卒業式にも親が来る。どうかしています。親世代が幼児化して子離れができないのです。」

 この手の話を聞いていつも思い出すのが、かつて日本の首相も務めたこともある橋本龍太郎のことで、1963年の衆議院選挙で初当選した26歳の橋本は母親に付き添われて初登院したのである。つまり日本人が親離れ、子離れができなくなっているのは昔からなのである。
 ちなみに「草食系男子」という言葉は今のものではあろうが、その概念は昔からあるもので、『恋のつむじ風』(鍜治昇監督 1969年)を観ればわかる。要するに人の記憶というものは本当に当てにならないものなのだが、何故か記録よりも記憶が重視されているのが今の安倍政権で、案の定混乱続きである。


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『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』

2018-05-30 00:56:52 | goo映画レビュー

原題:『Stronger』
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本:ジョン・ポローノ
撮影:ショーン・ボビット
出演:ジェイク・ギレンホール/タチアナ・マスラニー/ミランダ・リチャードソン
2017年/アメリカ

ヒーローになるための「腹の括り方」について

 『ホース・ソルジャー』(ニコライ・フルシー監督 2018年)の原題が「12人の強者(12 Strong)」ならば、本作はさしずめ「ボストンの強者」となるだろうが、本作の原題は「より強く(Stronger)」である。
 主人公のジェフ・ボーマンがガールフレンドのエリン・ハーレイと付き合ったり別れたりを繰り返している原因はジェフが一緒に暮らしている母親のパティにジェフが頭が上がらないからであろう。
 ジェフの証言によって爆破テロの犯人が逮捕され、ジェフは一躍ヒーローとしてボストン市民のみならず、世界中から喝采されプレゼントが届くようになるのだが、両足を失ったジェフの気持ちが世間に追いつかない。その上、ジェフに対して世間の期待に応えるように仕向ける母親のパティと、世間に惑わされずに静かに暮らすことを勧めるエレンが対立してジェフはますます混乱してくる。
 そんな時にジェフが出会ったのが、彼を最初に救出したカルロスで、彼は長男をイラク戦争で、次男を自殺で亡くしていた。エレンが妊娠していたこともあって、もはや自分の人生が自分一人のものではなくなっていることを悟ったジェフは、それまでいい加減にこなしていたリハビリに真剣に取り組むようになり、急ごしらえのボストンのヒーローは本物のヒーローらしくなっていくのである。


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『ホース・ソルジャー』

2018-05-29 02:10:11 | goo映画レビュー

原題:『12 Strong』
監督:ニコライ・フルシー
脚本:テッド・タリー/ピーター・クレイグ
撮影:ラスムス・ビデベック
出演:クリス・ヘムズワース/マイケル・シャノン/マイケル・ペーニャ/トレバンテ・ローズ
2018年/アメリカ

「青空が違う」

 2001年にアフガニスタンにおいて12人のアメリカ人が馬に乗って戦ったという物語は実話としてとても興味深いものがあるものの、やはり戦車やロケットランチャーを前にしては馬といえどもいささか「出落ち」の感が拭えず、結果的に、どこかで見たことがある光景になってしまっていると思う。
 むしろ見どころは一応の戦闘が終わり、主人公のミッチ・ネルソン大尉の家の庭が映された瞬間にあるだろう。ミッチの帰りを待っている妻のジーンと娘のマディーがいるその庭のカラフルさを見た時、それまでモノクロの映像を観ていたのだろうかと観客に錯覚させるのである。つまりいかにアフガニスタンに「色」がないのかと驚かされるのである。
 確かにベン・マイロ一等軍曹にチュッパチャプスを貰ったアフガニスタンの少年のナジェーブはその食べ方さえ知らないのであり、同時代に生きる子供たちが見る景色のあまりの違いの大きさに驚かされるのである。
 エンディング曲の「It Goes On」を和訳しておきたい。

「It Goes On」 Zac Brown & Sir Rosevelt 日本語訳

君の心が限界をむかえ
まるで真夜中に吸うタバコのように支えがなく
夜が終わらないのではないかと感じる時
あの孤高の風がもう一度眠れと君に歌いかける

河が深海に流れるように
果たせないような約束を僕はしないよ

例え僕たちがいなくなっても
それは永遠まで続いていく
僕たちはいつまでも一緒で
曙光が昇るまでそれは続くんだ

君の心が浮ついて
色あせた古いタトゥーのようにじわじわと消え去り
毎日が同じように感じる時
あの孤高の風が歌い続けてくれるだけで
君の痛みは和らぐだろう

それは君が壊せない絆のようなものなんだ
宇宙にある全ての星を見上げるようなものだ

例え僕たちがいなくなっても
それは永遠まで続いていく
僕たちはいつまでも一緒で
曙光が昇るまでそれは続くんだ

僕の家に帰る方法を見つけるために
時間の砂を掘っていけば
君の思い出は僕を捉えて離さないものになる
僕は一人ではないことが分かるし
弾丸が交錯する谷を通るような最悪の日々でさえ
僕たちは血の絆でさらに固く結ばれる

例え僕たちがいなくなっても
それは永遠まで続いていく
僕たちはいつまでも一緒で
曙光が昇るまでそれは続くんだ
曙光が昇るまで僕たちは一緒なんだ

Zac Brown & Sir Rosevelt - It Goes On (Official Lyric Video)


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『孤狼の血』

2018-05-28 02:13:08 | goo映画レビュー

原題:『孤狼の血』
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
撮影:灰原隆裕
出演:役所広司/松坂桃李/真木よう子/ピエール瀧/滝藤賢一/江口洋介/竹野内豊/石橋蓮司
2018年/日本

「汚さ」に隠れてしまう「良心」について

 時代設定は昭和63年で「平成前夜」である。『仁義なき戦い』(深作欣二監督)が上映された1973年から「実録シリーズ」として撮られてきたやくざ映画は平成3年の暴力団対策法の成立によってだんだんと「実録」が面白くなくなってきたのは間違いないであろう。さらにインターネットの普及によって「記録」が丁寧になされるようになってからますます面白みに欠けたものになったはずで、例えば、日岡秀一の調書に大上章吾が感想を書くなどという行為は今ではありえないだろうし、しばしば舞台の一つとして出てくる「豚小屋」にしても、今ではオートメーション化されてかつてのように汚くはなくなっている。
 『
彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)も傑作だったが、白石監督は「汚い」映画を撮ることに長けているように思える。どちらの主人公も「汚い」のだが、結局一番良い人間なのである。いずれにしても本作を観るならば豚のケツの穴から糞が出るシーンを見る覚悟が必要になるのだが、この意外とショッキングなシーンを含む本作は何故か「R-18」ではない。


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『娼年』

2018-05-27 01:54:05 | goo映画レビュー

原題:『娼年』
監督:三浦大輔
脚本:三浦大輔
撮影:Jam Eh I
出演:松坂桃李/真飛聖/冨手麻妙/猪塚健太/桜井ユキ/小柳友/西岡徳馬/江波杏子
2017年/日本

「風景」の重要性について

 ようするに『のみとり侍』(鶴橋康夫監督 2018年)の現代版である。主人公で20歳の大学生の森中領がバイトをしているバーで知り合った御堂静香に誘われて彼女がオーナーを務めている秘密の会員制クラブ『クラブ・パッション(Le Club Passion)』で娼夫として働くことになる。
 最初に印象的なシーンについて書いておきたい。領の部屋にはプラトンの『パイドロス』がある。その後、仕事で眼鏡をかけたキャリアウーマンであるイツキという女性とレストランで会食している時に、再び『パイドロス』の話題になる。まずは『パイドロス』から引用してみる。

「ソクラテス:ここから横にまがって、イリソス川にそって行こうではないか。そこから、どこかいい場所があったら、腰をおろして静かにやすむことにしよう。
 パイドロス:私は履きものをはいてこなくて、どうやら、ちょうどよかったようです。あなたのほうはむろん、いつものことですからね。これだと、私たちがこのせせらぎにそって足を濡らしながら行くのはいともたやすいことですし、それに、まんざら悪くはありませんよ。とりわけ、この季節のこんな時刻にはーーー。
 ソクラテス:それでは、さあ案内してくれたまえ。そして歩きながら、腰をおろす場所をさがしてくれたまえ。
 パイドロス:
ほらあそこに、ひときわ背の高いプラタナスの樹が見えますね。
 ソクラテス:うむ、見えるとも。
 パイドロス:あそこには日陰もあり、風もほどよく吹いています。それに、草が生えていて坐ることもできるし、あるいはなんでしたら、寝ころぶこともできます。
 ソクラテス:では、そこへ連れて行ってもらおうか。」(『パイドロス』プラトン著 藤沢令夫訳 岩波文庫 p.13-14)

「ソクラテス:......それにまた、ここを吹いているよい風はどうだ。なんとうれしい、気持のよいそよぎではないか。それが蝉たちのうた声にこだまして、夏らしく、するどく、ひびきわたっている。......」(p.17)

 何と二人は『パイドロス』のメインテーマである「恋(エロース)」ではなく、上に引用したような自然の描写に関する会話で盛り上がるのである。『パイドロス』に関してこんな薄っぺらい感想を初めて聞いたように思う。だからストーリーも領のマザコンがテーマになっているのだが、「御座なり感」が拭えない(念のために付け加えておくならば原作はプラトンを好きな理由を丁寧に説明している。集英社文庫 p.110)
 しかし作品自体は悪くはない。本作はかつての日活のロマンポルノのエッセンスを上手く取り入れていると思う。つまり名シーンを組み合わせたような作風で、「尿」や「精液」や「潮」の吹き出し方が多少オーバーにも見えるのだが、これも日活ロマンポルノの「伝統」だったと思う。できればかつて『純』(横山博人監督 1980年)で新幹線内で青年を強姦する女性を演じた江波杏子にもう少し頑張ってもらいたかった気がしないでもない。


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『のみとり侍』

2018-05-26 00:56:35 | goo映画レビュー

原題:『のみとり侍』
監督:鶴橋康夫
脚本:鶴橋康夫
撮影:江﨑朋生
出演:阿部寛/寺島しのぶ/豊川悦司/斎藤工/風間杜夫/大竹しのぶ/前田敦子/桂文枝
2018年/日本

「正確性」の欠ける時代劇について

 時代設定は将軍だった徳川家治が亡くなり、田沼意次が失脚した時だから天明6年(1786年)で、越後長岡藩の藩主は牧野忠精なのだが、忠精は1760年生まれだから天明6年の夏は25歳で、そうなると忠精を演じた松重豊は年を取り過ぎており、キャスティングの仕方が謎である。
 時代劇は時代考証をしっかりするものだと思っていたので意外で、もっともコメディ映画なのだから必ずしも正確性は求められていないのだろうが、どうも主人公の越後長岡藩の勘定藩士の小林寛之進に同情できない。最初は「のみとり」として下手くそとなじられたものの、その後は亡き妻の千鶴にそっくりなおみねをテクニックを駆使して抱き放題なわけで、けっこう良い身分なのである。
 一番の疑問は寛之進が捕らえられて再び忠精の前に突き出された際に、馬に蹴られて記憶を失っていた清兵衛が寛之進を見て記憶を取り戻すのであるが、その時、額の大きく負った三日月型の傷がラストできれいに消えてしまっていたことで、どうも脚本や演出にこだわりがないだけストーリーに緩さを感じてしまう。


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『合葬』

2018-05-25 00:44:26 | goo映画レビュー

原題:『合葬』
監督:小林達夫
脚本:渡辺あや
撮影:渡辺伸二
出演:柳楽優弥/瀬戸康史/岡山天音/門脇麦/桜井美南/りりィ/オダギリジョー
2015年/日本

洋楽が流れる日本版「アメリカンニューシネマ」について

 慶応四年(1868年)の鳥羽・伏見の戦いが終わり、「江戸」そのものが終わろうとし、新政府と将軍慶喜を援護する目的で結成された「彰義隊」が一触即発の中、主人公の吉森柾之助に緊張感は感じられない。養子だった柾之助は事故死のような形で死んだ父親の敵討ちを母親たちに強いられ、行く宛てがなかったために彰義隊に入ったような感じで、いわゆる「ノンポリ」で、むしろ松源楼の女将の姪の「かな」に夢中で、刀代として渡されたお金でかなにプレゼントするかんざしを買ったのだが、かなは秋津極に夢中で、かなに頼まれた極宛ての手紙を破り捨てた柾之助はかんざしを遊女に渡してしまう。
 一方、秋津極は最初から将軍のために死ぬ気で、だから許嫁だった福原家の福原砂世と別れてしまうのであるが、一緒に活動している柾之助は相変わらず呑気で、茶碗の中で二人の武士が刀剣で切り合うところをただ眺めているのである。
 ところが開戦するとすぐに彰義隊は劣勢を強いられ、幼なじみの福原悌二郎の死体を見てようやく柾之助は現実の厳しさを思い知るのである。辛うじて柾之助と極は逃げ切れたのであるが、逃亡を潔しとしない極が切腹する様子を柾之助はただ眺めていることしかできないのである。


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「It's All Behind Us Now」 Barry Manilow 和訳

2018-05-24 00:19:17 | 洋楽歌詞和訳

 西城秀樹のシングル「腕の中へ(In Search of Love)」のカップリング曲は同じく

バリー・マニロウの曲「愛の翼(It's All Behind Us Now)」のカヴァーである。以下、和訳。

「It's All Behind Us Now」 Barry Manilow 日本語訳

この世界には僕のことを気にかけてくれたり
僕を愛してくれるような人がいることを教えてくれる人が
存在することが不可能なのではないのかと
人生の大半を使って僕は考えていた

今僕を抱きしめている君の瞳を見つめていると
君も孤独だったということが分かる

僕たちは長い間孤独だったけれど
全ては過去のものになった
僕たちが悲しい歌を歌った時の誰も聴いたことがない言葉も
全ては過去のものになったんだ

僕が愛を探す度に
愛は他所を見ていた
今愛は振り返って
僕に微笑みかけている
今僕を愛してくれる人が現われたんだ

僕を抱きしめてくれる人がいない時の月夜よ
僕たちをしっかり見て欲しい

僕が愛を探す度に
愛は他所を見ていた
今愛は振り返って
僕に微笑みかけている
今僕を愛してくれる人が現われたんだ

全ての夢が現実と化し
今僕は君をそばに引き寄せる
終わりの無い幸せ
僕はまた生きがいを感じる
それは突然で何時の出来事かが思い出せないほど

僕が愛を探す度に
愛は他所を見ていた
今愛は振り返って
僕に微笑みかけている
今僕を愛してくれる人が現われたんだ
今僕を愛してくれる人が現われたんだ


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「In Search Of Love」 Barry Manilow 和訳

2018-05-23 20:10:17 | 洋楽歌詞和訳

Barry Manilow - In Search Of Love

西城秀樹さん 再ランクイン続出に讃える声「やっぱ天才だよ」
西城秀樹さんヒット曲5曲、オリコン週間ランキング急上昇…「ブルースカイ ブルー」など
西城秀樹さん 『ザ・ベストテン』“唯一の満点”の凄さとは
“兄貴”野口五郎が弔辞…26日西城秀樹さん告別式は名曲流す“ヤングマン葬”

 西城秀樹はバリー・マニロウ(Barry Manilow)からのオファーで「腕の中へ」という

デュエット曲を1985年にリリースしている。以下、和訳。

「In Search Of Love」 Barry Manilow 日本語訳

誰かがいるはず
この世界に誰かがいるはず
地球上には僕のためだけに彼女がいたんだ
彼女の愛はどこにあるのか?
僕は除外されてはいない
僕には本物の愛情が必要なんだ
もしも与えられないのならば
何のために生きればいいのか?

だから僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない
僕は手を伸ばして
愛を探している
僕は一人で長い間探している

僕はおかしくなりそうだ
涙や孤独から
僕を助け出せるのは君だけだ
告白しなければならない
昼だろうと夜だろうと
心が孤独な時間があってはならないんだ
僕には耐えられない

だから僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない
僕は手を伸ばして
愛を探している
僕は一人で長い間探している

僕を懇願させないで欲しい
僕に言い訳させないで欲しい
とにかく進めて僕が必要としているものを与えて欲しい
僕を自由にして欲しい
僕に答えて欲しい
君を呼んでいる僕の声が聞こえないのか?

僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない

僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない

僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない

僕は手を伸ばして
愛を探しているんだ
君は僕が夢で見ている全てなんだから
諦める訳にはいかない


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『リズと青い鳥』

2018-05-22 00:15:06 | goo映画レビュー

原題:『リズと青い鳥』
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
撮影:高尾一也
出演:種﨑敦美/東山奈央/藤村鼓乃美/山岡ゆり/杉浦しおり/黒沢ともよ/朝井彩加
2018年/日本

青とピンクの絶妙なハーモニーについて

 本作は2つのスタイルで描かれている。一つは北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美の物語で、もう一つは希美がみぞれに渡す『リズと青い鳥』という絵本である。メインストーリーは山田監督のいつものタッチで青みを強調して描かれていると思うが、『リズと青い鳥』の物語はまるでジブリ作品のようなタッチでピンクを強調して描いており、そこに山田監督の野心が感じられる。
 さらにストーリーも良く練られており、友人を束縛する者とされる者が最後で逆転するという展開は、本当にあの『けいおん!』(2011年)の吉田玲子が書いたのかという巧みさである。
 しかし本作をアニメーション監督の山本寛が自身のブログで「結論から言うが、山田尚子の仕事としては最低の映画だ。なんかもう、やる気がないというか、ちょっと、病んでるんじゃないの?と思うくらいだ。映画で愚痴を聞かされているように感じた」と評しているから驚く。山本は「僕は登場人物が、みんな自殺するんじゃないか?とすら思えてしまった。それくらい出てくる少女も、指揮をしている顧問も、生気がない。」とも書いているのであるが、確かフランス新印象派の画家のジョルジュ・スーラ(Georges Seurat)も当初は描かれた人物像に生気が感じられないと非難されていた。


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