治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

福祉も変わらざるを得ない

2011-03-27 08:26:30 | 日記
震災の後、多くの講演会が中止になり
てっきり3月26日の私の講演会も中止になると思っていました。
けれども意外なことに主催者様から、予定通り行うというご報告が。
こういうときに中止にならない講演会の講師を務めさせていただくのも何かのご縁かと思い
内容を大幅に変更して行いました。

もともとこの講演を頼まれたとき
発達障害のグレーゾーンで、少し支援につながれば二次障害を防げるのに
親も本人も「障害」という言葉を前に引いてしまい、支援を受け入れられない現状をどうにかしたいのだというのが企画意図の一つだと聞いていました。

私は従来から、高機能の人もまた支援を受けるべきだけれども
それはなるべく自立した地域生活を送ることを目的とするためであり
特別支援教育を受けたあげくに福祉の中で生きることを奨励するのは筋が通らないと考えてきました。

もちろん知的・情緒・身体的側面の重症度により事情は違います。

昨日はまず「発達障害は治らない」と言い切る以上
グレーゾーンの人が支援を受け入れる気になるわけがないという話をしました。
そして発達障害がスペクトラムであることは誰も否定しないのに
どうして治るか治らないかで議論が起こるか不思議だと言いました。
スペクトラムならば、重い人は治癒してもまだ自閉圏にいるでしょうが
軽い人は健常の域まで突き抜けることだってありそうなものなのに。
実際にDSM-V作成の議論の途中では、自閉症の寛解例とアスペルガーの鑑別を入れるかどうかが議題にのぼったという話を日本語の媒体で読みましたが
なぜこういう話が広がらないのか不思議です。

治る治らないの神学論争はともかく
高機能の人にも支援策が与えられるべきではあるけれども
それは社会全体の生産性を上げることを目的とすべきだという以前から抱いていた信念を
私はこの震災で改めて強くしました。

今この国では
誰もがベストパフォーマンスをしなくてはいけません。
だからそれに寄与するであろう脳みそ先生の本からも、ちょっと先出しして話題提供しました。
今度の本の目的は、自閉症の脳はああだこうだというだけではありません。
どうやって不便な脳のパフォーマンスをよくするかが最大の目的です。

質疑応答を30分取ってくださいといわれていて、そんなに間が持つかなと思ったのですが
実際には時間が足りなくなるほど活発な話し合いがありました。

途中で瀧澤久美子さんが前の方に出てこられたので、何か話がなさりたいのかと思い振りましたが
数十年にわたり、横浜での障害者地域生活支援に携わっている瀧澤さんの言葉は
さすがに重みがありました。

何もない時代から、支援のある時代へと
親御さんたちが自らの手で、行政と交渉し、築いてきた地域支援。
知的障害のない発達障害の人に対する支援の要請も、保護者側支援者側でまとめ
行政と話し合いの場を設けてきた。
でも今はいったんそれをキャンセル。

これまで出してきた支援の要請は
今この事態に置いては、とても「長閑」に見える。
戦争があれば、社会のプライオリティは変わる。
それと同じように、この震災の後では、プライオリティは変わらざるを得ない。

瀧澤さんのところにも、被災地から毎日何本も救助要請のメールが届くそうです。
神奈川県はいわき市に支援物資を運び、知的障害者の方たちを連れて帰ってきました。
そうした動きは全国の自治体がこれから行うでしょう。

そういえば昨日は、知的障害があるということはどういうことか
脳みそ先生の受け売りを話しましたよ。

神田橋先生は
知性はもっとも汎用性の高い能力だから、そこに障害があると不便だけれども、生体というのは必ず代償機能を見つけるとおっしゃっていましたね。(「発達障害は治りますか?」の中で)

脳みそ先生は
知能検査というのは人間の脳みそのごく限られた部位の能力を測定しているだけで、今のところ測定できない能力が知的障害のある人にもいっぱいあるんだ、と教えてくださっています。

昨日の参加者の中には、知的障害を持つ障害のお子さんの保護者もたくさんいらして、最後のスタンプ会のとき「元気をもらいました」と言っていただきました。

また重度の知的障害のあるお子さんを持つお母さんが
「浅見さんが講演の中で、ヒマだと脳みそを有害なほうに使うと言ったときに、そうそう、と大きくうなずきました。うちの子は震災で作業所が休みの間はテレビの怖い映像を見て調子を崩していましたが、作業所が始まり仕事をするようになると安定しました」とおっしゃっていました。

だからね、生産活動を伴う居場所が必要なんです。
横浜だけじゃなくてね
岩手にも、宮城にも、福島にも。

写真はラガーマン一家の参加者の方からいただいた菅平キティちゃんです。
高機能のラガーマンの中学生がいらして、ラグビーも身体づくりや気分転換にとても役立っているそうです。

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