スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

理性と感情&真理の規範による手続き

2017-07-19 19:21:07 | 哲学
 知性が反知性と対峙するときに犯してしまう失敗のひとつに,徳と欲望を必然的に対立すると判断してしまうことがあります。実際にはこれは誤りなのであって,徳virtusと一致するあるいは親和的である欲望cupiditasも人間にはあるのです。そしてこの過ちは,さらなる過ちを犯す危険性を秘めています。あるいはこの過ちを犯す場合には,必然的にさらなる過ちへと進むであろうといっていいくらいかもしれません。
 もし徳が知性を代表し,欲望が反知性を代表するものであったとしたら,知性を代表する側は,徳を称揚し,欲望を否定することになるでしょう。したがって欲望は排斥されるべきもの,あるいは統御されるべきものとしてみなされることになります。そしてそれは何によって排斥されまた統御されるべきであるのかといえば,ここでは徳が知性を代表するものとみなされているのですから,当然のようにそれは徳によって排斥され統御されなければならないということになるでしょう。
 しかしこの結論は,ある事柄を無条件に前提しています。いうまでもなくそれは,徳は欲望を排斥しまた統御することが可能であるという前提です。実はこのような見方は,必ずしも知性の側だけにある見方ではなく,反知性の側にも存在する見方であるということが可能です。ですがここでは知性の失敗を例示することが目的なので,知性の側がそういう見方を立て,それは誤りであるということだけを示します。
                                     
 徳と欲望の関係は,もっと一般化するなら理性ratioと感情affectusの関係に還元できます。理性は精神の能動actio Mentisですから第四部定義八により徳ですし,欲望は基本感情affectus primariiのひとつだからです。したがって理性が感情を排斥しまた統御できるという見方が暗黙裡に前提されているのであり,しかし実際にはそんなことは不可能なのです。
 これが不可能なのは第四部定理七から明白です。感情を排斥しまた統御できるものがあるなら,それはその感情より強力な相反する感情でしかないからです。知性が犯すこの誤りは,別の意味で理性への過信のひとつだといえるでしょう。

 第五部定理一四証明の中には飛躍ないしは陥穽があると思うのですが,証明Demonstratio自体が成立し得ないとまでは僕が考えない理由を順序立てて説明していきます。
 第五部定理一四証明が訴求している第五部定理四の意味のうちには,現実的に存在する人間の精神mens humanaのうちには必然的にnecessario共通概念notiones communesがあるということが含まれています。共通概念は思惟の様態cogitandi modiとしては十全adaequatumです。このことは第二部定理三八第二部定理三九から明らかです。したがってそれは真理の規範になり得ます。
 すると,もし第一部定義六のように,神Deumが絶対に無限absolute infinitumであると定義されたら,第一部定理一一にあるように,神が必然的に存在するということが真理veritasであることを精神mensは肯定することになります。そして同様に,存在する実体が神だけであるという第一部定理一四が真verumであることも肯定するでしょう。そうであれば,第一部公理一の意味から明らかなように,自然のうちには神とその属性attributumそして様態modiだけが存在するのですから,すべての様態は神がなければあることも考えることもできないということ,つまり第一部定理一五が真であるということも肯定されなければなりません。よって共通概念なるものも神がなくてはあることも考えることもできないものなのですから,現実的に存在する人間の精神は,自分の精神のうちにある共通概念は,神なしにはあることができない思惟の様態であるということを理解することになります。
 確かに共通概念を現実的に存在する人間の精神が神と関連付ける場合には,絶対に無限な実体としての神と関連付けるのではなく,むしろ何らかの様態的変状modificatioに様態化した神,限りでの神と関連付けるのです。共通概念というのは一般的に共通概念として現実的に存在する人間の精神によって認識されるわけではなく,XならX,YならYという個別の概念として認識されなければならないので,それを直接的に神と関連付けるならそういう方法あるいは様式でしかあり得ないと僕はみます。ですがそれを絶対に無限な神と関連付けられないというわけではありません。認識論的な,いわば迂回のような手続きを経れば,そういう関連のさせ方も可能であると僕は考えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする